「じゃあどうしろって言うんだよ!」
普段温厚、というよりは滅多に感情を表に出さない知念クンが珍しく声を荒げたので、
その場に居合わせた部員達は少なからず驚いた様子で一斉にそちらへ目を向けた。
そこで自分が注目の的になっている事に気がついた知念クンは一瞬ハッとした表情を浮かべた後、
すぐに怒鳴りつけた相手への謝罪を小さく口にして部室を出て行ってしまった。
俺も含めそれまで他の部員達も普段のようにそれぞれ話をしたり部活の後片付け等をしていたし、
騒々しいとまではいかなくともそれなりに部室もにぎわっていたので、
本人達やその輪に入って話をしていた平古場クン以外は
何が起こったのかを把握しきれずにお互いに顔を見合わせてざわざわとし始めた。
ざわめきの中心に取り残されたふたりは小声で何事かを話している様子。
近づいてみると、会話していると言うよりかは一方的に平古場クンが彼に話しかけていると言った感じで、
俯いてしまっている相手に平古場クンも少々困惑気味な表情を浮かべていた。
「どうしたんです?」
「ああ、永四郎。」
「何があったの?」
「いや、ちょっとな。…っ、泣かんけー。ほら、知念だってちょっと混乱しただけやし。」
「…っ、…でも…寛は滅多に怒ったりしない、のにっ…、わんが怒らせた。」
「大丈夫だって。怒ってる訳じゃなくてちょっと訳わかんなくなってただけさに。」
「そんなのわからないじゃんっ…嫌われたかも、しれないし…っ…。」
「そんな事で知念がやーのこと嫌う訳ないさぁ。」
「だってっ…寛に怒鳴られたことなんて、今までなかったしっ…絶対呆れられてる。」
「はぁー、わん結構長い間知念と過ごして来てるから分かるけどさ、今頃あにひゃーの方が落ち込んでるぜ。
なんで怒鳴ったりしたんだろうって。やーに嫌われたかもって。」
「でも…。」
「まあ、こうなっちまったのはもうどうしようもないし。落ち着いたらちゃんと話しに行こう。」
「うん。」
俺は甲斐クンを慰めている平古場クンへ目で合図を送ると、何処かで同じように落ち込んでいるであろう知念クンを探しに部室を出た。
いちどぅし
「知念クン。」
「ああ、永四郎。」
「何があったんです?」
「いや、…ちょっとな。」
水道の並ぶ道を少し行ったあたりのコンクリートの段に腰かけてぼーっとしている知念クンを見つけて話しかける。
すると彼からは先ほど聞いたような返答が返ってきた。
付き合いが長いと言動なんかも自然と似てくるものなのだろうか。
それにしても先ほどの平古場クンと同じように困ったような薄い笑みを浮かべる彼を見ていると、
やはり彼らの中にある特別な何かを感じさせられる。
「裕次郎、大丈夫か?」
「大丈夫とは、言いきれないですね。」
「…。」
「彼、泣いてました。」
「っ…裕次郎が?」
「ええ。平古場クンが必死に慰めていましたけど。」
「はぁ…なんであんな大声で怒鳴り付けるみたいなこと…裕次郎に、嫌われたかや。」
「…。」
「別に、怒ってなんかいなくて…ただ、訳が分からなくて、どうしていいか分からなくなって…それで気が付いたら裕次郎に向かって大声で怒鳴ってて。」
それを聞いてまず、目の前の彼を慰めようだとかそんな事を考える前に、
平古場クンの言った考えがひとつも外れていない事に単純に驚いた。
正直な話、もしも甲斐クンや田仁志クンが知念クンの様な立場に立った時、
俺には彼らの心境を的確に言いあてられる自信はない。
それなりに信頼関係を築いているとしても、相手の心理まで読むなんてことはそう容易いことではない。
「甲斐クンが、言ってました。滅多に怒ったりしない知念クンがあんな風になるような事を言ったんだから呆れられているだろうって。
知念クンに嫌われたらどうしようって。そんな事言うんだから彼が知念クンを嫌うなんてことは無いでしょうね。」
「…やしが。わんはどうしていいのか分からなくなってしまったさあ。」
聞いてくれないか、そう言って知念クンは事の成り行きを話し始めた。
ある事をきっかけに知念クンと甲斐クンはお互いに想いを寄せるようになった。
