ピンポーン…
あの後永四郎のお見舞いに行こうと決めた俺は、行きがけにスポーツドリンクとアイス、黒砂糖を買って木手宅に来ていた。
そしてインタ−ホンを鳴らす…が、返事が無い。
ピンポーン
「えーしろー?」
とりあえずもう一度鳴らしてみたけれど、誰かが出てくる様子は無い。
もしかすると親は出掛けて閉まっていて、今は永四郎ひとりなのかもしれない。
もう一度鳴らしてみて誰も出てこなかったら諦めて帰ろう。
そう思って再びインターホンに手を伸ばそうとした時、家の中からビターン!と物凄い音がした。
しーん…。
はっと我に返り、ドアノブに手をかける。
無用人にも鍵が開いていたので、悪いと思いながらも急いで中に入った。
「え、えーしろー!?」
中に入った瞬間に目に入ったのは、床に倒れ込んで蹲る永四郎の姿だった。
急いで靴を脱いで駆け寄ると、永四郎が驚いた顔でこっちを見上てくる。
「ち…ねんくん?」
額に手を当てると、それだけですごい熱だと分かる。
とりあえず永四郎を抱えて部屋へ連れて行き、ベッドに寝かせて布団を掛けてやった。
「永四郎、やーひとりなのか?熱さましは?薬は飲んだのか?」
「知念クン…どうしてここに?」
「なまそんな話してる場合じゃないばーよ!薬は飲んだか?飲んでないのか?」
「っ…飲んでないです、動くのが辛くて…。」
永四郎は一瞬びくっと肩を震わせてから、おずおずと答えた。
「どこにある?」
「え、あの、リビングの電話の下の引き出しの中にあると思います。」
それを聞いて急いで階段を駆け下り、言われた場所から風邪薬と体温計を取り出した。
冷蔵庫を確認して熱さましのシートを見つけたのでそれも一緒に持っていく。
それからコップに水を汲んで、2階の部屋へ戻る。
早速額にシートを貼って、背中を支えながら上半身を起こさせ、水と薬を渡す。
飲み終わったらまたベッドに寝かせて体温計を渡した。
「すみません、知念クン。」
「なんで永四郎が謝るか。」
「迷惑かけてますから。」
「迷惑なんて思ってねーらん。」
それから少しの沈黙があって、永四郎がさっきの質問を繰り返した。
「…あの、どうして知念クンがこんなところに居るんですか?」
「お見舞いに来た。」
「え…。」
「…わんが来たら迷惑だったか?」
「いえ、…そんなことは…むしろあの、ぅれしいで…す。」
「…。」
一瞬の沈黙。
ピピピ…
そのとき体温計が鳴って、永四郎が我に返ったようにはっとした表情を見せた。
何となく気まずいような気恥ずかしいような雰囲気になりつつも、
彼の手から体温計を受け取る。
…39度!!結構な熱だ。
「やー、今日は何も食べてないのか?」
「はい、朝から両親は仕事に行ってしまっていたもので。」
「…じゃあ、少し寝とけ。わんが何か作ってくる。」
とは言ったものの、自分に作れる料理のレパートリーはそんなに多くない。
ここは無難におかゆでも作ろうか。
そう思って立ちあがろうとした時、永四郎に裾を掴まれて止められた。
「…あの、大丈夫ですから。」
「何言ってるばー…なにか腹にいれとかないと直るもんも直らなくなるあんに。
それともなにか、わんの料理は食べたくないのか?」
「ち、違います!そうじゃなくて、その、…できればそばにいてほしいんです。」
「…。」
なんだか今日の永四郎は普段の永四郎とまったく違う。
考えてみれば彼は人間離れしたバランス感覚の持ち主だし、そもそも熱でもなければ倒れるなんてこともないわけで。
その時点でいつもの彼ではないことは明らかだった。
けれど普段はまったくと言っていいほど他人に隙を見せない彼が、
病気になって心細くなるというかなり人間らしい一面を見せたことでなんだか安心している自分がいた。
それと同時に、彼が普段からこんな風に無理をして過ごしてるんじゃないかと心配にもなった。
もっと甘えてくれてもいいのに。ひとりで抱え込まなくてもいいのに。
だから今日みたいな日だけでも、自分に甘えてくれることが嬉しかった。
そういえば。思い出して此処へ来る途中に買って来たもの達を手繰り寄せる。
「じゃあ、アイス食べるか?永四郎の好きなゴーヤー味買ってきた。」
「…はい、いただきます。」
買ってきたアイスを袋から取り出して、付属のスプーンと一緒に渡す。
永四郎は少し溶けたかけたアイスを、なんだか残念そうな顔で見つめる。
暫くそうしているだけで一向に口に運ぶ気配が無いので
冷やし直した方が良いだろうかと考えていた時に永四郎が申し訳なさそうに呟いた。
「…手に…力がは入りません。」
…。
仕方が無いのでアイスを受け取って口に運んでやる。
永四郎は最初、驚いた顔をしたけれどおとなしくそれを食べ始めた。
「おいしいです。」
「そーか?よかったさぁ」
「ありがとうございます、わざわざ買って来て頂いて。」
「気にすることねーらん。」
それから少しずつアイスが無くなっていって、結局最後まで食べてくれた。
その後永四郎はすぐに横になって、すやすやと寝息を立て始める。
よっぽど熱がつらかったのかもしれない。
しばらく寝顔を見つめた後、壁にかかっていた時計を見てからそろそろ帰ろうと思った。
買ってきたスポーツドリンクを冷蔵庫に入れて、黒砂糖はリビングのテーブルの上に置いた。
それから電話の横に置いてあったメモ用紙を一枚取って、
永四郎がだいぶ高い熱を出しているので帰ってきたら看病してあけてほしい
という用件を書いたメモを残して家を出た。
家に帰ってから永四郎の母親から電話がかかってきて、お礼を言われた。
それと今度何かお返しをしたいから、永四郎が元気になったらご飯を食べにおいでとのことだった。
そういえば永四郎の家に行ったのは今日が初めてで、彼の家族にもちゃんと会ったことが無い。
なんだか彼が普段家族と過ごしている姿が見れるということが楽しみだ。