『はっ、あっ…りんくんっ…んぁっ…りんくんっ…好きっ…好きっ…』

Cry Baby

―ピピピピッ…、ピピピピッ…―

「うわぁああっ!…はっ、夢か…。」

休日の朝一番から卑猥な夢を見て目が覚めた。
醒めたのだからそれが夢だと言う事は分かるのに、未だバクバクと鳴り続ける心臓を抑えながら目覚ましを止める。
休日なのに目覚ましをかけっ放しにして寝てしまうほどに昨日は飲んだのだろうか。
どちらにせよこの音で目が覚めなければ夢の中で自分がどんなに酷い行いを続けていたのだろうと考えて蒼白になった。
それにしてもやけにリアルな夢だったので、ありえないと思いながらも一応の身の回りの確認をしてみる。
シーツをめくった時点で服を身に着けていなかった事には一瞬ギクリとしたけれど、下着を着ていたのでセーフだと思う。
酔うと暑いからといって服を脱ぎ捨てて寝てしまう事は良くある。
それに昨日の記憶は一応あるので、何かしでかしてしまったのならば覚えているはず。
幸いなことに朝からひとり虚しく下着を洗わなければならないという状況も避けられた様だ。
それでも親友の彼とのあんな夢を見てしまったことに対しては、多少なりとも罪悪感が芽生えた。

わっさん裕次郎…。」
「凛くん、起きたの?」
「うおぉっ…ゆ、じろぉ…。」
「ん?…なにがごめんって?」

誰も居ないと思っていた空間から、よりにもよって夢に見てしまった相手が突然現れた事に驚いて素っ頓狂な声を上げてしまった。
とてもじゃないけれど本人には聞かせられない様な内容の夢だったので、起き抜けの回らない頭で咄嗟に考えた言い訳をする。

「い、や…別に…その、あの、部屋、片付けてくれたんだろ?」
「あー、たぶんそれ寛。わんが起きた時にはもう綺麗になってたし。」
「そ、か…。」
「あ、それより昨日の残り物やしがご飯食べる?今お腹空いたなぁと思ってレンジで温めてたところ。」
「あぁ…うん。」
「ふふっ、凛くん顔洗ってきたら?なんか変な顔してる。」
「ん?おぉ…。」

裕次郎に諭されるままに洗面所へ向かい、顔を洗う。
鏡に映った自分は、別段変だと言われる様な顔はしていない。
ただの、いつもの朝の鏡に映る自分だ。
タオルで顔を拭いてじっと鏡の中の自分と睨めっこしているとリビングの方からピピピッとレンジの音が聞こえ、
それから食器類を食卓に並べるコトン、コトンと言う音も聞こえてきた。
そこにかすかに鼻歌が混じっているのが耳に届き、どうやら裕次郎は今機嫌が良いらしいことを知る。

「あ、凛くんご飯準備出来たよ。」
「おぉ、にふぇ。」
「うん、食べよ。」
「おぅ。」

なんとなくあんな夢を見てしまった手前顔が見づらくて、黙ったまま裕次郎の話に適当に相槌を打って黙々と飯を口に運ぶ。
しばらくすると裕次郎の声のトーンが段々と落ちていくのが分かって、ゆっくりと視線を上へ向けた。
すると手を止めてじっとこちらを見ている裕次郎と目が合って、今度は逆に目が逸らしづらくなる。

「凛くん…、大丈夫?」
「え?おぉ、わっさん…ちょっと頭痛がしてよぉ、二日酔いかやぁ…ははっ。」
「そっか、それなら薬飲んだらいいばぁ。持って来てるから。」
「おぉ。」

裕次郎が昨日ぶら下げていたビニール袋から二日酔いに効く薬を取り出してトン、と食卓に置いた。
お礼を言ってはみたものの、実際はそれほど頭痛がひどい訳でもなく、
裕次郎が差し出してきた飲み薬が苦い事で有名な薬だったために、視線だけをそちらに向けて手はつけなかった。

「…。」
「…。」
「…。」

食事を再開して先ほどのように黙って淡々と朝食を食べ進めていると、裕次郎がやけに静かな事に気が付いて顔を上げる。
その両手には箸も茶碗も持っておらず、ただ黙って俺の事を見ていた。

「…何?」
「…あのさ。」
「うん?」
「さっき凛くんさ、起きた時わんに謝ったよね?」
「…そ、そうだったかやぁ。」
「あの時、何かごまかしたなって思った。」
「…。」
「本当は、違う事で謝ったでしょ。」
「っ…、なんで?」
「だって、凛くん目泳いでたし。」
「…。」
「で?本当は何で謝ったばぁ?」
「えぇと…。」
「ちょっと、言い訳なんて考えてないでよね。」
「だって、大した事じゃねーもん………でも、すっげー言いにくい事。」
「…何?言ってみて?」
「言いにくいって言ってんのに言わすのか。」
「うん、言わす。」
「…やーだって不快な気分になるかもしんねーのに。」
「いいよ別に、言ってみて。」
「…。」
「早くっ。」
「…っその、………夢を見た。」
「夢?」
「だからつまり、…その夢が、…やーとわんで…なんか…アレだよ。」
「エッチな夢見ちゃったんだ。」
「うっ…、まぁ。」
「そっか…。」
「…わっさん。」

俺の話を聞いた裕次郎は、暗い顔をして俯いてしまった。
だから言いたくなかったのに、と内心でひとりごちる。
その反応になんだか俺の方まで暗い気分になり、つられて俯いてしまいそうになっていると裕次郎が小声で何かを言った。
何かを言ったのは分かるのだけれど、上手く聞き取れずに聞き返す俺に向かって顔を上げた裕次郎が悲しそうな顔で繰り返す。

