『さよなら』って君が言った。
それはつまり、この世界でたった一人
俺に“愛してる”って言ってくれる人が居なくなるってこと。

さよならということ

「え、…なんて?」
「俺はもうここに居る理由が無くなったけん、熊本ば帰らんといけんと。」

やけん、ここでさよならばい。
そう言った千歳の顔はちっとも平気そうじゃなくて。
それに突然そんな事を言われたって納得できない。
…さよなら?それがどういうことだかわかってるの?
だって、俺はお前がいないと息も吸えないんじゃないかってくらい愛してるのに。

「…俺じゃ、だめなんか?」
「なにが。」
「ここに居る、理由。」
「それは…。」

千歳は一瞬押し黙ってから少しずつ近づいて来て、
俺をゆっくりと抱きしめると息を大きく吸ってから意を決したように話しだした。

「すまんばってん、それはできん。俺には家族との約束があるけん、帰らんといけんばい。」
「うん。…せやけど、さよならなんて言わんでええやん。なんでそんな事言うん。」
「それは。…俺が白石の事好きだから。すごく大切やけん。」
「意味、わからん。」

千歳は俺を抱きしめる腕に力を込めてさらにきつく抱きしめた。

「白石は、俺の事、好き?」
「うん。」
「愛してる?」
「うん。」
「そっか、じゃあ俺のお願い聞いてくれる?」
「うん。」
「それなら、俺はここに残ることは出来んばってん、また戻ってくることはできるばい。
やけん、白石は俺がここに帰ってくる理由になってくれんね。」
「っ…、うん。」
「ありがとう。」

そう言ってそっと俺の唇にキスを落とした。

「白石が、俺のせいでずっと寂しい思いをするのは嫌やったけん。」
「千歳がさよならなんて言う方がよっぽど辛いやんか。」
「うん、でもそれは今だけで済むかもしれん。ばってん俺を待つのは何年かかるかわからんばい。…それだったらって。」
「そんなん何年だって待てるわ。だっていつかは帰ってくんねやろ?俺のために。」
「うん。白石のために。」
「ふはっ、なんかこそばいな。でもそれだけ愛してんねん。手放したくないくらいに。」
「うん。ありがとう。」


その日は2人でゆっくり歩いて帰った。
また会えるってわかってても、やっぱり毎日会えなくなるのは寂しい。
千歳がいなくなった後の事を考えて、布団にくるまりながらちょっとだけ泣いた。

* * *

「千歳、いってらっしゃい。」
「うん。行ってきます。」

千歳が熊本に帰る日が来た。新幹線のホームでお見送り。
またすぐに会える。毎日電話で声だって聞ける。だから大丈夫。
そう自分に言い聞かせて大好きな人を笑顔で送り出す。

「なあ、そんな泣きそうな顔せんとって。俺だって我慢してんねやから。」
「うん、ごめん。」
「なあ、1年に1回くらいは顔見せてな?」
「うん、毎年この日には必ず帰ってくるって約束するばい。」
「ん、わかった。それと、浮気したらあかんで?そんなことしたら毒手や。」
「はは、肝に銘じておきます。」
「あ、そろそろ時間やな。」
「そうったいね。もういかんとね。」
「うん。」

千歳は時間を稼ぐみたいにのおろのろと荷物をまとめて、
それから俺のことをギュッと抱きしめるとまた大きく息を吸い込んだ。

「会えない分の補給。」
「なんやねんそれ。」
「あ、ちょっと待って。」
「なに?」
「はい、これ。」

ごそごそとポケットの中をあさりだした千歳が渡してきた物は、
なにか花の飾りがついたストラップだった。

「これ、作ったん?」
「うん。なんか、ちょっと引いた?」
「ううん。嬉しい、ありがとう。これ、何の花なん?」
「ミヤコワスレ。」
「みやこわすれ…。」

ミヤコワスレ。
何か聞いたことのある名前だと思いながらなんとか思い出せないか考えを巡らせる。

「あ、あとこれも。」
「ん?っおわ!ちょ、…んっ…。」

千歳は完全に油断している俺を出発時間ぎりぎりでほとんど乗り込む人のいなくなった
新幹線の入口へと引っ張り込むと、外から見えないように背中を向けて深く口づけた。

「よし、お礼ももらったことだし。」
「なっ…。」

未だに茫然としている俺の背中を軽くトンと押すと、ホームに追い出した。

「それじゃ、ばいばい。」

千歳の乗った新幹線はアナウンスの後に扉が閉まって動き出した。
俺は笑顔で手を振る千歳の姿が見えなくなってもその場から動くことができずに、
しばらく彼の消えたほうを眺めていた。
それからふと彼が残した小さな花の意味を思い出す。

「千歳、また会える日まで、な。」



さよならということ。
それは君に触れたり、抱きしめたりできなくなるってこと。

さよならということ。
それは君がいた場所、触れたもの、見たもの、
それらのもの全てがどうしようもなく愛おしく思えてくること。

さよならということ。
それはほんの少しのお別れ。また会うための約束。


本当1パターンですみません>< 今回はまたまたとても短いお話になってしまいましたね。
最初は比嘉中の知念君と木手君で書こうと思っていた話なのですが、
むむ、なんかこの二人の方が書きやすい??と思って急遽変更したものです。計画性0な私をお許しくださいませ…。
それと、今回のミヤコワスレの花言葉。私的にはですね、また会える日まで・しばしの別れそんなニュアンスで使っています。合っているでしょうか。合っていてくれ。
花言葉ってどれも素敵なものばかりで、一回見始めるとハマりそうになります(笑)
それはさておき、最後まで読んで下さった方、本当にどうもありがとうございました^^

back/top