わん、裕次郎のことしちゅんど…寛よりも。』
『んー、……………………………………はっ!?』
『わん、裕次郎のことがしちゅん…やくとぅ、わんと付き合って…下さい。』

凛くんに告白された。
告白されたと言うよりかは報告されたって感じだったけど、嬉しかったんだからしょうがない。
こんな時くらいは告白されたって言ってみたいんだ。
告白の返事はというと、もちろん即行でイエス。
それ以外の答えなんて持ってない。
俺が起き上がると隣で何故だか正座をしていた凛くんがへにゃりと笑ったから、つられて俺も笑う。
今度は絶対に泣かせたりなんてしないんだと心に誓って、俺はその身体を優しく抱きしめた。


今日にも今日の風が吹く


ふたりして授業をサボって、屋上で昼寝して、目が覚めた時、隣で丸まっている凛くんがいつもより近い距離に居た事が嬉しかった。
じっと寝顔を眺めていたら、眩しかったのか凛くんの眉間に皺が寄る。
それを人差し指と親指で伸ばしていたら、凛くんがこちらへ向けて寝返りを打った。
さっきよりもぐっと近くなった距離で、凛くんの右手が俺の制服のシャツを掴む。
可愛いな、………ちゅーしちゃおっかな。
俺は周りに誰も居ない事を確認して、覆いかぶさるように距離を詰める。
目を瞑ると凛くんのフレグランスの香りをやけにはっきりと感じて、なんだか初めてキスするみたいにドキドキした。


「……………ん、…ひろしっ……。」
「っ………。」


“あっ、ぁ、……はぁっ、はっ、ぁ…―ひ、ろしっ―…”


ハッとした。
前と同じように凛くんの口からもれた俺じゃない人の名前。
あの時の事が一瞬にしてフラッシュバックして、俺は俺のシャツを握る凛くんの右手をそっとほどく。
…どうしよう俺、今すごい泣きそうだ。
だけどそこから動く事も逃げる事も出来なくて、俺は結局6時間目の終業のチャイムが凛くんを起こすまで、空を見上げながら零れそうになる涙を必死に耐えて過ごした。
時折温かい風が吹いて、“頑張れ”って言ってるみたいにそっと涙が乾くのを手伝ってくれた。
この涙は零しちゃいけない。
凛くんが何時起きても俺の顔を見て心配にならない様に、笑っておはようって言ってあげられる様に。


「…じろ、…裕次郎。」
「あ…、おはよう凛くん。」
「はよ…。」
「良く寝てたね。」
「うん。」
「…。」
「……………ちゅー。」
「え?」
「ちゅーして。」

俺にしろと言った癖に、凛くんの方から首に腕をまわしてキスを仕掛けてくる。
ちゅって音を立てて唇が離れた後、凛くんがまた、さっきみたいにへにゃりと笑った。
俺は凛くんの頭を2、3回撫でてから、背中に腕をまわしてギュッと抱き寄せる。
困ったことに、俺は今、凛くんの前で上手く笑える自信が無い。

「裕次郎、しちゅん。」
「うん、わんも、っ…わんは、凛くんがしちゅんど。」
「………なまなんか、変な言い方しなかったか?」
「そうだっけ。」
「んー、…まぁ良いや。」
「…しちゅんどー。」
「うん。」





凛くんが海に行こうって言ったから、俺は黙ってついて来た。
砂浜に荷物を降ろしてしばらくぼぅっとしていたら、隣で凛くんが上着を脱ぎ出したから俺も真似して脱いでみる。
靴も靴下もズボンも穿いたままの俺を、凛くんが急に引っ張って海に走り出した。
俺は海水に浸かってしまう前にと、走りながらぶんぶん足を振って靴やら靴下やらを必死で脱ぐ。
ザバザバと派手な音を立てて海へ入り、腕を引っ張られて水中へ倒れ込んだ時、携帯は置いて来ただろうかと急に不安になった。
穿きっぱなしになったズボンに手を突っ込んで確認すると、小銭何枚かとレシートらしき紙が手に触れて、それ以外は特に何も入って居なかったことに安堵する。
隣を見ると、凛くんがびしょびしょになった携帯を人差し指と親指で摘まんで苦い顔をしていた。

「やっちまった…。」
「あ、動かしたらダメやっさ、一回電源切って。」
「え?」
「電源切ったらまだ間に合うかもしれん。」
「わ、かった。」
「濡れた状態で使うと壊れるから、完全に乾いてから電源入れると大丈夫な時もあるらしいばぁ。」
「へぇ。」
「それ乾かしとこ。」
「うん。」