「覚えてないんだね。」
「…え?」
「やっぱり覚えてなかったんだ、昨日の事…そんな気はしてたけど。」
「…昨日の事?」
「あれが夢だったとか…思ってるんでしょ、凛くん。」
「…わ、わっさん…裕次郎の言ってる事、良くわからないさぁ…。」
「そうだよね、覚えてないんだもんね。」
「…。」
「じゃあ昨日好きって言ってくれたのも全部、嘘だったんだ。」
「…好き?わんが?…あびたのか?裕次郎に?」
「そうだよ、付き合おうとも言ってくれたし、セックスしたのも夢じゃない。」
「っ!?」
「わんも凛君のこと、ずっと好きだったからでーじ嬉しかったのにやぁ…。」
「…わ、わっさん…やしが、昨日の事は覚えてるはずなのに…その、それだけは思い出せない。」
「…そっか、………そっか。」
じゅんに、わっさん……。」
「…。」
「や、やしが、もし…わんが裕次郎に本当に好きとかあびたんならそれは、…ゆくしやあら」
「ぷくくっ…。」
「…裕次郎?」
「あはははははははっ!引っかかったぁ!」
「んなっ…嘘付いたのか?」
「ごめんごめん、こんなに簡単に引っ掛かるとは思わなくて…。」
「うわ、ひっでぇ…わんじゅんにどうしようかと…。」
「あははははっ…ひー、涙出てきた。」
「……………裕次郎?」
「涙、出てきた……、あはっ。」
「裕次郎…。」
「ごめん、わんちょっとトイレ。」
「…っ待て。」
「っ…なに?」

どう見たって笑いすぎて涙が出たという風ではない顔をして無理に笑顔を作る裕次郎を、一人にはしたくなかった。
その原因であるはずの俺が、黙って裕次郎が一人で泣きに行くのを見送るなんて。
グンッと引っ張った裕次郎の腕がのびて、立ち上がりかけていた体がバランスを崩してこちらへ倒れ込んでくる。
それを受け止めてぎゅっと抱きしめると、裕次郎の体から俺が普段使っているフレグランスの香りが漂ってきた。

「裕次郎?」
「…ぅっう、………ぐすっ…ひっ…く、……。」
「裕次郎、嘘付いた?」
「…ふっ、ぅっ…ぐずっ…凛くんなんて、3つも、嘘付いたっ…わんは、ひとつしか付いてないよ、ぉ、ぅっ…。」
「…泣くんなら、何で嘘付くんだよ。」
「だ、だって、ぇっ…、凛、くんがっ…、す、すっごく迷惑そうなっ、顔してた、から、ゆくしってことにしたら、…ぅっ…元にもっどる、かと、思って。」
「あのなぁ…。」

こういう時、俺が真っ先にするべきことは謝る事なんじゃないかとは思う。
けれど余りにも裕次郎が可哀想なこの状況で俺が謝ってしまうと、余計に裕次郎が痛々しい事になってしまいそうだったし、
それを言うと俺が裕次郎を受け入れられないという意味にとられてしまいそうな気がして口に出して言えなかった。
一旦グズグズ泣いている裕次郎の体を自分の体から剥がして奴の服の襟首をぐいっと引っ張って捲る。
やっぱりというべきか、そこにはまだ新しいと思われる内出血の痕がいくつか残っていた。

「ひっく…、りっ、くん、わっさん…ぅっ…ひくっ…。」
「…ぬーが?何で裕次郎が謝るばぁ?」
「…わ、わんは、あの時っ、りん、くっ…が、酔ってたこと、知ってたよ…酔いが覚めたら、いっまみたいなことになるって、分かってたのに…
ふっ、ずびっ…断んなかった…ひぅっ…昨日は、わんそんなに、…酔ってなかった、のにっ。」
「…あぁああーっ、裕次郎!裕次郎、わっさん!」
「…っ…ひくっ、なっ、に…。」

突然ぐいっと体を引き寄せて頭をぐしぐしと乱暴に撫でだした俺に、裕次郎は意味が分からないというような声で問いかけてくる。
本当は自分が最初に言わなければならなかったはずの謝罪の言葉を裕次郎に言わせてしまったことが、申し訳なさ過ぎて自分を張り倒したい気分になった。

「わっさん、やーはひとっつも悪い事してねーのに…こんな…。」
「ずっ…ずびっ……、ひっく…。」
「ごめんごめん、…もう泣かなくていいぞ裕次郎。」

背中に腕を回して何度か優しく撫でる。
裕次郎は俺がそうしているにもかかわらず体に力を入れて強張らせるから、俺も意地になって腕に力を込めた。

「くひっ…ひっ、……ぐすっ…すんっ、凛くぅん…無理しないでよぉ…ずびっ…。」
「無理?そんなんわんがすると思うか?」
「…思わない…思わないけど…だって、凛くんわんの事とか…全然好きじゃない癖に。」
「…好きだよ、好きだからこんな事してんだろ。」
「…嘘つき。」
「嘘じゃねーって。」
「じゃあ、なんでさっきわんとシたって知ったら嫌な顔したばぁ?」
「あれは…嫌な顔じゃないだろ、驚いた顔あんに?」
「違うもん、嫌な顔だったもん。」
「わんそんなん知らねぇし…嫌な顔とか全然してねーし。」
「してたよ…。」
「…はぁ、止めろよその顔。やーがそんな顔すっからわんだってつられてあんな顔になったんだろ。」
「え?」
「だから、やーが暗い顔してるからわんだってそういう顔になったんだって。」
「…。」
「それに、昨日の事覚えてないのは本当に悪いけど、その時わんがやーの事好きとか言ったならゆくしじゃあらんし、ただの本心漏れただけやし…。」
「…。」
「わんはやーの事好きだし、付き合いたいとも思う…やーが良ければの話だけど。」
「…。」
「嫌か?」
「ううん、でも…。」
「でも?」
「いいの?わんで。」
「…あのなぁ裕次郎、なんでこんなにイケメンでモテモテのわんにイナグが居ないのか知ってるか?裕次郎が良いからだしよ。」
「…。」
「裕次郎さーん、わんと付き合って。」
「……………う、ん。」
「じゅんに!?」
「うん。」
「はぁー…、つかこっちが夢だったら消えて無くなりたいわ。」
「…夢じゃないよ、消えちゃダメ。」
「くくっ…。」
「ふふふっ。」
「………あい?」
「ん?」
「わんが見たのが夢じゃないって事はよぉ、あれって現実に起こったことなんか?」
「知らないよ、わんは凛くんの夢がどんなだったか見れないんだし。」
「裕次郎さ、わんのここ、腰に足絡めながら『んっ…あぁっ…凛くんっ…好きっ…好きっ』とか言ってただろ。」
「っ…。」

