いつから好きだったのって君にそう聞かれた時には、気が付いたら好きになっていたから分からないって答えるようにしてる。
本当は、初めて君を見たその瞬間から俺の初恋は始まっていたんだけど、
今は始まりがどうだったかなんてどうでも良くなるくらいに誰よりも、何よりも君が大切だって言えるよ。

からじ

ぽたぽたと雫の垂れる長い髪を、片方に流して優しく拭いていく姿がとても綺麗だと思った。
つい最近までは無造作に流していただけの金色の痛んだ髪を最近になって気にかけ出したのには、
俺が凛君の髪を気に入っているからだという理由があるらしい。
それならば寛に貰った黒なまこシャンプーとやらを使って彼と同じ匂いをまとっている事も、多少は気にならなくなるかもしれない。

「何?」
「え?」
「ずっとこっち見てたからよ。」
「あぁ、うん…綺麗だなぁって…。」
「…また髪の事?」
「ううん、髪を拭いてる凛くんの事。」
「なんだよ、それ。」
「俺好きなんだ、凛くんが髪を拭いたり梳かしたりしてるのを見るのが。」
「…ふぅん。」

だからと言って、こうもまじまじと見られては凛君もあまりいい気がしないことは分かっている。
それでもこうして目が離せなくなってしまうのは、もしかすると一目惚れの名残なのかもしれない。
きっと、凛君は自分の女の子みたいな名前だとか、なかなか筋肉のつかない細身な体だとか、
本人以外は別段気にもかけな事をコンプレックスにしているような男だから、
俺が始めて凛君と出会った日、その長い髪を見て女の子だと思ったことを言えば怒ると思う。
でも、それでもあの黒く艶やかな長い髪が夕陽を背に風になびく様は、思わず足を止めて見入ってしまうほどに幻想的だった。

「…じろ、…ゆうじろー?」
「あっ…え?ごめん。」
「何ぼーっとしてんだ?これ、コンセントさして。」
「うん。」
「…あー、乾かすのめんどくせぇ。」
「なら、俺がやってあげようか?」
「お、いいの?じゃあやって。」
「うん。」

凛君の凭れ掛かっているベッドに腰掛けて足の間に凛君を挟むようすると、王様みたいに俺の脚に腕をかけて肘掛のように扱っている。
俺はドライヤーのスイッチを入れると勢い良く吹き出すその風を、ゆっくり優しく凛君の髪に当てていった。

「熱かったら言って?」
「んー。」
「………凛くん髪伸びたね。」
「んー…。」
「…なんか眠そう。」
「え?」
「なんか眠そうだね。」
「あぁ、うん……気持ちいい。」
「そう?」
「人に髪触られると気持ち良くねぇ?」
「あー…撫でられると。」
「ぷっ、まんま犬だな、裕次郎は。」
「え?でも撫でられたら嬉しいでしょ?」
「んー、ちょっと。」
「ほら。」
「…ってゆうかよ、なんか焦げ臭い。」
「え?うわっ、どっか焦がした?ごめん!」
「違う、たぶんまた姉ちゃんがなんか変なもん作ってる。」
「あー…。」
「料理なんか出来ないくせにすぐやりたがるんだからなぁ。」
「まぁ、こんな天気じゃ外にも出られないし暇なんだろうね。」
「…裕次郎は?」
「ん?」
「こんな天気じゃ帰れないだろ?明日は休みだし、泊まっていけばいい。」
「うーん、…そうしてもいいかなぁ。」

確かに、シャワーを借りた後にこんな雨の中を帰る気にはならなかった。
学校帰りに寄った海で急に大雨に降られて、どちらかといえば凛君の家の方が近いという理由でここに避難させてもらったはいいけれど、
俺達の家は学校を挟んで間逆の方向にあるから、ここからではかえって学校よりも家が遠くなってしまった事になる。
今日は素直にお言葉に甘えさせてもらおうと考えて、大方乾いてきた凛君の髪を軽く撫でてからドライヤーのスイッチを切った。

「ん、おわり。」
「サンキュ。」
「…凛くん、もうちょっと前行って。」
「ん。」

凛君が開けてくれたスペースに滑り込んで、後ろからその背中をぎゅっと抱きしめてみた。
いくら凛君が普通より華奢な体つきをしているといっても身長がそこまで変わらない彼が俺の腕にすっぽりと収まるということは無いけれど、
広くて暖かい背中にはしっかりとした安心感がある。
そっとうなじに鼻を摺り寄せて大きく息を吸い込んでみたら、凛君の匂いがした。
いつも付けているお気に入りだというフレグランスではない、凛君自身の香り。