浜辺に上がって携帯を置いたら、再び海まで走って飛び込んだ。
水飛沫が上がって、水面から顔を出した俺の頭上へ雨みたいにパラパラ振ってくる。
それが面白くて、何回も海水を掬っては空に向かってばら撒く事を繰り返した。
楽しそうな笑い声が聞こえて振り向くと、凛くんが優しい顔でこっちを見てる。
あーぁ、俺はどうすればいいんだろう。
とりあえず凛くんがまだ笑ってるってことは、俺もなんとか笑えているらしいんだけど。

「凛くん。」
「ん?」
「凛くんわんのこと好き?」
「うん、しちゅん。」
「……ひろし…より?」
「うん、さっきもあびたあんに。」
だーるな。」
「わんは裕次郎が一番好きやっさ、絶対。」
「そっか、………良かった。」
「…何心配してんだしよーっ!うり、おんぶっ!」
「どぅわっ、…っぷ、ちょ、しかんだぁっ、もうっ、凛くーんっ!」
「あははっ、ちばれー、このまま荷物んとこまで。」
「え、もう帰るばぁ?」
「うん…。」
「…。」

“…今日、裕次郎ん家泊りに行っても良いか。”

「やっぱり点かんばぁ…完全に壊れた。」
しんけん…。」
「おー。」
「どうすんの。」
「買い変える………裕次郎と同じのにしようかやぁ。」
「え、やしが会社違う…。」
「うん、別に良い…つか、寧ろ一緒にした方が金掛かんなくて良いと思うさぁ。」
「いいの?そんな理由で変えちゃって。」
「うん、やーといっぱい話したいし。」
「…凛くんが大丈夫ならわんは何でも良いしが。」
「うん、……あっそうだ、電話借りて良いか?家に今日ここに泊る事連絡したい。」
「いいよ、場所知ってたっけ?」
「おぅ、リビングのとこだろ?」
「そうそう。」
「じゃあ借りてきまーす。」
「はーい。」

凛くんが出て行った部屋で、盛大な溜息をつく。
凛くんがどんなつもりで今日ここへ来たのかは分かっていたけれど、俺は断る事をしなかった。
それなのに、いつもよりやけに近い俺達の距離にも、時折甘えたように触れてくる手つきにも、緊張してしまって上手く話せない自分が居る。
それは恋のドキドキだとか、そんな可愛らしい事じゃなくて、思い出して身体が強張る、ある種のトラウマの様な。
とにかく今のこの気持ちのままで、誘われたりなんてしたら困る。
だったら泊りたいと言われた時点で断らなければいけなかったはずなのに、どうして連れて来てしまったのか。
もしかすると俺に告白された時の凛くんの気持ちは、今みたいなものだったのかも知れない。
そんな風に考えて、また少し苦しくなった。
だって、今もまだ、凛くんはそんな気持ちで居るとも限らない。
無理して付き合ってくれているだけかも、しれないし。


“…ん、…ひろしっ……。”

“あっ、ぁ、……はぁっ、はっ、ぁ…―ひ、ろしっ―…”

“…わ、っさん……。”


心臓が、ぎゅってなった。


――――――――――――――
To : にーにー
Title : あのさー…
――――――――――――――
にーにーがさぁ、
エッチ断る時ってどうしてる?
というか、どうやったら穏便に
断れると思う…

真剣に悩んでるから笑うなよ。



   -------END-------
―――――――――――――― 

―ガチャッ―

「電話サンキュ。」
「あ、うん、いいよ、全然。」
「…。」
「…。」
「…裕次郎。」
「ん?」
「膝枕しても良い?」
「…え?わんがして貰うの?」
あらん、わんがして貰う。」
「え、…別に良いよ。」
「やった。」
「ん、…おいで。」
「おいしょっ。」

ごろん、と寝転がって凛くんが俺の太ももに頭を乗せる。
慣れない右手でゆっくりと髪を梳くように撫でてゆくと、凛くんが気持ちよさそうに目を瞑ったのを見て安心した。

〜♪〜

「あ、ごめん電話。」
「うん…。」
「あ、もしもし…にーにー?」
『おう、やー大丈夫かよ、何?なんか病気?』
「ぅ、ゴホンッ…わっさん、今ちょっと友達来てるから。」
『あ?…何、意味分かんね…』
「一回切るわ、うん、じゃあねー。」

