綺麗にラッピングされた包の入った紙袋と、それから片手に抱えた花束とを一緒に渡す。

「・・・ぬーがこれ?」
「かりゆし。」

凛は受け取った枝ばかりの花束の上ですん、と鼻を鳴らし、漂う仄かな甘い香りに眉間を寄せ露骨に嫌な顔をしてみせた。

Captivated

「今更このネタかよ、いい加減飽きないばぁ?」
「ネタじゃねーらんばぁよ。」
「じゃあ、馬鹿にしてんのか。」
「してない、ちゃんといろいろ調べて3日の誕生花が桃だったから・・・。」
「・・・ふーん。」
「あと、花言葉がね、なんか今のわんの気持ちそのまんまって感じで。
やくとぅ、きっとわんがこの花束渡したとき、凛は今みたいな嫌な顔すんだろうなぁって思ったしがどうしても桃の花が良かったんばぁ。」
「・・・ふーん。」

凛はあほらしいって顔をしながら振り向いて歩き出してしまったけど、
前から小さく『にふぇー』って感謝の言葉が聞こえてきて、それからちょっとだけ花束を引き寄せるように抱え直したように見えた。
それが間違えじゃなければ嬉しいなと、自然に頬が緩む。
振り返った凛がそれを見てバツの悪そうな顔をするから、余計におかしくなって笑ってしまった。

家について早々、凛はパソコンを起動させて何かを調べだした。
どうやら花の生け方がイマイチよくわからなかったらしい。
ソファに横になりながら、適当に“そんなの花瓶に水入れて突っ込んどけばいいんじゃないの”なんて言ったら、渋い顔をされてしまった。

「つか、やーが買った時説明聞いとけよ。」
「えー、凛なら分かると思ったんだもん。」
「あんな、俺だって花なんか貰うの初めてだっつの。・・・普通いきがに花とか贈らないし。」
「・・・初・体・験。」
「ふらーっ。」
「で、なんか分かった?」
「あんま載ってねーらんばぁ、花の生け方って調べると生け花とかが出てきてしまうさぁ。」
「ふーん。」
「やくとぅ、とりあえず花瓶に水入れて突っ込んどく。」
「ははっ、・・・花瓶あるば?」
「ねーらんしが取り敢えず・・・この空き瓶で代用。」
「お酒の?」
「ん・・・、これをラベル剥がして。」
「おぉ・・・。」
「うん、それなり・・・あんに?」

そんな風に、案外嬉々として花を生けている姿がとても可愛いらしいなぁ、と思いながら作業を眺める。
即席で作ったすりガラスみたいな水色の空き瓶で出来た花瓶も、確かにそれなりだった。
それから再びパソコンに向き直った凛。
今度は何を調べているのか聞いたら、花言葉って返事が返ってきた。
あー、そっか、なんてなんでもないみたいに返事をしてみたけれど、目の前でそれをされるとちょっとだけ気恥ずかしい。
俺の気持ちそのまんまとか、言っちゃった手前。

「桃、・・花言葉・・・、で出るよな。」
「うん。」
「3月3日・・・確かに今日の誕生花やっさ。」
「うん。」
「はなことば・・・花言葉・・・、天下無敵、・・チャーミング、・・・私は・・・。」
「・・・。」
「くっく、・・・ばーか。」

そう言って凛が言葉とは裏腹に愛おしそうな顔をして画面を見つめながら、ふっと笑った。
立てた片膝へ乗せられた腕に寄りかかるように掻き上げた髪をくしゅっと掴み、それからしばらく、思い出したようにこちらへ視線を向ける。
一瞬の間があって、ふたたび視線をPCに戻しシャットダウンしてからそれをパタンと閉じると、
凛はそのままイスを降りふらふらと漂うように俺の前まで来てしゃがみ込み、慈しむ様にそっと俺の頭を撫で、輪郭をなぞり、音もなく触れるキスをよこした。

「知ってると思うけど、正直言われ慣れてるっつーか、似た様なことはよく言われてきた。」
「・・・うん。」
「やしが、やーに言われるとなんか違う。いつもと違って、でーじ・・・嬉しい。」

儚げだ、と思わせる、そんな表情で丁寧に言葉を発しながら、凛は俺の寝転がるソファに乗り上げて、重なるようにゆっくりとうつ伏せに横たわった。

「やー、いっつも直球で好き、好き、ってそれしか言わねーじゃん・・・ホンモノのバカだと思ってたのに、・・・こういうことも出来んのな。」
「ふふっ。」

心臓に、全身に、直接語りかけられているように響く心地の良い声。
ゆっくりと、胸に乗せられた頭を撫でる。
凛が猫みたいに身じろいで俺の手を掴み、スリリと甘えるみたいにして頬に寄せ。

