『もしもし、知、…寛?』
『くくっ…うん、寛です。』
『…寛、来週末…お前の誕生日だな。』
『うん。』
『その日、一緒に居たい…ふたりで。』
『…うん、俺も。』
先週、寛が新しく買って貰ったという携帯でそんな会話をしたことを覚えている。
恋人として始めての誕生日をふたりで過ごせたらいいと思って言ってみたことだったから、
寛も同じ気持ちであると言ってくれた事がとても嬉しかった。
けれど、今日、寛の誕生日当日、寛の家にはふたきりどころか家族だけではなくテニス部のメンバーまでもが集まっている。
どうしたことか理由を聞いても、「ごめん、そういう流れになって断りきれなかった」と
申し訳なさそうにする寛には、どうしたってそれを咎めたりなんてすることは出来なかった。
こうなってしまったら仕方ない。
今俺に出来る唯一の事は、それが寛だからと笑って許す事だけ。
黄色い、キラキラ、煌く
『皆、集まってくれてありがとうね。』
「いえ、こちらこそ急にお邪魔してしまって…。」
『あら、気にしなくていいのよ〜、そんな事。』
「はい。」
『それより寛ってばこんなんでしょぉ、学校でちゃんとやっていけてるのか私心配で…。でも皆が今日集まってくれたの見て安心したわ。』
「え、寛学校でも普通にやってるよね、ちょっと暗いけど…優しくて女の子にも割りとモテるよね?」
『そうなの!?このお兄ちゃんが!?』
「このお兄ちゃんがって…ひでぇ言い方だな…はははっ…寛は家でそんなに暗いのか?」
『ううん、全然!いっつも笑っててね、優しくてね、面白い事して楽しませてくれるんだよ。』
「へぇ…、へぇ…、へぇ…、寛がねぇ…、面白いことねぇ…、へぇ…。」
「なんだよ、その目は…。」
「別に…面白い事ってどんな事かなぁって思って。」
「ぅっ、…それは今いいだろ…。」
「くくくっ…。」
『ご飯、沢山作りすぎちゃったから、皆遠慮せずにいっぱい食べてってね。残っちゃうともったいないし。』
「あー、それなら慧くんがいるから残ったりはしないと思います。」
『あら、本当ぉ、おかわり沢山あるからね。』
「はーい。」
『じゃあ、頂きます。』
―いただきますっ―
「ん…う・ま・い。」
「ちょ、慧くん序盤からペース速すぎ!無くなるから、無くなるからっ!」
『ふふふっ、本当に残る心配はなさそうね。』
「…すみません、………でも本当に美味しいです。」
『そう言ってもらえると作った甲斐があるわ、ありがとう。』
『にーにー…。』
「んー?どうした?」
『あのさ、そこのさ、緑のさ、やつが…食べたい。』
「やー、ゴーヤー食べれるのか?」
『うん、食べれるよ。』
「そっか、えらいなー、…どれくらい食べたい?これくらいか?」
『うんっ。』
「よっ、しゅーんっ…到着っ!」
『へへっ、ありがとうっ!』
「どういたしまして。」
「…寛って家族の前だといつもこんななの?」
『ん…この子の前では特別なの。男の子同士だから仲良しなんじゃないかな?』
『一番下だし、可愛いのかも。お兄ちゃんは我が家ではお父さんみたいなもんだから。』
「へぇ…お前らの前では違うんか。」
『私よりお姉ちゃんの方がもっと仲良いよね?いっつも相談があるとお姉ちゃんに言うもん。』
『そんなことないよ、お兄ちゃんは皆に優しい。』
『まぁ…そうだけどさ。』
「ほー、家族にモテモテだ…。」
『うん、皆お兄ちゃんが大好きだよ。』
「そうかー、なんかそういうのっていいな。」
「うん。」
『あ、ねぇお兄ちゃん、お兄ちゃん。』
「ん?」
『今年は彼女出来たの?』
「…なんだよ急に…。」
『去年の抱負は彼女作るーって言ってなかった?』
「なっ、…それは自分が言った事だろ?今年は絶対彼氏が欲しいーっとか…。」
「マジで俺がなってあげようか?」
「裕次郎じゃ完全に役不足だろ?」
「えー、マジで…俺じゃ役不足?」
『そ、んなことは、無いよ…裕次郎君かっこいいし。』
「…ぁ…、ありがとう。」
「おぉーっ、もう付き合っちゃえっ!」