今朝の夢に出て来た裕次郎の声真似を大げさにしながらそう言うと、顔を赤らめながら視線を逸らされる。
その様子を見ると、あれはまさかの現実だったらしい。

「やった?やったのかよぉーっ!?何こいつー!しに可愛いんですけどっ!!」
「うわっ、凛くん…。」

床に押し倒す勢いで(というよりは実際に押し倒したけれど)抱きついて、困った顔をする裕次郎の唇にキスをひとつ落とす。
途端に切ない表情で見上げてくるその顔が可愛くて、目いっぱいの力で抱きしめた。

「裕次郎…、する?今ならわん、酔ってないけど。」
「…………………何を?」
「オマエさぁ…ここで何を?とか聞くなよなぁ。」
「ごめん、だって…。」
「なんだよ。」
「凛くんが今なら酔ってないけどとか言うんだもん。」
「…それが何だよ。」
「だから、その、素面でとか恥ずかしいじゃん…酔ってない凛くんとするの始めてだもん。」
「っ…もうなんなの?何でそんな可愛い事しか言えないんですか、この口は!」
「いしゃっ…、いしゃいぃ、はなひてっ!」
「ははっ、ブッサイク!」
「ひどっ!何この人最低、嫌だ、もう帰りたいです。」
「あーあー、わっさんって、帰らんけー。」
「…帰らないけどぉ…、んっ…ねぇっ、ちょっと…。」
「………うん?」
「するならベッドでしようよぉ…。」
「うんー、…。」
「ねぇ、お願い、背中痛いんですけど。」
「しょうがねぇなぁ………、ひやっ!」
「うわっ………、凛くん力持ちー。」

床では背中が痛いからと懇願する裕次郎に、それもそうだとベッドへ移動する事にした。
別に行為自体を断られた訳ではないのだからそれくらいのお願いは聞いてやっても構わない。
裕次郎を抱えたまま立ち上がると、思った以上の重量感が体に圧し掛かってきた。

「ぐっ、重……、うわうわ、腰が、腰がヤべェ!」
「え、え、待って、落とさないで!…っん…。」
「っあぁ、…あーっ、疲れた。」
「はははっ、凛くんいきなりすぎ!しかんだやっさぁ。」
「でも嬉しかったんだろ。」
「…まぁね。」
「くくっ…あ、そういえばわんの夢の中では裕次郎が下だったんだけど、それで良いんだよな?」
「え…、たしかわんの記憶では凛くんが…。」
「…うっそ、わんが下?」
「…うん、昨日はね。」
「…まぁいいけど。」
しんけん?」
「ぬーが?」
「下でも良いの?」
「別に、相手が裕次郎ならわんはどっちでも良い。」
「わー、何それ今のでーじはばー!
「ぬーがよ…。」

本心からそう思っているからこそ出た俺の言葉に、裕次郎が目をキラキラさせてそんな事を言った。
俺からしてみればそんな事は当たり前で、何が格好良いのかもさっぱり分からない。

「わっさん、さっきの嘘。昨日も本当はわんが下だったけど、凛くんが上じゃなきゃ嫌だって言ったらなんかヤリたいだけみたいで嫌だったからちょっと試すみたいな事した。
でもあっさりどっちでも良いって言ってくれて嬉しかった。」
「ふーん、そういうの気にすんのな。」
「気にするよ、好きじゃない人としたくないもん。」
「ふっ、…やーってなんか、ホント可愛い奴だよな。」
「なんでよ。」
「乙女思考って感じ…くくっ。」
「なにそれ、馬鹿にしてんの?女々しいって言いたいんか。」
あらん、可愛いって言ってんの。」
「…なんか腑に落ちない。」
「もう良いあんに、わん早く裕次郎としたいんだけど。」
「ぅ、…しょうがないなぁ。」

顔を赤くして視線を逸らす裕次郎の長い前髪をかきあげて、現れた額に軽くキスをする。
閉じられた瞼でふるふると震えている睫が無性に可愛らしく感じて、そこにもひとつキスを落とした。
それから首筋へ顔を埋めて、服の中へと手を滑らせる。
俺の手が肌の上を這うと、ふぅ、だか、ふん、だかよく分からない赤ん坊が泣き出す前のような声を出す裕次郎が可愛くて仕方がない。

「やー…、結構胸あるな。」
「なにそれ、…なんかヤダ。」
「わっさんわっさん、別に胸が在るとか無いとか関係ねーけど、ちゃんと鍛えてんだなぁと思って。」
「…。」
「何?…別にわん、もともと貧乳が好きだし。」
「じゅんにか…。」
「ゆーじろうさんは、巨乳が好きでしたよね。」
「ぅ、何でそれを…!」
「だって自分で散々言ってたあんに?」
「…。」
「まぁ、わんは胸は無いやしが…、下の方はデカイから安心しれ。」
「安心ってなんのよ、…んっ……。」
「だから、感じさせてやるって言ってんの。」
「…ふっ…はぁ、…なんで、凛くんってばそういうこと言うの?…んっ、昨日は酔ってる所為かと思ってたのに違うんだね…っ、……。」
「なんで?わん酔ってるとか酔ってないとか関係なくそういう事言うけど?嫌なの?」
「ぁ…、いっやぁっ!…はぁっ…、んっ………。」
「ふーん、嫌ならわんはもう何もあびん。」
「ち、がうじゃん、…今のは凛くんが同じとこばっかするからっ!…んんっ…ふっ、…。」