その後平古場クンの必死の取り持ちの甲斐もあってか晴れて恋人同士になったふたり。
ここまでは俺を含めレギュラーの数人は承知の事実だ。
それはまあ、最初は俺自身も思っても見なかった事に驚いたりはしてみたけれど、
以前より幸せそうな表情をする事が多くなったふたりを見ているとそれもそれで悪くないと思えるようになっていた。
ところが最近、どうやら知念クンに好意を寄せる女性が現れたらしい。
それだけならまだ良いのだけれど、彼女は積極的な人物で、たびたび知念クンの元へやってきたり、
何処かへ誘ってきたり、プレゼントを渡してきたりという行動を取るらしい。
知念クンとしてはそれで別段困る事は無いし、彼女の行動は単純に知念クンに対する好意からのものであって
悪い事では決してないのだから彼女を責めるようなことはしたくないし、
自分に恋人が居るという事実を知らないのだから仕方がない事だとは思うのだけれど、
それでも甲斐クンの為を思っていつも部活などを理由に彼女からの申し出を断っていたらしい。
彼女の事については甲斐クンも承知済みで、でもだからと言って特別何かを言ってくることも無かったそうだ。
それが、最近になって突然甲斐クンの様子がおかしくなり、急に彼女の事を褒め出したり、上の空で居る事が多くなった。
その事が心配で甲斐クンの様子を念入りに窺っていると、案の定今日も何処か様子がおかしかったそうで、
話しかけてみるとまた彼女を持ちあげるような事を言う。
そんな彼に対して知念クンもさすがに訳が分からなくなって、
どうしてそんな事を言うのか、自分には甲斐クンしかいない、そんなような内容を彼に伝えたそうだ。
すると甲斐クンから返って来た答えが“どうしてあの子の誘いに乗ってあげないの?”だった。
どうしてと言われても、そんなのは甲斐クンが居るからとしか言いようがない知念クンは素直にそう答えた。
そこでそばに居た平古場クンもそんなふたりのやり取りを聞いて会話に入ってきたそうだ。
“裕次郎?どうした?”そう問いかける平古場クンも甲斐クンの発言に疑問を持っていたらしく、
甲斐クンが先ほどの様な見当違いな発言をしないように気を使ってくれたそうだ。
それでも次に甲斐君の口から発せられた“でも、あの子は寛に付き合ってる人が居る事を知らないよ?”という発言に、
頭が真っ白になってどうしていいのかわからなくなり、気が付いたらあのセリフを大声で発してしまってしたらしい。
「つまり、甲斐クンが可笑しな言動を取るようになった原因は知念クンに好意を寄せていると言う彼女の所為だと言うことでしょうか。」
「…やしが、それだと突然態度が変わった説明がつかない。」
「…そうですね。」
それからあれこれと考えを巡らせていると、ふと思い出す事があった。
それは、確かに今まで甲斐クンと過ごしてきた中で俺にも身に覚えのあることだった。
たとえば、彼と俺とでは幼い頃からの家族付き合いがあり、良く一緒に遊んだりもしていた。
当時は本当にもう、それが当たり前だと言うように毎日一緒に居たように思う。
そんなある日、突然彼が言い出した言葉が“どうしてわんと遊ぶの?”だった。
どうしてと言われても、それは彼とは昔からの仲で誘いやすいし、すでに一緒に居る事が当たり前になっていたから
今更そんなものの理由を問われた所でこれという返答は出来ないし、思いつきもしなかった。
するとそんな俺に再び甲斐クンが訪ねてきた。“他の人じゃダメなの?”と。
その時俺は、ひどく悲しい気持ちになったような気がする。
それは彼にとって、自分と居る事は苦痛なのだろうか、退屈なのだろうか、
だから遠まわしに誰か他の人のもとで遊べと、そう言っているのだろうかと、そんな考えが浮かんだからだった。
そこでたまらなくなって泣き出した俺に、甲斐クンは困った顔をして何度もごめんね、といいながら頭を撫でてくれた。
その瞬間俺は、さっきの彼の質問の答えを見つけた。
どうして自分は甲斐クンと遊ぶのか、どうして彼と一緒に居るのか。