「俺今、・・・すっげー、やーに抱かれたい気分。」

ぽつり、呟いた。


*


どちらかといえばノリで動く俺と、雰囲気重視の凛。
そんなふたりだからタイミングはいつも雰囲気とか流れ任せで。
凛がこういうこと、したいって直接的に言うことなんて今までに無かった。
素直に嬉しい、と思う。
狭いソファの上で俺に覆いかぶさる凛の垂れ落ちる髪を耳にかけ、その指でそのまま背筋を撫でる。
ゾクリ、小さく震える感触を指先に感じたとき、限りなく0に近い距離で零された凛の吐息が唇にかかった。

「・・・ベッド、行く?」

こくり。
凛は素直に頷いて、上体を起こす俺に合わせるようについていた両手をソファから離し、正座するみたいにして俺の太ももの上に座った。
しばらくの間凛が自分からベッドへ移動するのを待ってみたけれど、全身から力が抜けたようにくたりと寄りかかってくる体からは一向に動く気配が感じられない。
胸元に寄せられた額がスリ、と甘える様な動きを見せたとき、俺はやっと、今日はいいのだ、と理解した。
凛に対する時、絶対にやってはいけない事。それは女のような扱いなのだ。
だから普段は絶対に怒って嫌がるだろうけど、今日はきっと許される。
預けられた重みを抱き上げ踏み出すと、凛はちゅ、とこめかみに柔らかく吸い付くようなキスをくれた。
細くてしなやかなカラダをゆっくりとベッドへ横たえて、凛の表情を覆い隠す髪を掻き上げ、撫で付ける。
現れたのはいつものように皮肉ったような笑を浮かべる口許。
それとは対照的に、潤み、揺れる瞳にどうしようもなく掻き立てられたのは、情欲。

「・・・っ、・・・・っは、・・・・・・。」
「・・・ん・・・、・・・・・・・・・っ・・・。」
「・・・んぅ、・・ふっ、まって・・・、ん、やっぱ、ちょっと待って。」
「ん?」
「・・・電気、消して。」
「なんで、はずかさー?」
「・・・・・・眩しい、から。」
「ふふっ、・・・いいよ、消そっか。」

多分、図星を指されて恥ずかしくなったんだろう、ふいっと顔が背けられた。
それを見て小さく笑ってしまってから、ベッドサイドに置かれたリモコンで証明を落とす。
凛は暗くなった部屋で、安堵したようにそっと溜め息を吐いた。

「・・・ふっ、ぅ・・・・・ん、・・んっ・・・。」

  まだ暗闇に慣れきっていない目では相手の表情を読み取ることも難しい。
けれど声や息遣い、時より伝わる体の震え、そんなものを頼りに愛撫をしてゆけば、見えないはずの表情がなんとなく頭に浮かぶような気がした。
例えば今、くぐもった声に、鼻にかかるような吐息。
薄闇に浮かぶ輪郭を頼りに親指で口許をなぞれば、予想通り下唇を噛み締めて耐えている。
きっと眉をハの字に寄せ、目はきつく閉じられて居るんだろう。
そんな艶っぽい表情を想像して、直接明かりの下で見てみたい衝動を必死で堪える。

「・・・も、いい、・・・そこばっか・・・しなくていいからっ・・・。」

胸ばかりを舐めたり触ったりしていたら、焦れたような声で言われてしまったので素直に従って指を移動させる。
スルスルと腹部からゆっくりと滑らせるように這わせて行き、ズボンのチャックを往復したところでベルトに手を掛ける。
指が通り抜けると体の触れている部分がビクビクとしなるので、ついなんとも言えない征服感のようなものに捕らわれ薄く笑んでしまった。

「・・・えっ・・・、ゆうじろっ!」

暗闇の中でも俺の動きを捉えられるようにか、首を抱くように添えられた凛の両手。
それが急激に下へと向かうのについて行けず、離れた手が髪を軽く掴む様になった。
そこから次の俺の行動を悟ったのか、凛が焦った様に名前を読んだ。
普段はしないから、きっと驚いてる。
俺がチャックを降ろし曝け出させたものを、口に含んだこと。