なんだか必死になっている裕次郎が可愛いくて、更々苛めたくなってくる。

「……………。」
「凛くん…、んっ…………ん、んっ…凛くん…。」
「……………。」
「…凛くんっ、…はぁっ、は、……ふぁっ、…ねぇ、凛くんっ。」
「……………。」
「…凛くんっ、…ねぇ、…や、だ、何か言って、…お願いっ!」
「……………。」
「凛くぅんっ…、ひとりぼっちみたいで、嫌だっ…、声聞きたいっ…。」
「………っ、泣くなよ馬鹿…。」
「凛くんっ……だって、凛くんが、怒ってるみたいな怖い顔するんだもんっ…。」
「やーはじゅんになちぶさーやー。」
「…わっさん。」
「謝る事じゃねーけど…。」
「ん、んっ……ふっ、………………はっ…。」
「つか、やー…なんでもうこんなギンギンなんだしよ。」
「くぅんっ…はぁっ…、だって凛くんが、触ってるからっ…好きなんだもんっ…、凛くんのこと。」
「っ……………。」

見ただけで興奮している事が分かる程ズボンを押し上げて存在を主張しているソレを、クイッと軽く擦り上げると裕次郎が犬みたいな声を上げた。
それから、考えてもみなかったこちらが赤面してしまう様な答えを聞かされて思わず黙り込んでしまう。

「ぁっ、は、…なんっで、怒るの?…ごめん、黙らないでっ、…お願い。」
「怒ってねーよ…、やーこそもうなんもあびるなよなぁ………心臓が…なんかヤバかった。」
「…くひっ…っ、ん…………んんっ、んっ、…っ。」
ふらー、そういう意味じゃねえって…声ガマンすんなよ、じゅんに怒ってないから。」
「はぁっ…んっ、ほんと?…んっ…。」
「うん。」

下着の中に手を入れて直接裕次郎のモノに触れると、溶けそうな顔でこちらを見上げてくる。
そんな表情をされると、なんだかこちらがたまらなくなってきてしまう。

「んっ…ぁっ…はぁっ、きも、ち…。」
「…その顔、でーじエロイ。」
「んぁっ、…………はっ、…っぁ、…はっ、んっ。」
「…裕次郎…。」
「あっ、ぁあっ、…っは、んんっ…ふぁっ…凛くんっ…。」

気持ち良さそうに顔を歪める裕次郎に名前を呼びかけてみると、手の中の熱が一気に質量を増して先ほどよりも良さそうな声があがった。
その反応に、口角がニヤリと持ち上がるのが自分でも分かる。

「ふっ…、名前呼ばれるとイイんか。」
「はぁっ…ぁっ、凛くぅ、んっ…んっ…はぁあっ…。」
「…何?もっと名前呼んで欲しいの?」
「ん、…んぁっ、ぁっ…、はぁっ、はぁっ…はっ、凛くんっ…。」
「…ゆーじろー、しちゅんどー。」
「っあ、あぁあっ、ふぁっ、ぁ、んっ、…ふやぁっ、あっ!」
「っ………。」

潤んだ目をして見上げてくる裕次郎の耳元で低く名前を呼んだ途端、
一層甲高い声を上げてビクビクと体を震わせ始めるのに驚いて思わず扱いていた方の右手に力を込めすぎてしまった。
その直後、ぐっと背筋をしならせて達してしまった裕次郎に信じられない想いで息を詰める。

「はーっ…、はーっ……。」
「やー…、今のでイッたのか?」
「…………………。」
「じゅんに、名前呼ばれただけで?」
「…だって、…好きなんだよ、……凛くんが、好き。」
「…そんなにわんの事、好きかよ…。」
「うん…、好きだよ。」

そこまでの想いを誰かに見せつけられた事は今までに一度も無かったので、
裕次郎が真っ直ぐな目で俺のことが好きだと言った瞬間に体の奥からカッと熱いものが込み上げてくる想いがした。
それからどうしようもなく、目の前の人物が愛おしくなる。
大切に大切に扱いたいような、今すぐ滅茶苦茶に乱して泣かしてやりたいような、反芻するふたつの気持ちが留めなく胸に溢れだした。

「っ………なんかすげー、挿れたい。」
「うん、…いいよ。」
「………その前にひとつ聞きたいことがあるんだけどよぉ。」
「うん?」
「昨日はどうやってしたばぁ?」
「…え?何が?」
「わん、イナグなんてずっと居ないからゴム持ってねーらんばぁよ。それにローションとかも無いし。」
「昨日は…わんの使った。あと、ローションの代わりはそれ…。」
「それって…これ?」
「うん、昨日は凛君が出したやつだったけど…。」
「…き、気持ち悪くないんか?」
「でも、だって…昨日は何の戸惑いも無くそれ使ってたじゃん凛くん。」
「…じゅんにか…しかも…何でやー、イナグ居ないくせにゴム持ち歩いてんだしよ。」
「居なくたって、一応持っとくばぁ?お守りみたいなもんって言うか…実際こうやって使う機会だってあった訳だし…。」
「それは…、そうだけどよ…。」
「大丈夫だよ、わん、イナグ居ないよ…。」
「分かってるっつの…つーかこれ、ゴムも無ぇーし…買いに行くか?それかもう止めるか。」
「っ、なんで?ヤダ、そのままで良いからっ。」
「そうは言っても…後で大変なのやーだぞ?」
「うん、いいよそんなの。」
「…じゅんになー?」
「うん。」
「じゃぁ…続けるぞ?」
「うん。」