それは俺が彼のことを友情的な意味で慕っており、一緒に居れば安心できる、唯一無二の親友だと思っていたからだ。
俺がその事を甲斐クンに告げると、彼は満足そうな笑みを浮かべて“そっか、わんも永四郎がいちどぅしだと思ってる”と言った。
それでようやく俺は、甲斐クンがその言葉を待っていたんだと、突然の言動の意図を理解することができた。
つまり彼は、相手がどう取るのかという事を全く考慮に入れないある意味真っ直ぐな質問を投げかけて、
其の実遠回り過ぎるくらい遠回りな、それでも一番聞きたい返答が返ってくるような言葉を選んで、
相手が自分の欲しい答えを返してくれる事を待っていたのだ。
そう、今回も同じ事。
たとえば知念クンに対する、どうして彼女の誘いを断ってしまうのかという質問には、
知念クンに自分には甲斐クンが居るし、甲斐クンが一番大切だから誘いを断っているという答えを求めている。
次の彼女は知念クンに恋人が居ると知らない、という発言は、
一見彼女はふたりが付き合っている事を知らないのだから付きまとわれても仕方がない、とか
彼女にバレなければ浮気でも何でもできる、という発言のようにも取れるけれど、
俺の憶測に寄ると甲斐クンは知念クンにはっきりと自分には恋人が居るから、
という風に彼女の誘いを断ってくれないのはなぜか、という事が言いたいように思える。
そう考えると全ての辻褄があって、それと同時にどこまでも真っ直ぐで不器用な“いちどぅし”の彼が、
滑稽で、無性に愛おしい生き物であるように思えて思わず声をあげて笑ってしまった。
隣で真剣な顔をして悩んでいた知念クンは、当然訳が分からないと言うような表情でポカンとこちらを見ている。
さすがに平古場クンと知念クンのように言動やその他の行動が似てくると言う事は無いけれど、
これも俺と甲斐クンの過ごした時間の中で着実に築かれてきた何かがある事の証しに思えた。
知念クンは未だに笑いの収まらない俺を訝しげに見ている。
けれどなんだか簡単に答えを教えてしまうのももったいないような気がして、
だからわざとヒントを与えるように言ってみた。
「知念クン、甲斐クンの質問覚えてます?」
「え?うん。」
「甲斐クンは真っ直ぐで不器用で偶に遠回りな子なんです。だから、悪い方に取らないであげてください。」
「それは…どういう意味だ?」
「つまり、甲斐クンは彼の欲しい答えが返ってくるような質問で有れば、
相手がどのように取るかなんてお構いなしに真っ直ぐにぶつけてきてしまうと言う事です。」
「…。」
「だから、少し甲斐クンの気持ちになって考えてあげてみて下さい。そうすればきっと、彼の言いたかった事が分かると思います。」
しばらくの間視線を宙に向けて考えを巡らせている様子だった知念クンが、徐に立ち上がって部室へ戻ろうと言った。
・
・
・
「裕次郎。」
知念クンが部室に入りながら呼びかけると、人気のなくなった部室の、
入り口から反対側の壁にもたれて体育座りをしながら話していたふたりが一斉に知念クンの方へと目線を向けた。
甲斐クンは自分の方へそろそろと近寄ってくる知念クンを、目線だけはじーっと追っている。
知念クンは甲斐クンの前まで来ると、しゃがんでから甲斐クンの頭をそっと撫でて、優しい声色で「ごめんな。」と謝った。
それからすぐに立ち上がって、カバンから携帯を取り出すと何処かへ電話をかけだした。
そう言えばあの携帯も甲斐クンと付き合うようになってから購入した物だから、
無理を言ってでもそんなものを手に入れようとするほどに、彼は甲斐クンの事を想っているのだろうと言う事が伝わってくる。
しばらく無言で相手が出るのを待っていたらしい知念クンが電話口で相手の名前を呼ぶ。
そのとたんに平古場クンと甲斐クンの表情が強張ったような気がしたから、
もしかすると知念クンの電話の向こう側に居る人物は彼に好意を寄せていると言う女性かもしれない。
「今日これから会えますか。…あ、にふぇー。…家の近くの、うん、…うん、犬がいっぱい居る…公園?