「んぅんっ!・・・っ、・・・ぬっ、ぬーしちょーみっ・・・ぁ・・・、なっ、に・・・。」
「・・・うん、・・・・・・・・・きもち、でしょ?」
「・・・ふんっ、んっ、・・・・は、はぁっ・・・ぁ・・・。」

言葉では返事が返ってこなくても、息遣いやギュっとしがみつくように掴まれた髪からすべて伝わってくるようだった。

「・・・ふぁ、・・・・・・っ、ぁ、ぁんっ・・・・・・。」
「ふふっ・・・、声、・・・かわいっ。」

気持ちいいんだ、それがすぐに分かる、声に現れてるって思ったらついそんなことを言ってしまった。
凛はそれがお気に召さなかったのか恥ずかしかったのか、髪を掴んでいた両手をスルスルと降ろし、両の中指を俺の耳に差し入れた。
その冷たく震える指先の感触に、ぞくぞくと甘い痺れが脳に伝わる。
暗闇の中頼りにしていた聴覚が奪われ、耳で聞き取れるのはボクボクと流れる血液の音だけになってしまった。
けれど、ひくり、と頻繁に震える指が耳の中を擦る音や、視線だけでも上を向けば時折チラついて見える青白く光る歯が凛の感じている快感を知る手掛かりになる。

「んんっ、・・・りぃんーっ、・・・これ、・・・わんもちょっとっ、やっ、ばいかも。」

言ってしばらく一心に愛撫を続けていると、凛が何かを訴えるように言葉を発しているのが分かった。
音は聞こえなくとも、漸く暗がりに慣れ始めた目に映ったせわしなく動く口元で分かる。
次の瞬間両の耳から指が抜き取られ、その両手でグッと髪を掴まれ後ろに強く引っ張られた。

「――――ぃ、あっ・・・!」

唐突に耳に飛び込んできた甲高い声と、それと同時に生暖かいものが顔にかかった感覚。
途端に慌てた凛の声が聞こえ、ガバッと上体を起こしたのが分かる。
するとすぐにガタガタと何かを漁るような音がして、次の瞬間に部屋の照明が点いた。

「なっ・・・、はっ、はっ、わっさんっ・・・。」

明かりの下で俺の顔を見た凛が慌ててティッシュを乱暴に数枚掴み、顔を拭ってくれる。

「むっ、・・・むっ、・・・んう、・・・いいよ、もうダイジョブ、・・・・・ね、聞いてる?」

問いかけると手を止めた凛が、上気した顔で、目で、見つめてくる。
そのまま俺の頭を引き寄せ胸にすぽりと収めるように抱くと、もう一度小さくごめんって謝った。

「えー、なんでー・・・?フツーこういうのって興奮するとこじゃないんばぁ?」
「・・・やしが、しかんだば?」
「んー・・・。」
「・・・気持ちは、よかった・・・やし、が。」
「ふふっ、・・・でしょー、やっぱ。」
「ん。」
「ならわんはそれでいい、全然気にしねーらーん。」

伸ばした両腕でぎゅ、と腰を抱き、その向こうに置かれたリモコンを探り当てボタンを押し再び証明を落とした。

「へへっ、急に明るくなったやくとぅ目が痛くって。」

そう言うと、一瞬の間の後すぐに、噛み付くような激しいキス。

「はふっ、・・・ふっ、ぅん、・・・っ、・・・ん・・・。」
「・・ふっ、・・・・・・はっ・・・、ん、・・・っ、ゆうじろっ、・・・はっ、ゆ、じろっ・・・。」

愛してる、そう言われているような、それ以上の感情をぶつけてくるようなそんなキスに、全身がじわじわと熱くなるのが分かる。
上体を起こした凛のカラダをベッドに押し倒し、汗の滲む手のひらで後ろ手に太ももを撫で、そのまま甲でズボンを押し下げ脱がせた。

「・・・くぅふっ、・・・・・・は、・・・・んっ・・・。」

気がつけばいつの間にか自分の分のズボンも脱がされていて、下着の中に入れられた手で直接触れられれば、喉からこみ上げる声を抑えることは出来なかった。
すべてを掻き乱されるような激しいキスが途切れると、凛が徐に俺の手首を掴んだまま口許へ運び、そのまま中指と人差し指を口内に含んだ。
ぴちゃぴちゃ、とわざと大きく鳴らされているような水音が部屋中に反響して、その卑猥な響きと粘膜の絡みつく独特の感覚に頭の中がズクリと痺れた。
ヤバイ、なんかすっげーエロい音してる。

