夏なのに、涼しげに見えるその後ろ姿には見覚えがあった。
見覚えがあるというのには見慣れすぎた、すらっと綺麗に伸びた後ろ姿は、
ゆっくりとこちらを振り返ると、申し訳なさそうな笑顔で言った。

「凛ちゃん…葵のこと、一人に任せてごめんね?」
「…。」
「突然居なくなったりしてごめん。」
「…、菫?」
「…凛ちゃんが私のこと愛してくれて、嬉しかった。私も凛ちゃんのこと、愛してるよ。」
「…。」
「私はここから、あなたたちを見守ってる、だから安心してね。それから、お兄ちゃんを幸せにしてあげて。
私は凛ちゃんと居れてすごく幸せだったよ。だから、凛ちゃんなら絶対にお兄ちゃんを幸せに出来るって信じてる。」
「…菫。」
「お兄ちゃんのこと、いっぱい愛してあげて。それじゃあわたしは…もういくね。」
「菫、待って!菫!」

俺の呼び掛けも空しくその後ろ姿はだんだんと透けていって、最後には見えなくなった。
どこかへ消えてしまったのだ。
そのどこかが手を伸ばしても届かない、遠い遠い場所だということは、直感で分かった。
あいつが俺たちの前から居なくなって、初めて見る夢だった。

目を覚ますと、俺は寛の実家の布団で葵の隣に寝転がっていた。
もしかすると、いや、もしかしなくても寛がここまで運んでくれたんだろう。
しばらく夢の余韻に浸っていたけれど、だんだんと頭が冴えてきた。
ズボンのポケットの中に押し込まれているケータイを取り出して時間を確認する。
まだ6時になったばかりだった。
そういえば、服は…寛が着せてくれたんだろうけど、さすがに風呂には入ってないよな。
そう思ってシャワーを借りることにした。
カバンから着替えを取り出して風呂場に向かおうとした時、寝ているはずの葵がなにか言った。

「…凛ちゃん…。」
「…葵?」
「…凛ちゃん、…にーにーをよろしく。」
「…。」

やっぱりあれは、ただの夢なんかじゃなかったんだ。
あいつからの、メッセージだ。
それから俺は心の中であいつに誓いを立てると、寝ている葵の頬にキスを落としてから、 風呂場に向かって歩きだした。

「菫、約束するよ。俺は絶対、寛も葵も、みんな幸せにするから。」

空の上の方から、あいつのありがとうって声が聞こえた気がした。

シャワーを浴び終わってから俺は、何となく海に行くことにした。
朝の海の散歩は、風が心地よくて心を落ち着かせることができると思ったからかもしれない。
浜辺に着いて押し寄せる波に足を晒していたら、誰かの気配がした気がした。
振り返って見てみると、そこには寛が立っていた。

「あい?寛、お前何してるんだ?こんな時間に。」
「んー、俺も早くに目が覚めて…ぼーっとしてたら凛がどこか行くのが見えたから、ついてきた。」
「ふーん。あ、そういえば、運んでくれてありがとう。あと、服とかも着せてくれたみたいで。」
「ああ、…それは、その…どういたしまして。」
「ぷっ…はは、なにその挙動不審。」
「正直昨日の今日でどう接したらいい分からない。」
「んー、そっか。」
「うん。」
「あ、そういえばな、菫が会いに来たよ。」
「…。」
「お兄ちゃんを幸せにしてあげてって、言ってた。」
「…。」
「だから誓ったよ、俺は。ちゃんとお前を幸せにする。」
「…。」
「なんだよ、俺じゃお前を幸せにできないって言うのかよ。」
「…そんなこと無い。それにもう、俺は十分幸せだ…ただ、俺も菫に会ったから。」
「え?」

そう言うと、寛は周りをキョロキョロと窺いながら俺の方へゆっくりと近づいてきて、
しばらくじーっと俺の方を見てから自分の頬をポリポリ掻いた。
それから俺の手をとって跪くと、その手に口付けてから言った。

「俺は、凛だけに誓う。俺は凛を、一生大切にします。
必ず幸せにすると、誓います。だからいつもそばに、俺の一番そばに居てください。」
「……………っぷ、ぷははっ、なんだよいきなり、それなにゴッコだよ。くくくっ、やっぱりやーっておもしれー。」

俺は突然のことで訳が分からずしばらく呆然と突っ立っていた。
だけどやっぱり、今の状況はお可笑しすぎる。
それでもこいつはこんなことで俺を幸せいっぱいな気分にさせてくれるんだから、
俺は目の前で顔を赤くするこいつに、一生ついて行ってもいいと思ってしまった。

「葵が…葵がそうやってプロポーズされたいって言ったから…凛は葵と考えてること似てるだろ?それで…。
お、俺だって恥ずかしかったよ。 それを笑い飛ばすなんて…最低だ。凛最低。」
「ごめんって、怒んなよ…ほら、手かせ。」
「は?なんだ…急に。」

俺はそう言いながらもおずおずと手を出して来た寛の前に跪くと、
さっき寛がしてくれたみたいにその手に口付けて、それから誓った。

「俺も、寛に誓います。一生寛のそばで、一番近くで笑っています。
 寛のこと、一番そばで支えます。それから、寛に世界で一番の幸せ者にしてもらうと、誓います。」

確かに正直かなりの恥ずかしさがあった。
言い終えて寛を見ると、やっぱりさっきの俺と同じようにポカーンとしている。
なんだ、自分で最初にやり始めたのに、やっぱりボケーっとしてるじゃないか。

「ほらな、そうなるだろ?」
「…うん、まあそうだな。」
「はぁー、葵ならどんな反応するんかなぁ?泣いて大喜びするのかな。」
「…きっと、言い出しっぺのくせにポカーンとするって。」
「そうだよな…大体どっから思いつくんだ、こんなこと。」
「ああ、だな。」
「まぁいいか、そろそろ帰ろうぜ。葵も起きてきそうだし。」
「おう、そうだな。」
「あ、帰る前に一回。」
「ん?」

振り向いた寛に、すこし背伸びをして口付けた。

「な、なにいきなり。」
「んー?誓いのキス。」



はい、ということで完結です…。初めて完結させられたかな?…。正直私の小説って、短編と長編の区別がつきません;
それよりも、ああーーっなんなんだ、恥ずかしい…>< 計画性ゼロのわたくしはいつも思い浮かんだらその場でそのまま書き上げてしまいます。(だからぐだぐだなんだ…。)
今回も夜中にカチカチと打っていたわけなんですが、初めて思いました→カチカチ…カチカ…あれ、これUPすんのかな?…するんだろうな。もう1話UPしちゃったし。
ってなわけで、今の私にタイトルを付けるなら、THE羞恥です。
このおはなし、ほとんどサブメインのキャラが捏造という凄いシチュエーションですね。
葵ちゃんの名前は、女の子の名前ランキング1位から付けました。 そんな理由ですみません…(だってネーミングセンスないんだもん。)
でもかわいいですよね、葵ちゃんって名前。気に入りました。 菫さんはなんとなくの雰囲気&知念君の好きな色ってことで、これまた名付け親は知念君でよくね?ってな具合です。
でもまあ、最後まで書けたので私は満足でございます。 最後まで読んで下さった方、本当にありがとうございました^^


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