何度か確認を取ってみるも、このまま続けても良いという返事しか返って来ないのでそうさせてもらうことにした。
両足を開かせてその間にある入り口に裕次郎の吐き出したものを塗りつける。
一瞬ビクッと体が跳ねて、足が閉じられそうになった。

「ひぁっ…なんか、つめたっ……。」
「…ちょっとだけ、ガマンな。」
「…うん…、……んっ……っ…。」
「…痛かったりとかしたら、すぐ言えよ?」
「……うっ、ん…何か凛くん今日は…はっ、…優しいね…。」
「…昨日は?」
「…全然。」
「…。」
「すっごいイジワルで、最悪だった。」
「………わっさん。」
「…っ…ふぅっ…でも、それでも…はっ…好きだって思ったけど、…っん…今の凛くんの方が、もっと好きっ。」
「そっか、…よく嫌んなって帰んなかったな…。」
「わんは、…ふぁっ、は…凛君だけにはどんな事されてもっ、嫌いになれないよ。」
「っ…。」

裕次郎にしゃべらせておくと平気で心臓が止まりそうな台詞を吐くから危ない。
このままでは俺の心臓が持たない様な気さえして来る。

「なぁ、悪いけどちょっと黙ってて。」
「…ぁ…ごめんなさい…。」
「そうじゃなくて、わんが我慢出来なくなるから。」
「え?」
「言っとくけど、わんだってやーの事すっげー好きなんだからな。
本当は今すぐにでも突っ込みたいところだけど、やーの為を思って我慢してんの。それをそんな風に煽らないで下さいっ。」
「…凛くん。」
「ん?」
「わんもう何も言わないよ…でも、凛くんの声は聞いてたいから、しゃべってて欲しい。」
「うん。」
「…凛くん。」
「ん?」
「…ふっ、…好き。」
「うん。」

愛おしそうにそんな事を言われたので、キスで返事をする。
うっとりした顔で微笑む顔を見て、なぜだか泣きたくなる程幸せな気分になった。

「…んぅっ、……んっ…はぁ、…。」
「裕次郎さぁ、中で気持ち良いトコとかあるばぁ?」
「…う、んっ…はぁっ、ぁっ、あっ…ふぁっ、…そ、こ…きもちっ、い…。」
「…ここ?」
「…はっ、…も、ちょっと…上…んっ、…んんっ…。」
「ここか?…ちょっと硬い。」
「んっ、んぅぁっ…、そ、うっ…、そこっ、はぁっ。」
「りょーかいっ。」
「はぁっ、…ぁっ、はっ、はっ、…んっ、はぁっ。」
「………やーって、もしかしてでーじ敏感な人?呼吸乱れまくってるやっさ、そんなに気持ち良いんか?」

先ほどのことといい、この感度といい、普通よりも感じやすい体をしているのは明らかだった。
いくら初めてでは無いといっても、一度や二度でこんな風に後ろで快感を拾うなんて、普通では在り得る事なのだろうか。
裕次郎は俺の質問にこくこくと肯いて答えたけれど、いっぺんに質問をしてしまった所為でどの答えを言っているのか分からない。
…まぁ、十中八九最後の質問の答えであるだろうけれど。

「どんな感じに気持ち良いばぁ?」
「…んっん、…っあ、…はぁっ、…なん、かっ、じーんって、感じ?」
「…………ぜんっぜん分からん。」
「…はぁっ、ぁっ…とにかく、…気、持ちいいのっ…んっ。」
「ふーん…、もうちょっと強く押したらどうなんのかやぁ?」
「んやぁっ…はっ、あっ、…ふぁっ。」
「気持ち良いんか?」
「う、んっ…ぁっ、はぁっ…あっ、はあぁぁっ…り、んくっ!」
「すっげー声……。」

いつの間にか指を数本飲み込んでいた後ろに、より強い刺激をと少し力を入れて揉む様に押し上げると、
いかにも気持ち良いですと言わんばかりの大きな声を上げるので、思わずゴクリと唾を飲んだ。

「んっ、んっ、んっ、んぁあっ、…はぁっ、んっ…凛くんっ。」
「…なんかもう無理なんですけど……、挿れても良い?」
「んんっ、…いいよぉっ…、はっ、やくっ…。」
「うん、…わっさん。」

一応許可をとってから中を傷つけないようにと慎重に体を進めていくと、裕次郎が眉を寄せてきつく目を瞑った。
この表情からは痛いのか気持ちいいのか分からないけれど、歯を食いしばって心なしか苦しそうな声を出しているような気もするので、
もしかするとあまり快感は感じていないのかも知れない。

「っ…ぁ、…くぅーっ、んっ、…はぁっ、はー…。」
「っ………すっげーきつい。」
「くふっ………はぁっ、…んーっ……んっ。」
「裕次郎、大丈夫か?痛い?」
「………はぁ、いたく、ない………はっ…はぁーっ…。」

全体が裕次郎の中へ押し入ってからしばらくは動かないで居ようと思っていたのに、
想像以上に中が狭かった事と、俺が名前を呼んだ所為か一瞬きゅっと締め付けられた感覚に早々耐え切れなくなってしまった。

「ぅっ、…やっばい、もう動いていいか?」
「んっ…いいよ、動いて。」
「………っ、………はっ…………。」
「…っん、…………んんっ…ふぅっ…ん…。」
「……はっ、……は、………は、……。」
「…んぁっ、……は、ぁっ……りんくん…。」
「…っ、……っ、…はっ、……はぁっ、…はっ…。」
「んっ、や、…はぁっ、…あっ、…ぁっ、はぁっ、あっ。」
「…っ、…んっ…、はっ、…はっ、…、は、は、…はっ。」
「んぁっ、あ、…り、くんっ…、んっ、んっ、りん、くんっ。」
「…はっ、…裕次郎…、はっ、はっ、…は、…。」
「ふぁあっ、…あっ、ぁっ、あっ、りんく、んっ…こ、こ…ココがいっ、い。」