「・・・んふ、・・・ふっ、うるさい・・・。」
「え、・・・声に出てた?」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・裕次郎、・・・もういい・・・。」
「・・・ん?」
「・・・も、はやく・・・し、たい・・・・・・・・・、してっ・・・。」

ああ、と諭されるままに唾液で十分に濡れた指をゆっくりと後ろに突き入れて、できるだけ丁寧に解していく。

「ぅーん、・・んっ、んっ、・・・ぁっ・・・はぁ、・・・っん・・・。」
「・・・・・・・・・・・っ、あがっ・・・。」

凛の内側を溶かす様に指を動していると、急に頭を引き寄せられ、勢いをつけすぎたのか、その所為でお互いの歯と歯が思い切りぶつかった。

「・・・っ、わっさん・・・。」
「暗くて見えなかった?」
「・・あ、・・・・・・はぁっ、・・・ふぁっ・・・は、・・・。」

俺の問いかけをごまかすみたいに何も答えない凛。
暗闇の中ではどんな顔をしているのかも分からない。

「凛、・・・顔が見たい・・・。」
「んんぅっ、・・・やめろ、電気点けんなっ・・・。」
「お願い。」
「・・・いや、だっ・・・。」
「・・・どうしても?」
「・・・っ、・・・だめ・・・・・っふ・・・。」
「見たいよ、・・・い?」

凛はそれ以上何も答えなかったけれど、ダメとも言わなかったので肯定とみなして電気を点けた。
入り込んでくる光が痛いくらいに眩しい。
目が明るさに慣れると浮かび上がった凛の悩ましげな表情。
それがなんとも言えず扇情的で、思わずゴクリと生唾を飲んだ。
ヤバイ、なんかすっげーエロい顔してる。

「・・・うるせぇ、ばか・・・。」

またしても声に出してしまっていたらしく、拗ねたように凛がポソリと言った。

「ねぇ、もう平気?・・・挿れたい。」
「ん、・・・へーき・・・。」
「じゃあ・・・いくよ、息吐いて。」
「すぅぅ、・・・う、んっ、・・・・ひっ、ぐ、ぅっ・・・はっ、はっ。」

すー、と素直に吐き出された息は震えていて、俺の腕を掴む力の入った両手はどこか助けを求めているようでもある。
痛みか、不安か、それは俺にはわからないけれど、ちょっとでも和らいで凛が楽になれますように。
凛の耳元に寄せた唇で耳の縁をなぞるように撫でてゆくと、少しだけ俺の腕を掴む両手の力が抜けたような気がした。

「・・・大丈夫?」
「・・・う、ん・・・・・・ダメ・・・。」
「痛い?」
「・・・そんなに痛くない、けど、・・・っ、まだ動かないで。」
「うん。」
「・・はーっ、・・・・・・・・・・・・・・・・なぁ、裕次郎。」
「うん?」
「・・・今日さ、自分でしてもいい?」
「・・・えっと、・・・ん?」
「俺が上でしてもいい?自分で動きたい。」
「・・ああ・・・、いいよ。」
「ん・・・起こして、起き上がれん。」
「うん、・・・っしょ。」
「ぁっ、は・・・・・・、・・何これ、すげぇ、奥までくる。」

凛の身体を引き寄せるようにしながら状態を起し、胡座をかくように体制を整える。
重力に逆らわないカラダはより深く深くへと繋がってゆき、詰めていた息が肺から迫り上げそれが吐息となって溢れた。
それが小さく震えていたことで、自分にもあまり余裕がないのだと知る。

「・・・・・・ねぇえ、凛?」
「あ?・・ふーっ、・・・・・・なんだよ。」
「んー、・・あのね、・・・わんそろそろ限界だよ・・・。」
「・・・分かってるさぁ、・・・はっ、今動くし・・・ちゃんと動くから。」

凛は少し腰を浮かせた後、俺の背中に腕を回し、自分のことも抱きしめていて欲しいと言った。
文字通り、抱き合いたいと、そのために開放した両腕だと。
ぎこちなく動き出したカラダは可哀想なくらいに震えていて、それを支えるように、俺は両腕に力を込めた。

