寛の手足は長い。身長も他の奴等と比べ物にならないくらい高い。
考えてみると、それはあいつの親父さんが無くなってからの事だった気がする。
ひょっとしたら、人間もキリンみたいにどんどん進化出来る生き物なのかもな。
何か遠くにあるものに届くように、少しでも大切なものの近くに居れるようにって、
あいつはそんな風にしてどんどん大きくなっていくのかなぁ。
天国なんて、そう簡単に届きやしないのに。
きりん
「寛?」
「ん?」
「寛はさ、俺の事好きだよな?」
「ん?うん、好き。」
「そっか。だったらもう、そんなに大きくならなくたって良いのになぁ。」
「…どうして?」
「んー?なんでも。こっちの話。」
「気になるから最後まで言え。」
「…いや、お前ってキリンみたいな奴だなぁって思って。」
「きりん?」
「うん、きりん。何かに届くために自分がどんどん大きくなっちゃうの。」
「…。」
「そんなに大きくなって、何が欲しいのかなぁって。」
「…それは。」
少しの間寛は斜め上の方に視線を向けて考えを巡らせている様子だったけれど、やがて何かを思いついたように話し出した。
「凛の言ってる意味っていうのは、俺があの上を目指して大きくなってるって事か?」
寛が空の方を指さして言うから、俺は一度コクっと頷いて肯定した。
「そんな訳無い。あの上に、俺の欲しいものはない。」
「けどさ。」
「あの人なら、いつも俺のそばに居てくれてる。そうだろ?」
それは随分前に俺が寛に言った言葉だった。
あの人が居なくなって、見てるこっちが辛くなるくらいに塞ぎ込んでた寛の気持ちを、少しでも軽くしてあげられたらって思ったから。
寛が今、それを俺に言うってことはつまり、あの時のあの言葉は少しでも寛の心の傷を癒すことが、
そう思う事で少しは、寛の気持ちを軽くすることが出来てたんだって、そんな風に思っていいんだよな。
「うん、そうだな。」
「それに、俺には凛が居てくれる。」
「…うん。」
「俺はきっと、大切な人を守れるようにって、まるごと包みこめるようにって、
そんな風に大きくなったんだと思う。本当に欲しいものを、手放さないように。」
そう言って俺を引きよせた両腕は、本当に何事からも守ってくれそうな頼もしい強さと、
それから心から安心させてくれるような優しい温もりと共に俺の身体を包みこんだ。
…そうか、そう言う訳で。
「寛。」
「ん?」
「大好き。」
「うん、俺も。」
でもこれからは、あんまり俺を置いて一人で大きくならないでよ。
そのうち高い所に行きすぎて、俺の事見えなくなったりしたら困るから。
寛が俺をすっぽり包みこめなくなったって、俺もちゃんとその手を掴んでおくから、
遠くに行ったりなんてしないから、だから大丈夫。俺はここに居るよ。
(寛ー、やっぱお前はもう大きくならなくていい。)
(何で?)
(届かない、口。)
(…。)