…いや、あ、大丈、夫…たぶん。…いや、それだったらわんがそっちの家に行く。うん、…じゃあ近くに来たらまた連絡します。」
「………知、念?」
何をしているんだ、と言いたそうな声で平古場クンが知念クンの名前を呼ぶ。
知念クンはそんな平古場クンに目配せをして、平古場クンは何かを悟ったように頷く。
隣には先ほど知念クンが彼女の名前を呼んだ時から不安げに眉を寄せる甲斐クンが居て、
知念クンが近付くにつれてより一層不安げな表情をした。
彼の右手は隣に居る平古場クンの左手をぎゅっと握り、知念クンが目の前まで来てしゃがみこみ、
「裕次郎。」と名前を呼んだ時には肩を跳ねさせてきつく目を瞑ってしまった。
それは知念クンに対する恐れだとかではなく、捨てられるかもしれないと言うことに恐怖する故の行動だと見てとれた。
そんな甲斐クンの頭を、知念クンはさっきみたいに優しく撫でながら再び彼の名前を呼んだ。
「裕次郎。」
そのとたんに甲斐クンの瞳からはぽろぽろと涙があふれ出す。
知念クンはその涙を親指でぬぐいながら言葉をつづけた。
「ごめんな、裕次郎。」
「…ごめんて、何。…どうして謝ったりするの。」
「…不安にさせた事と、怒鳴ってしまった事と、あとは…すぐに気付いてやれなかった事を謝りたかったから。」
「…。」
それから知念クンは床に膝をついて甲斐クンをぎゅっと力強く抱きしめた。
知念クンの肩越しに目を見開いた甲斐クンの顔がのぞく。
知念クンがそのまま甲斐クンを抱え直す様にして抱きしめ、丁度正座をするようになった知念クンの足の上に甲斐クンがちょこんと座る形になる。
そのとたん、ふっと甲斐クンの表情から余計な力が抜けたように見えた。
「裕次郎、わんにはやーしかおらんどー。わんは…凛や永四郎、慧君や他の皆も好きだし、でーじ大切な仲間だと思ってる。
やしがかなさんって、そう思うのは、わんがそんな事言うのは裕次郎だけやっし。わんは裕次郎だから一緒に居たいんであって、他の人じゃダメなんばぁ。
だから、余計な事考えなくて良いし不安になったりしなくていい。それから、わんのことを信じてくれたらうれしい。…でーじかなさんどー、裕次郎。」
知念クンのその言葉を聞いて、甲斐クンが驚くくらい優しい顔をした。
今まで俺が一度も見た事が無いような、そんな溶けそうに優しい表情を。
ふと平古場クンに視線をずらすと、彼も自分と同じように驚いた顔をして知念クンの方を見ていた。
きっと彼の方にも見えたんだろう。彼のいちどぅしの、あの表情。
それから目があった俺達は、なんとなくおかしくなって頬笑みあった。
・
・
・
「あんせー、行ってくるさぁ。」
「うん。」
「裕次郎も行きたいんばぁ?」
「ち、ちがうさぁ。わん寛の事信じてるもん。」
「ふーん、じゃあやーはこっちだろ、帰ろうぜ。」
「あ…ちょっと待って凛君。」
「ん?」
「あ、のさ…寛。わんここで待ってちゃ、ダメ…かやぁ。」
「…わんは別に良いけど。」
「はぁ?わん見たいテレビあるんやしが。」
「…凛君は先に帰ってもいいんだよ?」
「あ、…やしがよぉ。」
「まあまあ、平古場クンは俺と先に帰りましょう。」
「お、おう。…やしがじゅんにひとりでいいんばぁ?裕次郎。」
「うん。」
「わったーじゅんに帰っちまうぞ?いいのか?」
「うん、大丈夫。」
「そうか、じゃあわったーは帰る。…また明日なー。」
「うん、ばいばい。」
「寛も、あの子待たせてるんでしょ?早く行っておいでよ。わんはこの公園で待ってるから。」