「やめなさいよ平古場クン、そうやって悪ノリするのは…。」
「だってよー、おもしろいだろ?ふたりとも顔真っ赤にしてよ…くくっ。」
「そっとしておいてあげなさいな。」
「わかったわかった。」
『裕次郎君、ウチの子お嫁に貰ってくれる?』
「あっ…えと…あのっ。」
「…お母様まで……。」
『ふふふっ、可愛らしいじゃないのぉ。』
「母さん。」
『はーい、ごめんなさい…調子に乗っちゃったわね。』
皆で囲む食卓の輪の中で寛は終始ニコニコとしていて、だから今日は皆で集まって正解だったと思う。
本当はふたりだけで居られないと聞いて少し残念に思っていたけれど、寛が楽しんで過ごせる事が何より大切な事だから。
『ねぇ、にーにーのお誕生日プレゼント渡していい?』
『うん、いいわよ。とっておいで。』
『うんっ!』
「あ、俺も…。」
「おー、俺も持って来てるぞー。」
「じゃあ、皆渡してしまいましょうか。」
『あら。』
『にーに、お誕生日おめでとう!あのね、にーにーの絵描いたんだよ!』
「おっ、どれ?わーっ、すごいなぁ、上手だ。」
『うんっ、あのね、これがにーにーでね、こっちがね、僕とねーねーとママとおじーで、皆で話してるの。』
「そっか、にふぇー。あとで絶対部屋に飾っとくさ。」
「うんっ!」
「ふふっ、良かったな、寛。」
「うん。」
「寛、ケータイ貸して。」
「ん?うん、………ん。」
「……………よしっ…見て、コレシルバーで作ったんだよ。」
「すごい…いいのか?作るの大変そうなのに…。」
「うん、そのために作ったんだもん。」
「ありがとう、裕次郎。」
「へへっ、どういたしまして。」
「俺のは大した事無いんですが…これ、小説です。ホラーが好きだって言っていたのを思い出して…それと、CDです…会員No.4の…。」
「はっ…、ありがとう永四郎っ。」
「いえ、どういたしまして。」
「俺のは、蚊取り線香と虫除けとちんすこうとピンセットと脱脂綿、リトマス紙に…科学の本と…後はなんか色々。」
「いや、多すぎだろ!よくそこまで揃えられたな。」
「でも、嬉しい…ありがとう、慧くん。」
「おう。」
「…凛くんは?なんか持ってきたんじゃないの?」
「…あぁ、まぁ一応…俺のは別に今開けなくていいし…、その、大したもんじゃないから。」
「えー、いいじゃん、開けようよ、何貰ったの寛?」
「………これ…。」
「フレグランス?」
「まぁ…。」
「どれ、シュってしてみて?」
「うん。」
「…ん、凛くんの匂い。」
「たしかに、平古場クンがいつもつけているフレグランスの匂いがしますね。」
「なんか意味深だなぁー…。」
「な、何がだよ、別にっ、…寛がこの匂い好きだって言ってたからっ。」
「凛君、冗談だろ?そんな必死になんなくても分かってるって。」
「…。」
一瞬、驚いた様な顔をした寛と目が合ってドキッとした。
確かに少し露骨過ぎたかもしれない。
でも、何かひとつでも寛と同じものを共有してみたくて、、最初に浮かんだ物がこのフレグランスだったのだ。
だから付けてくれなくてもいいんだ、持っていてくれるだけで。
これは完全に自己満足な贈り物だけれど。
『お兄ちゃん達たち、ケーキ食べない?』
「おー、食べたい!」
「ロウソク消す?」
「別に…いいよ、そんなの。」
「まぁまぁ、折角だしやろうぜ。」
「15本〜っ。」
「ライターか何かありませんか。」
『あ、ちょっと待っててね、今持ってくる。』
「はい、頼みます。」
『はい。』
「どうも、………………………………はい、電気消してください。」
『うん。』
―ハッピーバースデートゥーユー…♪―
ちょっと照れながらも、ロウソクの火を一気に吹き消した寛の表情はなんだか嬉しそうだった。
貰ったプレゼント達を両手に抱えて幸せそうにしている。
俺は渡されたショートケーキを持ってソファーに腰掛け、そこから寛の様子を眺めた。
こうして皆の中の一人として寛と接すると、やっぱり寛は皆の寛なんだという気がする。
