「けーっきょくテニス出来ねーで暗くなっちまったな。」
「誰の所為ですか。」
「…。」
「凛、花火あのコンビニで売ってるやつでいいか?」
「おおー、出来るならなんでもいい。」
「じゃあ、ちょっと待ってて。」
「うん。」

ガチャッ…バンッ

あの後結局俺たちはテニスの試合をすることなく裕次郎の家までの道のりを引き返すことになった。
花火も裕次郎の家でやることになったので、寛は一人道すがらにあったコンビニへ花火を買いに向かった。

「…何か知念クン、尻に敷かれてる気がするのは俺だけですか。」
「あー、俺も思った。」
「はぁ?別に尻に敷いて無いだろ、あいつは優しいだけだ。」
「へえ、…まぁ、背中にあんな大きな痣作られても怒らない人ですもんね。」
「痣?…ああ、だって言いにくいだろ、俺だってまさかあんなひどくなると思わなかったんだ。
でも葵が湿布貼ったから切ってないまま貼っちゃって…なんかもっと大げさな感じになってるよなぁ。」
「!」
((やっぱ凛君が!)平古場クンが!)
「「…。」」
「んー?なんだ?ふたりして黙りこんで。」
「いえ、別に。葵ちゃんに見せていることに驚いたりしてないですよ。」
「おお、別に葵ちゃんにどう説明したんだろうとか思ってないよな、永四郎。」
「はい、そうですよ。」
「???」

ガチャッ…バンッ

「ただいま。」
「おかえり。」
「2袋しか買ってないけど足りるか?」
「うん、十分だろ。な、葵。」
「うん!線香花火もある?」
「ああ。」
「線香花火ってのは誰にも望まれてなくても一応どのセットにも入ってるもんなの。」
「ふーん。寛くん、最後にまたあのきれいなやつやってね。」
「おお。」
「わーい。」
「きれいなやつ…ですか?」
「おお、ひろ君すごいんだ。3個の線香花火一気に火つけても、すっごい長いこと持ってられるんだよ。」
「へぇ。ぜひ勝負してみたいですね。」
「なんで?永四郎も線香花火得意なのか?」
「ええ、まあ伊達に線香花火マスターと呼ばれていないです。」
「…永四郎…やー、線香花火マスターって呼ばれてるのか。それ全然そんなに誇らしげにいうことじゃないよ。」
「もう、甲斐クンはいちいちなんなのよ。少しは黙っててよね。」
「…。」

なんだかんだで騒がしい車内。そんな中寛と葵の2人は楽しげにしりとりなんかして遊んでる。…地味だ。かなり。

「くろなまこ。」
「こ…こーれーぐーす!」
「す?…スカイタワー。」
「わ、わ、わたがし!」
「しー…しあわせ。」
「せ?せ…せいへき!」
「あい!え?ごめん、もう一回言って。よく聞こえなかった。」
「せ・い・へ・きだよ!」
「…あ、聞き間違いじゃなかった…。」

そんなことしてる間にあっという間に裕次郎の家に到着だ。

「ただいまー!」
『あら、おかえり裕ちゃん。みなさんもおかえりなさい。』
「うん、陽君連れてきてくれる?」
『分かった。』

今日は葵の誕生日なのに俺達はケーキしか用意せずに晩御飯を御馳走になってしまって申し訳ない気分だけど、
裕次郎の奥さんは快くもてなしてくれたのでとても助かった。
それから俺たちは裕次郎の家の縁側に場所を移して、来るときに買ってきた花火をすることにした。