「わかった。時間かかったらごめんな。」
「大丈夫さぁ。ゆっくりでいいから。」
「うん。あんせー、いってきます。」
「いってらっしゃい。」
* * *
「もしもし?わんです。知念。遅くなってごめん。今家の前についたから、出てきてくれると助かる。」
『うん、大丈夫だよ。今行くね。』
それから本当にすぐ出て来た相手を見て電話を切った。
『こんばんは、知念くん。』
「こ、こんばんは。」
『…大体何を言いに来たのかは想像がつくから、そんなに硬くならなくても大丈夫だよ。』
「あ…。」
『良い事じゃないんだよね?その顔見たら分かる。』
「うん…わっさん。その、やーがわんに色々してくれる事は嫌とかではなくて、わんの事を良く思ってくれてるのは嬉しい。
やしが…わんには特別な人が居るから。だから、ごめんなさいって。…ええと、それだけ言っておきたくて。」
『…そっかぁ、知念くんにもそんな人がいるのかぁ。…それは、好きな人って意味かな?それとも…恋人とか?』
「うん。大切な、うむやー。」
『そうなの?じゃあ知らないで私、その人にも悪い事しちゃったね。ごめん。』
「いや、や―が謝る事ねーらん。さっきも言ったようにわんはやーに対して迷惑だとか思った事は無い。
でも、や―のしてくれた事に答えられないのはわんの方だから、だからわんから言わせてほしい。わっさん。…それから、ありがとう。」
『あー、もう嫌だなぁ。』
「…。」
『そんなこと言われたら私、知念くんのこともっと好きになっちゃうよ。だから、もうこれ以上何も言わないでね。』
「…。」
『わざわざここまで来てくれてありがとう。それじゃあ、また明日学校で会おうね。明日からも普通のクラスメイトで居てね。』
「うん。…おやすみ。」
『気をつけて帰ってね。…それから、悔しいから絶対、彼女の事ずっと大切にしてね。』
「…ふっ、うん。」
* * *
〜♪〜
――――――――――――――
From:りーん![]()
件名:おーい
――――――――――――――
もう家着いた??
――――――――――――――
「まだ…公園で、待ってる。…なんで?」
〜♪〜
――――――――――――――
From:りーん![]()
件名:Re Re おーい
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いやあ?
寂しくないかなあって思って
――――――――――――――
「まあ、ホントの事言うとちょっとさみしかったな。でも凛君がメールくれたから大丈夫!」
〜♪〜 〜♪〜
「あ、2件同時。」
送り主を見て、凛君には申し訳ないけれどやっぱりもう一人の方のメールを先に開いてしまった。
――――――――――――――
From:
愛人![]()
件名:おまたせ
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公園の入り口に着いた
インが居ては入れない
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視線を公園の入り口に向けると、そこには待っていた人が立っていた。
急いで駆け寄って勢いよく抱きつく。抱きしめ返してくれる腕が、たまらなくうれしい。
〜♪〜
――――――――――――――
From:りーん![]()
件名:お?
――――――――――――――
返信来ないってことは
知念戻ってきた?