段々と激しくなる動きに、裕次郎が切ない声で何度も名前を呼ぶので俺からも呼び返してみる。
予想通りその呼びかけは裕次郎にとって快感に変わるらしく、締め付けがきつくなる。
それから俺の予想に反して裕次郎が徐に俺の腰へと両足を絡め、ぐっ、ぐっ、引き寄せながら自ら腰を動かし自分の一番感じるらしい場所へと導いてくる。
所謂だいしゅきホールドと言われるそれに、なんだか頭がクラクラして一瞬意識が遠のきそうになった。

「…ぅわっ、それ癖なのかよ…っ、ヤバイんっ、だって、あんま締めんなっ。」
「んっ、ん、…はぁっ、んっ、ん、んっ。」
「バカッ、オマエ声ガマンすると余計狭くなるだろうがっ、裕次郎っ!」
「んやぁっ、…はっ、ぁっ、あぁっ、あっ…んっ…。」
「ぁっ、くそっ、…名前言っただけだろ、何でそんなっ…はっ。」
「…んんふっ、んっ、わ、かんないっ、いっきに、そんないっぱい言われてもっ、どうすればいいのか分かんないよぉっ。」
「…チッ…はっ、はぁっ、もう、知らねーからな、…どんなに早くても、文句言うなよっ。」
「…んっ、んっ、りんくん、…りんくんっ…はぁっ、あっ、ぁ。」
「…はっ、…は、…なんだよ…っ、は、はぁっ。」
「…お、こらないで、…お願い…ふぅっ、あっ、好き、だよっ…。」
「はぁっ、はっ、…わっさん、怒ってたんじゃない…、わんも、しちゅんど…裕次郎っ…。」
「ひぁあっ、凛くん…、り、くん…ん、んぁっ、あぁあっ、好きっ。」
「は、はぁっ、…はっ、は、は、はぁ…。」
「りんくんっ…、りん、くんっ…、あっ、ぁっ…あぁあっ…はっ、好きっ…んっ、あぁっ…。」
「…ゆうじろうっ…はっ、はっ、…はっ、…っ、はっ。」
「あぁっ、りんくんっ、りん、くっ、…んーんっ、好きっ、好き、好きぃっ。」
「くぁっ、はっ…ちょ、オイッ、…一旦、はっ、離せっ…足っ、…えー、足っ!」
「いっ、やぁだっ…り、んくんっ…離れたくないっ。」
「っ…、もう…出そうだから!離して、裕次郎っ!」
「いっやだっ、…こっのままでいいから!…あっ、中に出してよぉっ!」
「っ…、ゴム付けてないんだぞっ!」
「…い、いのっ!いいからぁっ!」
「っ―…、くそ…っ、ごめん裕次郎っ……、つっ―…、くっは、っは、…はぁー、はぁー…。」
「ひゅぅっ…んっ、くぅんーっ、…っん、…ぁ、はぁ…はっ、…はぁーっ、はぁーっ…。」

頑なに巻きついた足を離そうとしない裕次郎に、なす術も無く中に全てを吐き出してしまった。
その後に裕次郎のモノを絞るように扱くと、ぎゅーっと足を縮こまらせ、きつく目を閉じ硬く口を引き結びながら、
引きつった声を上げてビクビクと痙攣し、俺の手の中へ白濁を吐き出す。
裕次郎は全てを出し切ってから全身の強張った力を抜いて、吐息のような声を上げた。
それから何度か荒い呼吸を繰り返しぐったりとした体を、一度ティッシュで右手を拭ってしまってからそっと抱きしめた。

「………………わっさん裕次郎…、ゴム付けてないのに…。」
「っ…ふっ…、……凛くん…。」
「泣くなよ…。」
「っ…、………っ…、ひっく…っ。」
「………………やっぱ、泣いて良いや。」
「っ……凛くん、なんで…っ、そんなに優しいの…?」
「なんでって…。」
「全部っ、わんの我侭じゃんっ…凛くんなんもしてないのにっ、怒んないの?…嫌になんないのっ?」
「…なんでだよ、わんにはやーに怒る理由も嫌になる理由もねーだろ。」

くしゃっと顔を歪める裕次郎。
まったく何処まで泣き虫なんだと言いたくなるけれど、きっと俺に愛想尽かされはしないかと心配で不安で仕方が無かったのだと思う。
実際には結果として大変なのは裕次郎の方。
逆の立場だったとして俺なら自分がキレていたかも知れない。

「……凛くんっ…。」
「んー?…余計な心配しなくていいからシャワー浴びて来いよ、な?」
「…ずびっ…。」
「何?」
「凛くんっ、は?」
「…わんは、後で入る。」
「…っ…。」
「何だよ、それとも一緒に入るかよ…中洗ってるとこ見られたいのか。」
「…い、やだっ………でも。」
「あぁ…、寝ない寝ない、寝ないで待ってるから早く行って来い。」
「う、ん。」

素直にベッドから降りて衣類をかき集めてから風呂場に向かおうとする裕次郎が途中、突然動きを止めた気配が伝わってきてそちらに目を向けた。
その時俺の出したものが裕次郎の中からドロッと溢れ出て太ももを伝うのを見てしまい、俺は慌てて目を逸らす。
なんとなく見ない方が良いものを見てしまった様な気がして、無駄に心臓がバクバクとした。
壁際に目線を寄せていても、裕次郎がこちらを振り返って見ているのが分かる。
しばらく息を詰めてじっとしていると、裕次郎が黙って風呂場に向かって行ったのでそこで漸く息をつく事が出来た。
途端に部屋がしーんと静まり返る。
一人きりの何もすることのない空間と事情後の気だるい感覚に、目を瞑るとすぐにでも意識を手放してしまいそうだ。
まだ正午にも至らないこの時間帯、カーテン越しに射し込む光にうとうとと数回目を瞬かせ、強烈な睡魔に観念してゆっくりと目を閉じた。