俺だけの恋人でも、特別な存在でもなくて、俺の方が、寛を取り囲む大勢の中の一人なんだと。
そんなことで子供みたいなヤキモチを焼く俺は、やはり子供みたいではなく、子供なんだと思う。
そんな事を考えながらじっと見つめる先の寛の目線が少しだけ彷徨って、俺と目が合うとふっと笑った。
心臓が、ギュっとなる。
それだけで、十分すぎるくらいに幸せな気分にさせられた。
その笑顔が眩しくてすぐに目を逸らしてしまった俺の元に、寛がゆっくりと歩み寄って来る。
「………縁側、来て。」
寛は俺の目の前まで来ると、俺だけにしか聞こえないような声で、耳元でそっと囁いた。
ハッとして顔を上げるともう、寛は皆の輪の中に戻っている。
俺は誰にも気付かれないようにそっと居間を抜け出すと、縁側に向かって歩き出した。
「俺、部屋にプレゼント置いて来る。」
「おう、手伝ってやろうか?」
「ううん、大丈夫。」
「そうか?」
「うん。」
縁側の端の方で待っていると、寛がひょこっと顔を出した。
それから俺を見つけて優しい顔をして笑ったら、近づいてきて、後ろから抱きしめられる。
さっき目が合ったときよりずっと強く、心臓がキュっとした。
「…これ、凛の匂い。」
「うん。」
「そういえば、まだお礼言ってなかったと思って。」
「あぁ…。」
「ありがと。」
「うん。」
「…寝れない時とか、枕に振りまいて寝たら良く寝れるかなぁ?」
「ふっ、何だよそれ…余計に変な気分になって寝れなくなるんじゃねぇ?」
「…そうか、それもそうだな。」
「いや、否定しろよっ。」
「くくっ…。」
「でも、夢に出て来るくらいはするかもしれねーよ?」
「そうだなぁ、寝てる時まで凛に会えるなんて、幸せだなぁ。」
「…ホントに?」
「何が?」
「本当にそう思う?」
「うん?…うん、俺凛のこと大好きだし。」
「………そっか、俺も。」
「…あ。」
「ん?」
「…蛍。」
「………本当だ、綺麗だな。」
「うん。」
淡く灯る蛍の光の美しさに思わず緩んだ顔で後ろを振り向いたら、同じように笑顔になっている寛と目が合った。
しばらくお互いに何も言わずに見詰め合ったら、それが合図みたいにして顔が近づいてくる。
唇が触れそうになって、俺はとっさに目を瞑った。
「…をっ。」
「ん?…をっ?」
「はっ、ごめんっ!」
「…裕次郎。」
「あ、その、えーと、寛の家族がもう寝るって言ってて、俺は寛が遅いから探しに行けって言われて、
そんで、居なくて、部屋に居なくて、そ、それであの、ご、ごめんっ。」
「…ぷっ、ちょっと落ち着けって。」
「う、うん…。」
「で、どうしたって?」
「あの、俺…皆に寛が遅いから探しに行けって言われたんだ、
それで寛の部屋に行ってみたけど居なくて、それでここで見つけたと思ったらその、今のあれで…。」
「あぁ…。」
「み、見てないよ、俺!皆にも言わない!」
「別に、見られたって構わないけど…まぁでも、遅かった理由は弟に貰った絵を貼ってた事にしてくれると助かるかなぁ…。」
「わ、わかった。」
「…もう戻る?」
「ん。」
皆の居る居間に戻る途中、寛がすっと俺の手を握った。
嬉しかったけれど、皆にバレてしまってもいいのかな。
居間についてみると、皆俺達のことは見て見ぬフリをしてくれているようで、誰も何も言わなかった。
「なぁ、あっちに蛍居た。見たいか?」
「ほぅ、蛍ですか。」
「へぇ、夏って感じやし。」
「見に行こう。」
「うん。」
縁側に戻ってきて、3人は目をキラキラさせて蛍の光に見入っている。
その後ろで俺達は、綺麗だねって笑い合った。
キラキラ煌く命の光、月の明かりや星の瞬き、俺達を囲む全ての輝きが今、
この人の、俺の大切な人の誕生を祝ってくれているみたいに美しく煌いて。
それはとても綺麗で、明るくて、優しい色をしていて。
それぞれの命の持てる精一杯の輝きを放ってキラキラと煌いている。
そんな眩しいくらいの命の光に包まれながら、俺達はそっとキスをした。