―ピーンポーン…ピンポンピンポンピンポーン…―

「っんでだよ、居ねーのかよ…。」

寛の家のアパートの前、いくらインターホンを鳴らしても出てこない相手にヤキモキした。
携帯に電話を入れても出なくて、連絡も付かない。
これじゃあケーキを片手にドアの前でひとり突っ立っている自分が馬鹿みたいだ。
…さっき俺、家に行くって言ったじゃん。

青い、アオイ、涙

〜♪〜

「もしもし?」
『あ、凛?今さっき電話くれた?』
「うん。」
『ごめん、地下鉄乗ってて出れなかった。』
「地下鉄?」
『うん、今降りたとこ。』
「どこ?」
『え?何が?駅だけど。』
「…イナグのとこか?」
『え?…あぁ、まぁそんなところ。』
「…。」
『凛?』
「っ…そうかよ、しゃーねーなぁ。もうこっちは家着いてるってのに。」
『ごめん。』
「……………なぁ、部屋上がってもいいか?泊まっていっても…。」
『え、うん…いいけど。』
にふぇー。」
『うん、鍵は…』
「分かってる、じゃあな、楽しんで来いよ。」
『え?…何をっ、ぁ…』

―プツッ―

電話を切った後、重い重いため息が零れた。
好きな人の誕生日に会えない、その理由が恋人だなんて…最悪だ。
俺が一方的に片思いしてるだけなんだから文句は言えないけれど、
こんな事なら早く好きだと言ってしまえば良かったと今更になって後悔した。
重い足を引きずって郵便受けから寛の部屋の鍵を取り出す。
中に入ると寛の家の匂いがして、余計に会いたくなった。
俺は持ってきたケーキを冷蔵庫にしまうこともしないで、そのままベッドに潜り込む。
ベッドなんて一番寛の匂いが染み付いている場所で、心臓がぎゅーっとなるくらい寂しさが押し寄せてきた。

「…泣くなよぉ、俺。」

ひとりそんな事を呟いて、布団をぎゅっと引き寄せる。
この歳になって、失恋くらいで男が泣くだなんて。
そんなの嫌だけど、でも勝手に涙が溢れてくるんだよ。
長い間好きだったから、こんな風に終わるなんて虚しすぎる。
寛、約束したじゃんよ…。
今日家に行くって言ったら、待ってるって言ったのに。

ゆくさー…。」

好きになってくれなんて言わないから、せめて約束くらいは守ってよ。
俺、楽しみにしてたのにさ。





電気も点けずに布団の中で目を瞑っていたら、いつの間にか寝ていたらしい。
玄関の鍵が開く音でうっすら意識が戻った頭は、電気を点けて誰かが部屋に入って来た事を知らせていた。

「…わっ、居たのか。」
「…。」
「電気点いて無いから帰ってしまったのかと思ったさぁ。」
「寛…。」
「どうした?具合でも悪いのか?」
「…あらん。」
「まだ8時だぞ、こんな時間に寝たら夜寝れなくなる。」

上着をハンガーに掛けながら寛が可笑しそうに言った。
寛はそのままリビングに備え付けてあるキッチンへ移動して、そこで手を洗ってから生真面目にうがいをして視線をこちらに向ける。

「っ…凛、泣いたのか?」

視力の良い寛の事だから、俺の顔に涙の跡でも見つけてしまったのだろう。
驚いた顔をしてこちらを見る寛に、しまった、と顔でも洗ってこなかった自分を悔いてもすでに後の祭りだった。
すぐに歩みよってきて隣に腰掛ける寛からは、言い訳すらも考える時間が与えては貰えない。

「泣いてない。」
やしが、それ。」
「泣いて、ねーらん…。」
「涙のあと…。」
「っ…うるせーなー、だって…っ、約束したのによぉっ…待ってるって。」
「あぁー、わっさんわっさん。」
「それなのにっ、わんとの約束ほっぽってイナグに会いに行くとか…。」
「本当は凛が来る前に帰って来ようと思ってたんやしが、思ったより帰るのが遅くなってしまって…。」
「泊まるんじゃなかったのかよ、イナグんとこ。」
「え?泊まらん、泊まらん…ただの同じ大学のどぅしやし。」
「やしが、付き合ってるんじゃないのか。」
「ううん、付き合ってないよ。今日はただ会いに行っただけ。」
「…好きなの?」
「まぁ、友達としてはな。」
「…でも、わんがイナグのとこかって聞いたら、そんなようなもんってあびた。」
「あぁ…、仲良いんさぁ、イナグだって事忘れるくらい男前のどぅしで。だからイナグみたいなもんってあびた。」
「…うーっ、もう、そんな勘違いさせるようなこと言うなよぉ…余計なこと考えたじゃん。」
「くくっ、ごめんごめん…、やしがもう凛との約束は破れないなぁ、…ちょっと時間に遅れただけでもこんな風に泣かれてしまうし。」
「…うるさいー。」
「凛に泣かれるとなぁ、自分がものすごく悪い男になった気分やっさ…ははっ。」
「…。」
「だから、泣かんけー。」

そう言って、寛は俺の頭を優しく撫でた。
勝手に不安になって、勝手に泣いて、勝手に怒る、そんな自分勝手な俺を笑って許してくれるあたたかい手のひら。
その温もりに、全ての不安がとけてまた涙が溢れそうになった。

「やしがそれだけで凛が泣くなんてなぁー、くくっ。」

ベッドから立ち上がって、寛が独り言みたいにそんな事を呟きながら笑う。
寛にとったら“それだけ”のことかもしれないけれど、俺にとったら涙が出るくらいの事だったんだ。
だから一緒になって笑う事は出来なくて、寛の背中をただ無言で見つめた。

「あ、コレなんだ?」
「…。」
「…おっ、やった、ケーキ。」
「…。」
「凛が買って来てくれたのか?にふぇー。」
「…。」
「っん、…どうした、凛?」

テーブルに置きっぱなしにされていたケーキを見つけて、一人でしゃべり続ける寛を後ろからぎゅっと抱きしめる。
無言で突然そんな行動に出た俺に、寛は困ったような声を出した。
これからもっと、困らせるような事をするけどいいかな。
ごめん、嫌だったら嫌でいいから。

「寛、…好き。」
「…。」
「好き。」
「………………凛?」
やーの事が、しちゅんでーじかなさん。」
「それは…どういう意味だ。」
「………そのままの、意味。」
「…………………どうして。」
「…。」
「どうしてバレた?」
「………なんの事。」
「どうして、…わんが凛の事好きだって気付いた。」
「…え?」
「気付いたから、こんなことしてくれたんだろう?」
「ち、がう…。」
「じゃあ、なんで。」
「…何回もあびてるあんに、好きだからって。」
「…。」
「寛こそ、それどういう意味。」
「わんのも、そのままの意味…好きって、そのままの。」
「やしがわん、イキガどー…。」
「わんだって、イキガやしが?」
「…。」
「…。」
「うわーっ、わー…っ。」
「…。」
「…じゅんになー?好きって、本当?」
「うん。」
「…わー…どうしよう。」
「…。」
「…ひ、寛ぃ…。」
「ん?」
「今ならわん、寛のものになってもいいけど。」
「…は?」
「………とぅしびかりゆし。」
「あぁ…ははっ、そういう意味か…。」
「うん。」
「喜んでお受け取り致します…くくっ。」
「…他にどういう意味があんだしよ。」
「いや、こういう意味かと。」
「ひぁっ!?うわっ、ちょ…っ、え?寛!?」
「…わんのものになってくれるんじゃ無かったのか。」
「…そんな意味で言ってねぇっ!!!!!」





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