「凛くん。」
「…。」
「凛くんっ…、寝ちゃったの?」
「…んー、ねてないねてない…。」
「…。」
「…おいで。」

完全に寝ていました、というぼんやりした目と声で返事をしてしまい、裕次郎の方を見上げると案の定悲しい目をしてこちらを見ていた。
すぐに手を伸ばして自分の寝転がる隣へ来るように諭すと、裕次郎は素直にそこへ座った。

「…もう風呂入んのめんどくせぇ、一眠りしてからでも良いかやぁ。」
「お風呂入ってから一眠りしたら?その間にシーツ代えとくから。」
「あー、いいばぁ?じゃぁ行ってくるさぁ。」
「うん。」
「…あ、ドライヤーそこにあるから。」
「うん。」

裕次郎と交代に風呂場へ向かい、脱ぐ服も無いのでそのまま浴室へ直行する。
シャワーを浴びると少しずつ目が冴えて来て、二日分の汚れを洗い流したことですっきりとした気分になった。
それでも体が纏う疲労感は消えないので、風呂を出たら一度眠ることにする。
新しいシーツで大好きな裕次郎を抱きしめながら、時間も気にせずに眠るんだ。

「さっぱりー。」
「…。」
「裕次郎。」
「…。」
「ゆうじろうさーん…寝てんのか?」
「…。」
「なんだよ、自分が寝てるんじゃねーか…。」
「…。」
「まぁいいか、わんもからじ乾かして寝よー。」

リビング兼ベッドルームのその部屋、風呂から戻ってみると隅っこに置かれたベッドの上で愛しい恋人はすでに寝息を立てていた。
自分は寝ないで待っていろと言った癖に、と内心で思ったりもしてみたけれど、実際には自分も寝入りかけていた事だし、
この気だるい気分でベッドに横たわっていれば眠ってしまう気持ちも分かるのでそっとしておくことにする。
俺は髪を適当に乾かして、布団に潜り込んでから裕次郎の首の下に腕をねじ込み、無理に腕枕をしてからその体をぎゅっと抱きしめて目を閉じた。
誰かの温もりを抱いて眠ると、それだけで安心感が得られる。
ゆっくりと沈んでゆく意識に身を委ねて、俺は眠りの世界へと落ちていった。

「ん…、凛くん。」
「…んー?」
「…ごめん、勝手に寝てた。」
「うん、いいよ。」
「…。」

覚醒しきっていない頭では瞼を持ち上げることが出来ず、ほとんど反射のような形で返事を返した。
じわじわと頭が冴えて来て目を開けると、腕の中に居たはずの裕次郎は上半身を起こしてぼさっとこちらを見ている。
それから唐突に唇にキスをされ、裕次郎の方を見ると照れたように笑っていた。

「なんか、腹減った…今何時。」
「…2時だって。」
「昼飯時だな、…コンビニ行かねぇ?」
「いいよ。」
「うしっ。」

勢いよく体を起こしてベッドから降りると、裕次郎が小さくクスクスと笑うのが聞こえた。
なんだよ、と視線を寄こすと裕次郎が俺の頭の方を指さす。

「凛くんからじボサボサだよ。」
「あぁー、まぁ適当に結んでけばいいだろ。裕次郎も結ぶ?」
「え、あぁ、ううん、わんは帽子あるから平気。」
「そうか…あぁーっ、着替えんのもめんどくせぇな…変な格好だけどこのままでいいか。」
「どうせコンビニ行くだけだし。」
「おう。」

そうやって髪をひとまとめに結った後、財布と携帯、それから鍵を持って家を出た。

「凛くんなに食べんの?」
「パン。」

コンビニの入って正面、レジのすぐ横の棚に並ぶおにぎりやサンドイッチの中からひとつ選んでカゴに入れると、
後ろから裕次郎がひょいっと覗き込見ながら尋ねてきた。
それに適当に答えて隣の紙パックの飲み物やデザート類の並ぶ棚に移動する。

「サンドイッチ?」
「んー。」
「なにこれフルーツサンド?げぇ…メインにそれなの?」
「いいだろ、甘いもん好きなんだよ。」
「まぁいいけどー…あ、凛くん、パインゼリー買ってー!」
「…しょうがねぇな。」
「いいの?やった!」
「…。」
「あと雑誌!」
「はぁ?自分で買えよ。」
「財布持ってきてなーい…。」
「は?コンビニ行くっつったろ。」
「いいじゃんー…。」
「もしかしてやー、食べ物このゼリーしか買っていかないつもりだったんか。」
「んー。」
「はぁ…、買ってやるから適当になんか持って来いよ。」
「いいの?ありがとう!凛くん大好き!」
「はいはい、最初からそういうつもりだったんだろーが…。あ、あとついでにわんのカルボナーラ持って来い。」
「うん。」

裕次郎は嬉しそうにきゃっきゃと弁当のコーナーへ向かい、うーん…とかなんとか唸りながらも案外すぐにひとつを選んで戻ってきた。

「…凛くん、わんこれが良い。」
「なにこれ?」
「炭火焼き牛カルビ弁当。」
「なにちゃっかり高いの持って来てるんだしよ。」
「だってお腹空いた…さっきので疲れたんだよー。」
「…まぁいいや、ほらカゴに入れろ。」
「わーいっ。」
「…あ、と、は…。」

買おうと思っていたものでまだカゴに入れていないものを頭に浮かべて日用品コーナーへ向かう。
そこで無造作にコンドームの箱を数箱掻き込む様にガサガサとカゴに入れていると、裕次郎がギョッとした顔をしながら見てきた。