「・・・ん、あっ、・・・ゆ、じろっ、裕次郎ぉっ、・・・はぁ、はっ、・・ん、・・もっ、と・・・。」

凛の唇から溢れた音が直接左耳を刺激して、息がかかるたびに全身が粟立つのが止まらない。
頭がジンジンと痺れて、凛の爪が背中に食い込む感覚にさえもゾクリと快感が走った。
目を閉じれば一層快楽の波は広がって、暗闇の中で凛の存在だけを感じる。
ひとつの暗い空間に二人きりで閉じ込められたような、いっそひとつの生き物にでもなったかのような。
掠れて引きつったような甘い声と、滲む快楽、それから触れた肌を伝う熱の、たったそれだけしか感じる事のない生き物に。

「・・・ぁ、凛っ・・・、凛・・・、もっ、ぉ・・無理だ、・・・・はっ、・・出そ、だよ・・・、はぁっ・・・。」
「ぅ、ん・・・、は、はぁっ、はぁっ、・・ぁ、・・いいよっ、・・・そんまま出して・・・。」
「ふ、ぅ・・・ダメだって、・・・ちょっ、・・・凛、きついっ、・・・しんけん、無理っ・・も、イキそ・・・・。」
「いいからっ、はぁ、・・・はっ・・・、ふ、ぁ・・あ、そっ、のまま、イケっ・・・て、ぇ・・・。」
「・・・ん、んっ、うそっ・・・、ぁ、待って、・・・しんけんヤバイよ、後でっ・・・っふ、ん、はっ、ふ、ぁっ・・・。」
「う、るさい、・・・黙れ、バカッ、・・・・はっ、ん、んーぅ、・・ぁ、ぁ、んっ、・・っんぁあはぁ―――・・、」

・・・・・キ――――ン・・・ッ、・・・・・・・・・

刹那、耳鳴りが激しく鳴って、思考に靄がかかる。
叫び出しそうに漏れ出た俺の声に共鳴するみたいに、キツく押し当てた耳元で凛の心臓がドクン、と跳ねた。
お互いに荒い呼吸を繰り返して、なかなか収まらない息苦しさに二人して交互に同じ空気を吸ってるんじゃないかってそんなことを思う。
そんな自分の考えがおかしくなって、そのままストンと横に倒れこんだ。

「はっ、・・・はっ、・・・あぁっ、ヤバイ、しにあついっ・・・。」
「はぁ、・・・はっ・・・はぁ、・・・。」
「えぇっ、・・・なんで凛の手こんな冷たいばぁ?」
「はぁ、・・・しらねぇ、ずっと力入れてたからじゃねぇの。」
「そっか、・・・どおりで背中がズキズキすると思った。」
「裕次郎、・・・そういうのは黙っててやるのが優しさってもんだばぁ?」
「ふふっ、・・・だって痛いんだよ、絶対血ぃ出てるって、凛確認してみてよ。」
「どれ、・・・・・・んとだ、血ぃ噴き出てるさぁ。」
「えっ!?」
「ゆくしに決まってるさに、血なんか出てねーよ。」

馬鹿にしたように笑う凛に、バチンとヒリヒリ痛む背中を思い切り叩かれた。
そりゃあもうビックリするくらい痛かったけど、そこを笑ってやるのが優しさってもんなんだよね。
ハハハッて多少乾いた笑いを浮かべてみたけれど、やっぱり痛くて蹲るようにして耐えてたら、
今度は凛が本気で心配したような声で大丈夫かって言いながら背中に手を添えた。
冷たくて気持ちいい、けどやっぱり触られて痛いかも。
でもそれくらいは我慢するよ、俺は優しい男だからね。

「・・・裕次郎、・・・。」
「ん?」
「・・・。」
「・・・ぃっ、・・・・・・・・・え?何?」
「・・・・・愛してる。」
「え、・・・。」

首の後ろの骨のあたり、感じた生暖かい感触とちくりと刺すような痛み。
ちゅ、と音を立てて離れて行ったことでそれが凛の唇であったと理解する。
それよりも驚いたのはそのあとに続いた言葉で、凛の口から聞くのは初めてなんじゃないかって。
でも聞き間違いじゃない、初めての音なのに耳にしっくりくる。
振り返ると凛は目を瞑って寝たフリをしてた。
鼻を摘み上げるとフガガって変な声を出して、照れたようにクスクス笑う。
その体を胸に閉じ込めるように抱きしめれば、身じろぐようにすり寄ってきた。

愛してるのはそっちだけじゃない。

目を瞑ると、桃の花が揺れ、仄かに広がる甘い香りが確かに薫った気がした。




3月3日 誕生花:桃
花言葉・・・天下無敵、チャーミング、私はあなたのとりこ




  

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