―ピッ―

音量漏れが気になって、ついつい無理に会話を終わらせてしまった。
さっきにーにー宛てに送ったメールの内容は、絶対に凛くんに知られてはいけないし。
通話ボタンを押した後、下を向けば凛くんが驚いた顔をしていた。
俺はまたにーにー宛てのメールを作成しつつ、凛くんの髪を撫でる事を再開する。

「良いのか?電話。」
「んー、どうせにーにーだし。」
「なんで切ったの?」
「んー?だって、凛くんが居るし。」
「良かったのに、気にしなくて。」
「んーん、いいの。」

――――――――――――――
To : にーにー
Title :
――――――――――――――
じゅんにわっさいびーん!
なま、その子が一緒に居るって
いうか、会話聞かれたらまずい
状態っていうか…
とにかく無理やり電話切って
わっさんやぁ。



   -------END-------
―――――――――――――― 

〜♪〜

――――――――――――――
From : にーにー
Title : RE
――――――――――――――
あぁ、そういうことか…。
うーん…
俺は断ったりしねーしなぁ。
据え膳食わねばっていうだろ。
なんで断る理由がある。
まぁ、彼女の場合だったら
生理だからとかって言われる事
あるけど、そん時はそれなら
しょうがねーか、って思う。
   -------END-------
―――――――――――――― 

「…。」

無理っしょ、コレ…。

「裕次郎。」

凛くんが俺の名前を呼ぶと同時に、急に腰に腕を巻きつけて抱きついて来た。
一瞬腰が引けて、しまったと思ったけれど凛くんは何も言ってこない。
そのまま黙っていると、腰にまわされた凛くんの手が背中側から下着の中に入ってきた。
びっくりして固まっていると、凛くんは反対側の手で俺の寝巻代わりに着ているシャツを捲り上げ、脇腹を舐め出す。

「ちょ、…凛くん、…凛くんっ。」

肩を押しながら制止を諭すように名前を呼ぶと、凛くんが起きあがって困った様な顔をした。
そのまま黙って俺の太ももに乗り上げると、抱きつくように片方の腕を首にまわし、肩口に顔を埋める様にして凭れかかってくる。
それからもう片方の腕に手を取られ、ズボン越しに凛くんの硬くなり始めている中心へ触れさせられた。

「裕次郎…どうしよう、これ。」
「うっ、ど、どうしたの、これ…。」
「裕次郎の事考えてたら、勃った…。」
「え、あ、ああああのあの、えと。」
「裕次郎、…シよ。」
「…っ。」
「…だめ?」
「うううわ、わっさん!わん、今生理だからっ!」
「…。」
「…。」
「…っぷ、何だしよ、それ…笑える…くくくっ、生理とか…意味くじ分からんしー…。」
「…。」
「………わん、今日は帰った方が良いかやぁ。」
「え、…。」
「わっさんやぁ、裕次郎…本当は今日、やーがずっと上の空だった事気が付いてたんやしが。」
「え?」
「わんと居るの嫌だったか?…さっきからずっと、笑ってくれない。」
「…そ、そんなこと無いさぁ、ほら、笑ってるばぁ?」
「わんは、楽しくない時に無理して笑えって言ってる訳じゃないんどー。」
「…わ、っさん。」
「謝って欲しい訳でもない。」
「…。」
「やしが理由、聞かせてくれんかやぁ、…今日つまらなそうにしてた理由。」
「…。」
「やっぱりもう、わんのことは嫌いになった?」
「そんな、わけ…無い。」
「じゃあ、どうして。」
「…。」
「どうして?」

凛くんが、眉を寄せて、両手できゅっと俺のシャツを握りながら、縋りつくように尋ねてくる。
どうしたら良いんだろう、俺…これは本当の事言わなきゃいけないよね。
でも、だって、それをしたら凛くんは、また俺の前から居なくなってしまうでしょう。

「む、無理してるんだと思って…凛くんが、無理してわんに付き合ってくれてるんだって。」
「…無理?わんがか?」
「そう、………本当はまだ寛が好きなんだよね、凛くん。」
「は、…そんな訳…わんが好きなのは裕次郎だ。」
「ダメだよ、自分に嘘付いたら辛くなっちゃう…から、…だから無理しないで。」
「どういう意味だよ、なんで勝手にわんがまだ寛のこと好きみたいにすんだよ。」
「だって、……わっさん、コレもしかしてわんが勝手に逃げてるだけかも。」
「…。」
「やしが、だって、怖いんだもん、…また凛くんが、やっぱりわんじゃダメだって気が付いて出て行っちゃったらどうしようって。」
「っ…。」
「…凛くんさっき、寝ながら寛の名前呼んでたんど。まだ寛のこと好きなんばぁよ、きっと。」
「ち、がう…わんが好きなのは裕次郎やっさぁ。」
「っ…、だったらなんで、なんであの時みたいにあいつの名前呼ぶの?…も、嫌だっ、どこにも行かないでよっ…。」
「…裕次郎。」
「出て行ったりしないで…。」