「何してんだー。」
「ん、凛くんの匂い、良い匂いさぁ。」
「変態。」
「変態じゃないもん、普通だもん。」
「あっそ。」
「ねぇ凛くん、…俺凛くんのこと好きだよ。」
「んー。」
「り、ん、くーん。」
「何?」
「好き。」
「…裕次郎はさ、いつから俺のこと好きだったの?」
「…わかんない。」
「なんだよそれ、いっつもそう言うのな。」
「だって、分かんないんだもん…気が付いたら好きになってた。」
「…ふーん、普段だったら覚えてないかも知れないけど、男なんて好きになったら覚えてそうなもんだけどな、普通。」
「…そういう凛くんは覚えてるわけ?」
「俺?俺は裕次郎に好きって言われた時。」
「…え?え!?嘘!嘘でしょ?」
「ぷっ、…嘘。」
「良かったぁ…それはなんとなくヤダ。」
「なんで?」
「なんかそれって自分のこと好きになってくれる人だったら誰でも良いって事でしょ?凛くんモテモテだからすぐ違う人にとられちゃいそう。」
「ははっ、嘘だから心配すんな。」
「…んっ。」
「本当は、…初めて会った時。」

凛くんはくるりと後ろを振り返えると、俺の太ももに跨って座った。
それから俺の首に両腕を回してキスをしてから、急に甘ったるくなった声でそんな事を囁いた。

「うそ…。」
「本当。」
「マジで?…俺も。」
「…お前さぁ、覚えてんじゃねーかよ。」
「うん、本当は覚えてた。」
「嘘つき。」
「へへっ、ごめん。」
「俺、自分の方が先に裕次郎の事好きになったと思ってたんだけど、違ったか。」
「うーん、それは絶対俺が先だと思う。だって凛くんの言う初めて会った時って中学入ってからって意味でしょ?」
「うん、まぁ…初めて話した時だからなぁ。」
「俺の場合は凛くんのこと初めて見た時ってことだから、もっとずっと前。」
「…なんだそれ、俺男に一目惚れされてんじゃん。」
「うん、ごめん…それだから言ったら怒られるかと思って黙ってた。」
「別に。裕次郎に好きになって貰えたんだったらこんなにイケメンでモテモテの美人に生まれた事にも感謝する。」
「くくっ…なにそれ。」
「まぁ、裕次郎がどんなに先に俺の事好きだったって言っても、今は俺の方が裕次郎の事好きだし。」
「…。」
「…ゆうじろー、好きだよ。」
「っ…。」

そんな事を耳元で囁くなんて反則だ。
どうしたって…ねぇ?その、何かが反応してしまうと言いますか…。

「だってオトコノコだもん…。」
「あ?」
「な、なんでもないっ。」
「じゃあ、早く上がって。」

言われるままに背後にあるベッドへ後ろ向きに這うようにして上がると、凛君がそのままなだれ込むようにして覆いかぶさってきた。
はらりと落ちてきた凛君の少しだけ湿った髪の毛の先が首筋に当たって、何故かそれだけで目をきつく瞑ってしまうくらいにゾクリとした。

「裕次郎…、早く。」

そうだった、といつも凛君に言われている事を今日もしてしまったことに気が付いて目を開ける。
俺達の間にはいつの間にか“誘った方が下”というルールが出来ていて、だからそういう時、
いつまで経ってもされるがままになっている俺に凛君は焦れて早くしろって催促する。
それは毎度のことだから直さなくちゃとも思うんだけど、なんだか凛君の誘い方ってば俺には少し刺激が強いと言うか、
だから俺は毎回それにやられて身動きが取れなくなってしまうんだ。

「ご、めん…。」
「謝らなくて良いから早く触って。」
「うん…。」

毎回こんな風なのに、呆れもせず俺を好きで居てくれる凛君をとても愛しく感じる。
俺は凛君の腕を引っ張ってごろんと反転し、今度は自分の下になった身体をぎゅっときつく抱きしめた。
それから力を抜いて凛君の顔を見下ろしたら、物凄く妖しい笑みを向けられて息が上がった。
そこからは、大体の記憶が無くなる。
ただ無我夢中という言葉がピッタリくるように、本能的なレベルで激しく凛君を抱いてしまう。
まったく、息を荒げて夢中で腰を振る自分が我ながら犬のようだと呆れる。