「なんか、なんだかんだいって皆さん綺麗な奥さんもらって…羨ましい限りですね。」
「えー、永四郎なら誰でも選び放題だろ、実際。」
「そうとも言えませんね。」

…ベリベリッ…

永四郎が嫉妬からか何なのか知らないけれど、力任せに袋を引っ張ったので袋が変な方に破れて花火が少し散らばった。

「ああ…。」

それを拾うのはいつものごとく寛や葵で、こうゆうところでも性格って出るな…なんて思いつつ見送る俺。

「…でもさあ、実際俺が一番おどろいたのは慧君の奥さん。どこで美人捕まえて来たんだ?慧君のくせに。」
「ああ、確かに。俺もそれは思った。」
「永四郎、慧君に誰か女の人紹介してもらえば?ははっ。」
「…結構です。」
「ふーん、そんなに菫が良かったのか。」
「まぁ、それもありますね。」
「おい、でもそれって俺の奥さんそんな目で見てたって事だろ。」
「俺の妹…。」
「べ、別に忘れられないってだけで、奪おうだとか、そんな邪な感情を抱いたことはないんですから、良いじゃないですか。」
「…いや、でもなんか気分悪い。」
「ふん、しょうがないでしょ。そういう感情は自分でコントロール出来る様なものじゃ無いんだから。」
「まあそうだけどさ。…あ、じゃあさ、霞ちゃんとかは?」
「かすみ…ああ、知念クンの下の妹さん。」
「そうそう、あの子も結構良い女だと、俺は思う。やっぱ知念家は兄妹皆雰囲気似てるしな、菫にもちょっと似通った雰囲気がある。」
「へえ…。」
「…なんで俺の妹ばっかり…。」
「いいじゃん、良いとこが多いんだ、知念家の人は。まず、スタイル良いだろ、顔もそこそこ、頭が良くて…そんで一番は性格だな。性格がすっげー良いと思う。」
「ああ、それは分かります。なんか、本当に自然に人に気遣いが出来る人達ですよね、知念クンの家族は。」
「…そうかなぁ?」
「くくっ、寛照れてんの?…かわいい。」
「なっ!かわいい?どこが!」
「はいはい、一人身の前でイチャつかないでくださいよ。」
「…わかった、じゃあ今日は葵で心の傷を癒してって。」
「…それはなにか語弊があるような気がするぞ、凛。」
「そうですよ、俺は心に傷なんか負ってません。」
「いや、そこじゃなくて。」
「葵ー、永四郎が寂しいって。」
「い、いや、そんな事は言ってないでしょう。」
「まあまあ、いいだろう、子共の前でくらい素直になったって。」
「…。」
「言っとくけどな、うちの子は天使だぞ。知念家の血が流れてるからな。もっと言うと菫の血が流れてる。…だからって惚れるなよ。」
「な、こんな小さな子供相手に何が惚れるですか。」
「ぷっ…、冗談だろ、ムキになるなって。」
「パパ、陽君すごくかわいかった。でも私、ちゃんと待ってるからね。ちゃんと待てる。」
「うん、ありがとう。葵は優しいね。」
「うんっ!」
「葵さ、永四郎と一緒に花火しなよ。」
「うん!永四郎君、このロウソク付けてください。」
「はいはい、お安いご用です。」

連れたってロウソクを地面に立ててから、花火を始めた二人。
案外すぐに馴染めそうな感じだな。

「永四郎君きれいだね。」
「…え?」
「そのブルーの花火。」
「あ、ああ…そうですね。こっちにもう一個ありますよ。いる?」
「うん!ありがとう!」
「こっちの火を移した方がやりやすいんじゃないですか?ロウソクだと火が小さいし。」
「あ、ホントだ。すぐにバチバチするね。」
「うん。」
「こっちの大きいのは何?」
「ああ、ロケット花火ですね。やりますか?」
「うんうん!やってみたい。」
「じゃあ少し離れてて。」
「うん。」
「よし。」
「…わぁ!すごい!」

なんだかんだで楽しそうだ。
で、こっちでは相変わらず線香花火をぱちぱちとわびしくやっている大の大人の男3人が居るわけだけれど。
だって葵の分の花火使っちゃうのも悪いじゃないか?それに線香花火なら2袋分あるし。そう簡単には無くならないだろう。

「あのさ、永四郎ってあれ、なんで結婚できないんだと思う?」
「近寄り難いから?」
「…未練たらしい。」
「なんだか目つきがいやらしいし。」
「そっちの気があるように見える。」
「ま、一番の理由は」
「「「素直じゃない。」」」
「ぷっ、くくく。」
「やーっぱそうだよなぁ。」
「ルックスも才能も頭だって良いのに、もったいない。」
「ああやって子どもと一緒に居る時は普通にしてるのにな。」
「うん、ホントホント。」

「永四郎くん、メガネが光ってて怖いー。」
「そうですか?」
「外したらどうなるの?」
「見えなくなります。」
「一回取ってみていい?」
「どうぞ。」
「わあ、かっこいい。永四郎くん、メガネとったらかっこよくなるよ。」
「…そうですか?」
「あれ?でもメガネかけててもかっこいいね。私はどっちも好きだなぁ。」
「そ、それは良かったです。コホンッ、これ、最後のロケット花火やっちゃいましょうか。」
「うん!お願いしまーす。」
「では。」