「あいっ、そんなに買うの?」
「んあ?何回も買いに来んのめんどくせぇだろ。それとも毎回つけないでヤッてシーツ代えんのかよ。」
「ぅ…でもさぁ、レジの人若い女の人だよ。」
「…あのな、誰がそんなの気にすんだよ。心配しなくてもわんが買うんだし、これからこのコンドームこいつと使いまーす、とか言わねーしよ。」
「ぁ、凛くん声デカイ!店員さん今ちょっとこっち見たあんに!?」
「…なんだよ乙女君。あれはわんがあまりにカッコいいから見ただけさぁ。こっちはさっきからチロチロ見られてるんだよ。」
「…そうなの?」
「そうなの。やしがこんなもん大量に買ってたら声掛けてこないだろ、さすがに。」
「…。」
「なんだよ、じゃあ今コレ棚に戻してやーが後で一人で買いに来るか?…わんがあのいなぐに口説かれてもしらんどー。」
「ぅ、買う!今買うっ!」
「だろ?…後なんだっけ、雑誌?欲しいのあんなら早く持って来いよ。」
「う、ん…やっぱいい。」
「…じゃあもうこれ買いに行くからな。」
「うん。」

レジ打ちをしていた若い女の店員さんは、俺の買い物カゴの中身を見てか顔を赤くしてテンパっている様子だった。
ゴムを紙袋に入れるか聞かれて笑顔で要らないですと答えると、最終的に手が震えていたのが面白かった。

「凛くん。」
「んー?」
「凛くんってやっぱりモテるんだね…カッコいいもんね。」
「おー、わんはよぉ、人生にはモテ期が3回来るって言うけど、自分にはそれが当てはまらない気がするんさぁ。1回目のモテ期が終わる前に人生終わるかもしれん。」
「すごい自信だね…。」
「まぁ、別にモテ期がいつ来ようが終わろうが、わんには裕次郎がいるから関係ない。」
「…。」
「だろ?」
「うん。」
「…。」
「凛くん。」
「んー?」
「…手繋ぎたい。」
「…ここ外やんどー。」
「うん。」
「あっちに若い綺麗な女の人いるど。」
「うん。」
「コンビニでゴム包装してもらわなかったから丸見えどー。」
「別に、いい。」
「…。」
「…。」
「…ん。」
「…。」
「なんだよ、繋ぎてーんだろ。」
「うん。」
「どうせ家すぐそこだけどなぁー。」
「いいの。」
「ふーん。」

言われた通り手を繋いでやったら、裕次郎は隣を人が通るたびに緊張気味に俯いて握られた方の手に力を込めた。
コンビニから家まではそう遠くない事だし、そこまでして手を繋ぐ意味はあるのかと言いたかったけれど、
裕次郎が良いと言うのならば元々何も気にしない俺としては特に嫌がる理由も無いのでそのまま家に帰る。
さすがにコンビニ袋と握られた手を交互に凝視された時はガンを飛ばしてやったけど。

「凛くんのカルボナーラ温めるー?」
「んー。」
「分かったー。」
「…うぉっ、ギリ全部入った。」
「…。」
「裕次郎〜…。」
「何?」
「ベッドのサイドボードにぎっしりコンドーム詰まってる男ってどう思う?」
「え?どれどれ見せて?…わ、本当だっ!」
「ひどいな、コレは。」
「くくっ、いいんじゃない?凛くんってそんな感じだし。」
「そんな感じってどんな感じよ。」
「なんか常に綺麗な女の人とっかえひっかえ家に連れ込んでる感じ。」
「ひでぇ…、それやーに言われるとちょっと落ち込むどー。」
「あははっ、わっさん。でも、だから昨日ゴム持ってないって言われた時すっごいびっくりしたんばーよ。」
「…。」
「よかった、誰にも取られて無くって。」
「裕次郎。」
「ん?わっ。」
「んっ。」
「ふふっ。」

ベッドの端に座ったまま、正面に立っている裕次郎の腰をぐっと引き寄せる。
上目使いで唇を突き出せば、意図が分かったらしい裕次郎が笑いながらキスをくれた。
それから一気に腕を強く引いて引き倒すようにベッドへ転がり、その両腕をシーツに縫い付けるように押さえ込む。
そんな風にされても至極冷静な顔をしている裕次郎に面白く無い気分になった。

「りーんくん、わんお腹空いたさぁ。」
「こんなに買ったのに使わねーの?」
「いいじゃん、どうせ3年くらいは持つんでしょ。」
「ちぇーっ。」
「てゆーか今日はもう無理…朝も昨日もしたじゃん、疲れたさぁ。」
「…だよなぁ。」
「だよぉ…。」
「やしがやーが泣いてるとこ見たいんだよ、可愛いから。」
「なっ…凛君ってほんっとイジワル。」
「そうだよ、イジワルですよ。」
「…。」

拗ねた顔をする裕次郎の腕をぱっと離し、勢いよく起き上ってベッドを降りる。
それからレンジに入っていた弁当を取り出して見せびらかす様にフタを開けた。

「わんも腹減ったから飯食おー。やーの弁当カルビのとこだけ寄越せ。」
「なんで!嫌だよ!ねぇ、やだっ!」
じん払ったのわんどー。」
「もぉー…凛くんヤダ…。」
「…うそうそ冗談だって、全部食っていいから。」
「…もう要らない、食べていいよ。」
「何でだよぉ、ほらあーん。」
「…ん……、まーさん。」
「結局食うのかよっ。」
「うるさい…。」
「くくっ…。」

裕次郎が泣き虫なようで案外我慢強い性格をしている事を俺は良く知っている。
それが証拠にこれまで長い間一緒に過ごしてきた裕次郎の涙を見るのは今日が初めてだった。
全国大会、失恋、受験、その他もろもろの悲しい事や嬉しい事、全部笑って乗り越えてきた奴だ。
だから本当は裕次郎は強い。
どうやら俺に対してだけ緩くなるらしい裕次郎の涙腺に、嬉しさと同時にどうしようもなく苛めてやりたい気分になる。
これからも嫌われない程度に泣かせてやろう、これは俺の専売特許だ。





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