今思えば、俺は凛と知り合ってから今まで、
あれほどモテる凛に、彼女が居るって話を聞いたことがない。
それどころか好きな人の話も聞いたことが無い気がするけれど、
なんでそれを、俺は今の今まで不思議に思わなかったのだろう。
凛は言わないだけで、常に隣には誰かが居るのだと、そう信じて疑わなかった。
「凛って好きな人とか、居ないの?」
それを初めて聞いたのが1ヶ月前のあの日だったわけで。
『はい?何で?…お前じゃね?好きな奴って言ったら。』
『マジで?俺も凛のこと好きだけどなぁ。』
『…じゃ、付き合っちゃう?』
『えー、いいよ。わはっ。』
つーかあんなんで本気で言ってるかどうかなんて、分かるわけないし。
…分かんなかったんだよ、ごめん。
「凛、りん、りーん、りぃーんっ!」
「…。」
「マジか、どんだけ無視すんの?」
「…。」
「凛、俺のこと嫌いになった?」
「…。」
「そっか。」
「…嫌いになってない。」
「へへっ、やっと答えてくれた。」
「…なに。」
「んーとさ、ちゃんと話そうよ。」
*
「だから、俺は付き合おうって言っただろ?…裕次郎だっていいよって言ったくせに。」
「まぁ、言ったよ、言ったけどさぁ…。」
「言ったけど、なんだよ。」
「いやぁ、だって凛さぁ、その後なんもしてこなかったしさぁ、冗談だったのかもー、とか思うじゃん。」
「何もってなんだよ、出来るわけねーだろ。」
「えー、どうして?」
「だって、下手なことして拒まれんのとか嫌だったし、どうすればいいのかもわかんなかったし、…き、緊張したしっ。」
「は?」
「は?じゃねーよ、悪いかよ。」
「ご、ごめん…、悪くはない、です、が、…え?緊張?凛が?なんで?」
「仕方ねーだろ、…は、初めてなんだからよっ。」
「初めて?…なにが?」
「だからっ、誰かとちゃんと付き合うとかした事ねーんだよ、分かれよバカ。」
…なんだそれは、衝撃の事実だ、ホント予想外。
つーか可愛すぎんだろ、なんでそんな顔赤くしてんの、凛のくせに。
やばいこれ、惚れるわ。
「えぇっ、なんで?凛モテるじゃん…。」
「女にモテたって意味ねーもん、男しか好きになれねぇんだもん。
それなのに好きになった奴にはいつも女とられたとか言掛かりつけられて妬まれるしさ、
俺にどうしろって言うんだよ。俺は誰も好きになっちゃいけねぇんだって言われてるみたいですっげぇ辛かったよ。」
「…。」
「だけど裕次郎も俺の事好きだっつってくれたの嬉しかった。
なのに他の奴と付き合いたいとか言い出すしさ、…それ聞いたときはなんか、すっげーショックだった。」
「…ごめん。」
「あれって本気にしたらダメなやつだったんだな、俺ひとりで浮かれてバカみたいだわ。」
「や、本気にしてもいいやつだったけどさ、正直俺にもどっちか分かんなくてさ、
まさか凛がそんな事考えてるなんて思ってもみなかったからさ、俺も下手に動けなかったっていうかさ。」
「…じゃあなに?裕次郎のこと好きでいてもいいわけ?」
「うん、いいよ。」
「裕次郎も俺の事、好きになってくれんの?」
「うん、もうなってるよ。」
「ホントに?俺達付き合える?」
「うん、付き合おう?」
「…よかったあぁ…、裕次郎が中途半端に期待させたりするから、実は付き合ってなかったって言われた時、あの後めっちゃ泣いたんだぞ。」
「ははっ、マジで?凛が失恋して泣くとか想像つかん。」
「泣くわ、普通に。」
「かわいいなぁ、もぉ。」
「うるせ、…つーか、コレもまた冗談だったとか言うなよ?」
「言わないよ、…心配ならチューでもしとく?」
「お前、ノリ軽いな。」
「初めて付き合おうっ言ってくれた時の凛程じゃないとおもうけどー。」
「…そりゃー、勘違いもしますわな。」
「マジでそれ。…つーか、凛さん?キスって普通、目ぇ閉じてするもんですよ?」
「そーなん?だがあえて拒否する!」
「なんでよー!?」
「裕次郎の顔…、見てたい。」
「あそう、まぁそうしたいなら好きにすればいいよ。」
「うん。」
「あ、あと先に言っとくけど、ちゃんと鼻で息してよ?」
「ラージャ。」