「んんーふっ、んっ、んっ、ゆ、じろぉっ」
「はぁっ…はっ、はっ…、っ…」
「んっ、んんー、はっ、ふぁあっ、き、もち…」
「はっ、はっ、…っ、はっ…」
「んっ、んっ、んぁっ、ゆ、じろ、ゆうじろぉっ」

次に俺の意識が戻るのは、必死に俺の名前を呼ぶ凛君の声に気が付いた時。

「はぁっ…はっ、りんっ…っ…」

搾り出すので精一杯のほとんど吐息で出来たような声で、それでもちゃんと聞こえるようにと凛君の耳元に唇を寄せて名前を呼び返す。
そんな事で凛君がきゅっと締め付けてくるのが分かって、俺は尚更興奮する。
だけど、ある瞬間にふと、後ろめたいような感情に襲われる事がある。
それは凛君との行為に対するやましさではなくて、本当に凛君には俺なんかで良いのかって言う心配と気懸かり。
その瞬間、引け気味になる俺の腰に両足を絡めてぐっと巻きつけてくる凛君を見て、
セックスの間に俺が余計な事を考えていればすぐに分かると言った凛君の言葉は本当なんだと思った。

「んんっふ、…んーっ、んっ、んっ、ゆ、じろ、…はぁっ、こっちだけ、見てろよっ」
「はっ…、はっ、はっ、…」
「よ、けなこと、考えんなっ…俺の、ことだけ、見てっ…、はぁっ、んっ…」
「…はぁっ…はっ、ご、めん…ちがくてっ、…はぁっ、んっ…」
「んぁっ、あ、ぁあっ、ゆ、じろぉっ、ゆうじろっ…好きっ」
「はぁ…、…はぁっ、…はっ、…」
「好きっ…んっ、ん、ん、すきだよぉっ、ゆうじろぉっ…」
「はぁっ…はっ…ぁ、はぁ…はっ…り、んっ…」
「んっ、あ、はぁあっ、あ、も、…くぅんっ…んっ、むりっ…」
「はっ、はぁっ、はっ、はっ、はっ、」
「あ、ぁあっ…んっ、ふぁっ、ぁ、ぁ、ぁ、んあぁぁあっ…っ…」
「はっ、はっ、はっ、…っ、んっはぁ…っ…、ふーっ、…ふーっ、…」

そのまま脱力して凛君の方へ倒れこみ、しばらく荒い息を繰り返していると、頭上から突然クツクツと笑う声が聞こえてきた。
頭を動かすにも億劫なくらい体が重いので、声だけで反応を返す。

「…ん、なに…。」
「犬みたい。」
「…。」
「裕次郎って、犬みたいなセックスするよな、…すっげー激しくて野性っぽいやつ。」
「…ごめん。」
「まぁ、俺はそういうの嫌いじゃないけどな。」
「そうなの。」
「うん。」
「変態じゃん。」
「違いますー、変態じゃありませーん。」
「くくっ…。」
「ははっ。」
「凛くん、大好き。」

左足のつま先を使い身体を上に持ち上げて凛君にキスだけしたら、もう全身の力を使い果たしたみたいに動けなくなった。
俺はそのままガクッと倒れこんで目を瞑ると、耳元で苦笑いみたいな声が聞こえたのを最後に意識を手放した。

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〜♪〜

「………もしもし、姉ちゃん?家に居るんだから直接言いに来れば良いだろ。」
『嫌だよ、変なオーラが漂ってるんだもん、あんたの部屋…。』
「なに寛みたいなこと言ってんだ…。」
『まぁとにかく、姉ちゃんはとっくの昔に怪しい雰囲気を感じ取って彼氏の家へ非難しました。こんな嵐の中ね。
…そろそろ終わった頃かと思って電話したんだけど。』
「んなっ………。」
『当たり?やーん、あたしってば超能力者みたいじゃない?』
「ハイハイソウダネ………で、用件は。」
『あー、そうそう、ママ達今日は家に帰らないっていうのは知ってるよね?
あたしも帰るつもりないし、ご飯はママが用意して行ったもの適当に食べてね。
あたしの分も食べて良いけど量が少ないからあんたの方を裕次郎君にあげて、あたしの方は凛が食べなさいね?
それと、裕次郎君泊まるならちゃんとおばさんに連絡しておくのよ?それだけ。
あ、あと最後にもうひとつ。今日はあたししか居なかったから良いものを、ママ達が居たら大変よ?
気を付けなさいね、あんた声がデカイんだから…あはははははっ!そういうことでっ!じゃねーっ!』
「…………………………。」
「…んっ…りんくーん…、だれとはなしてたの?」
「あぁ…姉ちゃん…。」
「そっか、今なんじ?」
「7時…58分。」
「もうそんな時間か…帰んなきゃ…カバンどこ?」