凛くんの身体を引き寄せて、思いっきり、しがみ付くみたいにしてきつく抱きしめる。
細いその身体が折れちゃうんじゃないかってくらいきつく抱きしめると、凛くんも俺の背中に腕をまわして、優しく撫でてくれた。

「わっさん…、もうしないさぁ、出て行ったりとか。…違うんばぁよ、あん時屋上で見てた夢は、やーの夢だった。」
「…。」
「裕次郎とふたりで屋上で昼寝してる夢で、寝てるわんの髪を撫でながら、やーがわんにキスしようとしてた。
わんはそれに気付いてたんだけど寝たふりしてて、でも待っても待っても裕次郎は全然キスしてくれなかった。
それで目開けてキスしてよって言ったら、裕次郎が真っ赤な顔して屋上の入り口んとこ指さすから何かと思って見てみたら、
寛が彼女と一緒にぽかんとつっ立ってた。で、たぶんそん時に驚いて名前呼んだのが、裕次郎が聞いたやつ…だと思う。」
「………。」
「………ダメ?もう信じられない?」

凛くんの肩口で首を横に振る。
すると凛くんは安心したように息を吐いて、俺の頭に一つキスを落としてから、好きだよって囁いた。



「ん、ん、…っ、ぁ…はぁ、あっ、んぁっ、ぁっ、はっ。」
「…っ、…はっ、…はっ、…り、くんっ…。」
「んぁっ、あ、…はぁっ、はっ、あぁ、はっ…―ゆ、じろうっ―…。」
「はっ、はっ、は…っ、は………っ…、…ひっ…く…っ、…はぁっ…はぁっ、…っ…。」
「んんっ、ん、あぁっ、あ、…ゆ、じろっ、裕次郎っ…。」
「りっ、…凛くーんっ、…好きっ、…好きって言ってぇ…、名前、もっと呼んでっ…。」
「…んっ、ゆ、じろ、…ゆうじろぉっ、好きっ、…はぁ、好きっ、裕次郎っ…。」

凛くんの、髪を撫でた。
凛くんの、名前を呼んだ。
凛くんの腕は、俺の首にまわされた。
凛くんは、俺の名前を呼んで、好きだって言ってくれた。
あぁ、俺達は今、繋がっているんだ。
身体だけじゃなくて心も、全部全部凛くんと繋がってる。
凛くんは今きっと、俺の事だけを考えてくれている。
それが嬉しくて嬉しくて、涙が止まらなくなるくらい、嬉しかった。

「…はーっ、…はっ、くくっ、何泣いてるんだしよ…ケツ痛いのわんの方だっての。」
「う〜っ、凛くーん…すきぃ…すきだよぉ、ほんと…わんは、凛くんがいてくれなきゃダメだ。」
「そうかい、そうかい、ずっと居てやるから安心しれー。」
「んー、あんがと。」
「うりっ…がじがじ。」
「あ、あがぁぁぁっ!痛い、耳噛まないでっ!」
「くくっ、おもしれーの。」
「凛くんっ!」
「あー、わっさんわっさん、生理中の裕次郎くんはイライラし易くなってるんだもんな。」
「…うっ、アレもしかしてまだ気にしてる?」
「うん。」
「う〜っ、わっさんあれは…。」
「…裕次郎がわんのこと抱きしめて寝てくれたら許してやってもいいさぁ。」
「お、お安い御用でありますっ!」
「くくっ、それなんなんだよ、ハマってんのかよ。」
「違うよ、軍曹だよ、軍曹。」
「ぷっ、バカだこいつ…中2病発症してるっ。」
「くくっ、ちょっとやめてよ、恥ずかしくなってきたあんにー。」
「あはっ、あはははははははっ。」


明日は明日の風が吹く。
凛くんの好きな言葉は、俺の好きな言葉にもなる。
失敗したってまた明日があるんだからくよくよすんなよって、なんだかすごく凛くんっぽい。
明日には明日の風が吹くように、今日にもまた、今日の風が吹く。
昨日まで俺が悩んでいた色んなこと全部、今日吹いた風にさらわれて何処かへ消えていった。





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