そしたら知念に
貸しといたエロ本返せ
って言っといてぇ〜^^
――――――――――――――
「え?」
「どうした?裕次郎。」
「コレ。」
「…りーん
?なんやっしこれ。」
「いや、それはただ凛君が勝手にやったでけで。そうじゃなくて本文。」
「…わんは、そんなもの借りてねーらんど。」
「え?わかった。…借りて、ないって…。」
〜♪〜
――――――――――――――
From:りーん![]()
件名:バレた?
――――――――――――――
なんだー、つまらねーしよ。
まあ、吾輩は裕次郎がちゃんと
知念の事信じてるか確かめて
やっただけなんだけどな!
がはははははっ
――――――――――――――
「ははっ、なんだしよぉ…一瞬本気にしたじゃん。」
「凛なんだって?」
「ゆくしだって。」
〜♪〜
――――――――――――――
From :
愛人![]()
件名:無題
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――――――――――――――
「なにこれ?何も書いてないあんに?」
「うん。見せて。」
「ん。」
「…愛人!?なんで凛はりーん
でわんは愛人なんばぁ!?」
「や、だからそれは凛君がそうやっただけで…。」
「裕次郎なら変える方法知ってるあんに?」
「まあ、知ってるけど。」
「あんせー、すぐ変えられたはずさに。」
「まあ…そうだけどさ、なんか面白いし。」
「面白い!?…わんを愛人と呼んで面白がってるのか裕次郎は。」
「ごめんごめん、じゃあすぐ変えるばぁ。…つってもこの場合“愛してる人”って意味なのにやぁ。」
「…ちなみに永四郎は何にしてあるんばぁ?」
「永四郎?永四郎はねぇ、まだ見てないかも。実はよぉ、これ一昨日くらいに変えられたばっかなんばぁ。」
「ふーん。」
「うしっ!出来た。」
「どれ?」
―――――――――――――
□
だーりん![]()
―――――――――――――
「…だ、だーりん?」
「ひひひーっ、いいばぁ?」
「…。」
「寛のも変えてあげようか?」
「や、…わんのは…。」
「貸してっ!」
「あ…。」
「……………………………………………………………………………………………。」
「やけに遅くないか?」
「んー、皆の分も変えてんの。」
「あいっ、愛人とかさんけー。」
「しないしないっ………っし、でーきた。はい。」
「…
嫁
…。」
「へへぇ〜…。」
「ちょっと待て、裕次郎は分かるとして、他が分からん。……姑?」
「あ、それは永四郎の事さぁ。」
「…じゃあ長男は?」
「それは慧君。ちなみに長女がとも君で次女は新垣ね。」
「…似てない兄妹だな。」
「でもそんな家族だったら面白そうあんに?」
「ふっ…あんせー、裕次郎。」
「なあに?だーりん。」
「ははっ…手繋いで帰ろうか。」
「うん!」
「…あれ?そう言えば凛は?」
「見つけたらすぐわかるよ。」
〜♪〜
「あ、誰かからメール来た。」
――――――――――――――
From:いちどぅし
件名:結局TV見逃したしよ
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てかエロ本返して。
――――――――――――――
「…そうか、いちどぅしか。」
「ん?凛君からメール?」
「そう。」
「ってやっぱり借りたんかい!」
「わ、わんが借りたんじゃねーらん!…あにひゃーが勝手に忘れてっただけで。」
「読んだ?」
「読まない。」
「ふーん。」
「これはしんけん。早く取りに来いって言ってるのに。」
「そっか。」
「うん。」
思い立って永四郎の携帯メモリ登録名をメールアドレスから検索してみる。
“いちどぅし”すぐに出て来た名前に自然と頬が緩んだ。
そっか、俺達もそんな風に見られてるんだ、そう思ったらなんだか嬉しかった。
それが俺達が一緒に過ごしてきた時間を示す合言葉みたいな気がして。
今隣に居る愛しい彼とも、これから過ごしていく時間の中でそんな風に特別な関係になって行くんだと思うとわくわくした。
誰が見ても特別だと、そんな風に思ってもらえる関係がふたりの間に生まれればいいと思う。