―パシッ―

「いてっ。」
「寝ぼけてんな、今日泊まるって言っただろ?お前の家族に連絡しとけよ?」
「あ…そうだった。家族にはもう連絡してあるから大丈夫だけど。」
「そうか…飯食う?」
「うん、お腹空いた。」
「じゃあ用意しておくから服着て降りて来いよ。」
「うん、ありがと。」

―ドタドタドタッ―

「ん、飯。」
「ありがとーっ!お、やった、炒飯じゃん!」
「うん、母さんが作り置きして行く時は大体炒飯だぞ…。」
「ははっ、凛くんのお母さんも料理苦手なの?お姉ちゃんは絶望的だけど…くくっ。」
「まぁな、ウチで一番料理上手いのは父さんかも知れない。」
「へぇ…、でも美味いよ、これ。」
「なら良いけど。」
「あれ?…凛くんの方少なくない?」
「うん、まぁコレ姉ちゃんの分のだし。」
「え?じゃあコレ、俺が食べてるの凛くんの分って事?」
「うん。」
「え、ごめんっ!」
「いや、別に良いけど。」
「え、でも…ええと、ちょっと分ける…はい。」
「ああ、うん、サンキュ。」
「…ところで凛くんのお姉ちゃんは?」
「え?…なんか、彼氏のとこだってよ。」
「ふーん、寛のとこか。」
「え?」
「え?」
「なに、寛のとこって…。」
「え?彼氏のとこって言ったから寛のとこだと思って…。」
「え?」
「…え、まさか知らないって事ないよね、違うよね。」
「なにがだよ。」
「その、凛くんのお姉ちゃんと寛が付き合ってること。」
「…………………。」
「………ぁ……………。」
「……………嘘だろー…。」
「マジか、知らんかったんか…。」
「だよな…姉ちゃんと寛の関係より自分がそれを全然知らなかったことの方が驚きだ。」
「…。」
「…。」
「…。」
「…そういえばよぉ。」
「んー?」
「俺って声でかい?」
「んー?でかい方なんじゃない?教室とかで話してると廊下まで凛くんの声聞こえてくる時あるし。」
「そうじゃなくて、ヤッてる時。」
「ぐっ…、こほっ…なにそれ。」
「いや、さっき姉ちゃんに声がデカイから気を付けろとか言われて…。」
「…なにそれ最悪じゃん。」
「うん…まぁ俺、ヤッてる時の記憶とかほとんどねーし自分がなに言ったかとか覚えてねーけど…そんな大声で変なこと言ってたらなんかアレだろ。」
「え、嘘でしょ!?記憶無いってどういうこと?…じゃあアレは全部無意識の内にやってるって事!?」
「アレってどれだよ。」
「いや、アレはアレだよ…。」
「なんだよ、どれのことだか言ってみろよ。」
「いや、だからその………『気持ち良いよ裕次郎ぉっ』…とか、『好きだよぉ裕次郎っ』…とか、『俺のことだけ見てよぉっ』…とかいうやつ。」

―ガシャンッ―

「嘘つくな馬鹿、いくら記憶無いっていってもそんな事言ってない事くらい分かるわ!」
「え、嘘、マジで?なにそれ、なんかめっちゃ可愛い人が居るんですけど…俺が言わせてんのそれ?無意識にそんな事言っちゃうくらいイイの?」
「だから言ってねえっつってんだろ、バカッ!」
「言ってるもんー!」
「うるさい!黙れ!飯食い終わったら流しに置いとけよ!」
「え、ちょっと待ってよ凛くん、嘘だから!嘘だから怒んないで!」
「怒ってねぇ!怒ってねぇけどそんな嘘つく裕次郎に今怒りが湧いた。」
「え、嘘!?じゃぁ本当!凛くん本当にそうやって言ってたもん!」
「言ってねぇ!」
「言った!」
「言ってねぇ!!」
「言ったんだもん、俺はちゃんと記憶あるもん!」
「もうどっちでも良いから言って無かったことにしてくれよぉ…。」
「わぁー、ごめんー!」





なんか本当すいません…着地点が見当たらず沈没…。
延々無駄なやり取りが続きそうだったのでここら辺で終わります。
中途半端で失礼…。

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