葵も楽しんでるみたいだから、まあ良いかな。

「パパー!花火きれいだったよ!後ね、永四郎くんかっこよかった!」
「えー?寛とどっちがかっこいいんだ?」
「うーんとね、わかんない。」
「おー、永四郎!喜べ。葵はな、寛以上にかっこいい奴を見つけた事がないんだ。初の寛と並べるレベルの男だぞ、お前。」
「そうですか、まあ当然です。」
「あ、でもね、私は寛くんが一番好きだよ。」
「うん、にふぇー。」
「ぎゅーっ。」
「くくっ、ぎゅーっ。」
「くるしいよー。」
「あ、ごめん。」
「ううん。あのね、線香花火やって。」
「うん。じゃあこっちおいで。」

「なんだ、羨ましいのか。永四郎。」
「そ、そんなくとぅ思ってねーらん。(そんなこと思ってない)」
「ふーん。動揺が見え見えですね。永四郎クン。」
「…。」
「正直俺は羨ましい。寛も、葵も。」
「え?」
「なんか2人だけの世界に入られると、いくら俺でも割り込んで行けないんだよ。」
「…そういうものなんですか。」
「うん。そう言えばさ、なんだかんだで今ここに居る奴で葵と結婚できるのお前だけだなとか思ってた。」
「は?」
「だって俺達2人は葵と血繋がってるし、裕次郎は結婚してるし。」
「はぁ…まぁ、俺は別に、こんな小さな子をそんな目で見たりしませんけどね。」
「うん、分かってるよ。でも人生ってなにが起こるか分からないんだ。
だからさ、色々と想像をめぐらせてみるのも案外楽しいもんだろ?俺らが想像できるものってのは全て実現できるものなんだしさ。」
「…君達2人の事も、そうですかね。知念クンが想像してた未来が、現実になったって事でしょう。」
「んー、そうだな。でも、俺にはまだ夢がある。」
「夢?」
「うん。生きてるうちに叶えられるかは分からないけど。寛の力なしで出来ない事。
もともと叶えられる確率は凄く低いけど、でも可能性は0じゃない。
だから俺は、ずっと寛の傍でその夢を見続けようと思うよ。
その夢が叶ったって叶わなくたって、一緒に同じ夢を見られる大切な人だから。
いつだって俺のことを、世界一の幸せ者みたいな気分にしてくれる、大好きな人だから。
俺は一生、寛に付いて行きたいんだ。そう思わせてくれる奴なんだ、あいつは。」
「…。」
「永四郎はさ、もっと素直になれよ。余計なお世話かもしれないけどさ。
ほら、なんか色々抱え込んでるのって傍から見てても大体分かるんだよ。
そう言うの一個一個、預けられる奴に預けてったほうが良いと思うんだ。
そんな奴らの中に、これだって思える人が居たら、それがお前の望む相手なんじゃねーの?
俺は永四郎ってすっげー魅力的な良い奴だって思うぞ。だからそんな奴には幸せになってもらいたいじゃん?」
「………俺、今平古場クンに惚れそうです。」
「いや、いきなりそこまで曝け出さなくても良いんだよ。」
「ははっ。でも、そうですね。素直になるのも大事かもしれません。これからは、出来るだけ有りのままの自分で周りに接していこうと思います。」
「おう、頑張れよ。」
「はい。どうもありがとう。」
「おお。」

線香花火を終えたらしい寛と葵が戻ってきたところで、時間を確認すると8時を半分以上過ぎたところだった。
そうだな、そろそろ蛍を見に行こうか。

「葵?蛍見に行こうか。」
「じんじん?」
「うん、そう。じんじん。」
「うん!行こう行こう!永四郎くんも行く?きっとたのしいよ。」
「いいんですか?」
「うん、もちろんだよ。お友達は、たくさんいる方がたのしいもん。」
「そうですか、じゃあ一緒に行こうかな。」
「ホント?やったー!」
「パパ、永四郎くんも行くって。」
「お、そうなの?良かったな。」
「うん。」
「あ、葵にいいこと教えてやろうか。」
「ん?なぁに、パパ。」
「お前は寛とは結婚できないけどな、永四郎とだったら結婚できるぞ。血がつながって無いから。」
「え?ホント!?」
「うん。」
「でも、私は寛くんが傍にいてくれればいいんだ。」
「だよな、そう言うと思った。俺だって永四郎が息子とか勘弁。」
「言ってくれますね。俺の遺伝子が入った完璧な孫が見れるチャンスを逃すなんて、惜しい事をしましたよ、平古場クン。」
「いや、なんかそういう生々しいこと言わないでくれる?ちょっと想像しちゃったじゃん。」
「なにを?」
「いや、俺はまだ葵がどっかに嫁ぐなんて考えたくない。」
「ふっ、子供の成長なんてものはあっという間ですよ。」
「だよなぁ、怖ぇー。本当に永四郎と結婚とかしちゃったらどうしよう?」
「でも、可能性は0じゃないんでしょう。」


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