最近の俺の毎日はそれなりにバタバタとあわただしく過ぎていく。
だけど君からの“早く会いたい”そんなメール一つで
時間の流れが止まったんじゃないかってくらいにゆっくり流れだす。
君に会いに行くまであとちょっと。早くその笑顔が見たい。

千里も一里

新幹線に揺られながら色々なことに考えを巡らせる。
思えば蔵との付き合いも相当長い。中学のころからだから…ええと、もう7,8年か。
それだけの長い間ずっとこの関係を続けられるってすごいよな。
その間多少の喧嘩や言い合いはあったけれど、
一回も別れたいとか他の人に目移りするなんてことはなかった。
今でもこんなに大切で、少ない休みを見つけてはせっせと大阪まで会いに行く。
熊本から大阪っていう決して近いとは言えない距離だけど、
見飽きるくらい見てきたその笑顔を見るためだったら歩いてでも通えそうな気がした。
惚れて通えば千里も一里。確かにその通りだなぁなんて。
そんな事を考えていたら本当にあっという間に大阪に着いてしまって逆にびっくりだ。


蔵にはこの休みに会いに行くことは伝えてあるけれど、
明日行くと言ってあるから今俺がここに居ることは知らない。
今日はどうしても蔵に会いに行きたかったのだけれど、予定が立て込んでいて空けられそうになかった。
そこを無理を言って休みを1日早めてもらったから、急に予定が変更したのだ。
だからいつものように迎えはないけれど、サプライズのためにがまんがまん。
通いなれた家までの道のりを一人でたどる。
蔵のことを考えながら歩いていると自然に早足になっていく。
今年は忙しくてなかなか蔵に会いに行く時間も取れなかった。
だから一刻も早く彼に会いたい。その一心で前に進んでいく。

だけどまさかそんな。

ガチャッ ガッ ピーンポーン…ピンポンピンポーン…

…いないなんて。

これは…会わずに帰ればまた千里どころじゃない。
今から宿をとってそこで明日まで待つなんて、そんなのあまりに長すぎる。
それだったら蔵が帰ってくるまでここに居すわってやる。
そんなこんなで結局蔵が帰ってくるまでここで待つことになった。


…もう10時。あれから大分待ったけどまだ帰ってこない。
玄関の前で座り込んで考える。それからそんな時に便利な物の存在を思い出した。
そうだ、なんで思いつかなかったんだろう。電話すればいい。

プルルルルルルル…プルルルルルルル…プルルルルルルル… 
只今、電話に出ることができません。

結局留守電だった。
……仕事、忙しいのかな。また後でかけなおすしかないか。

諦めてまた1時間。
そろそろまた電話を掛けてみようか。そう思って携帯を取り出そうとしたとき
アパートの階段の方からカンカンと足音が聞こえた。

どうも1人分の足音じゃない。なんだ、他の住人か。
そう思った時、聞きなれた声が耳に入ってきた。

「う〜、きもちわるい。」
「ちょ、白石、ちゃんとあるきや?あとちょっとやから。」
「ん〜。ごめん謙也。」
「まあええけどさ、自分なんでそこまで飲んだん?明日千歳来んねやろ?」
「だって…今日会いたかってんもん。…んっ、ヤバい。吐きそう。」
「うわあ、まてまて、もうほら、あとちょっと階段登るだけやん、な?我慢できるやろ。」
「ん〜。」

蔵…と、謙也?
聞きなれた声だからすぐわかる。だけどなんで2人が一緒に居るんだ。
そう思っている間に2人分の足音はどんどん近付いてきて、俺の前でピタッと止まった。

「「……。」」

目が会った瞬間蔵の目が大きく見開かれて、沈黙が流れる。
かと思うといきなり蔵が泣き出した。

「う〜、謙也ぁ。俺もうアカンやんっ。禁断症状出てもうてるやん〜。」
「蔵。」
「わ〜もう、今度はしゃべりかけてきたやんかぁ。幻聴も聞こえたぁ。」
「いや、大丈夫や。俺にも見えてんで。」
「…本間〜?」
「おん。」

そんなやり取りの後蔵が恐る恐る俺の方へと手を伸ばしてきて、そっとその手が俺の腕に触れた。
その瞬間何かがはじけたように勢いよく俺の方に飛び込んできた蔵を、しっかり抱きとめる。

「っ…千里ぃ…。会いたかった…。」
「うん。俺も。」

俺の肩口に顔をうずめておいおい泣く蔵の背中をさすりながら、
上の方から俺たちを見降ろす呆れ顔の人物と目を合わせる。

「一応、止めたんやで?これでも。」
「うん、ごめん。」
「ええけどさぁ、災難やな。こいつ相当酔ってんで。」
「みたいやねぇ…。」
「まぁ、とりあえず俺は送り届けたし、帰るな。」
「ありがとう。」

そう言って帰ろうとする謙也の背中にお礼を言うと、
彼は手を振って帰って行った。

「蔵?大丈夫?」
「ん〜、ん〜ん。」
「とりあえず、中入ろ。」

大丈夫なのか大丈夫じゃないのかよくわからない返答の蔵を抱えながら立ち上がると
彼の鞄の中から家の鍵を探り当ててドアを開ける。
それから中に入って蔵の靴を脱がせ、自分の靴も脱いでから玄関に上がった。
うんうん唸っている蔵を立ち上がらせて部屋の中に連れて行こうとしたけれど、
ちゃんと歩いてくれない。

「千里〜、ちょっとまってや…。」
「ん?」
「ん〜?やないやん。」

そういって蔵は壁にもたれかかると、またもや小さく泣き出した。

「俺、ショックやってんでっ。千歳が、来れないって、言うた時…っ。
…絶対に、この日はっ…この日だけは会いに来てくれるって言ったのにっ。
でも千歳も、忙しいからしょうがないってっ…我慢しようと思った。
けど、やっぱっ無理やってん。…っ、…寂しかっ、た。」
「うん。」
「信じてたけど、…っやっぱり、怖かってん。
俺の事、どうでもよくなったって、言われたらっ、どうしようって。」
「そんなこと、あるわけない。」
「そんなんわからんやんかっ」

思ってた以上に蔵を不安にさせていたらしい。
そのことに反省しながらそっと背中にまわされた両腕に応えるように
頭をなでて、ゆっくりと言い聞かせるように話し始めた。

「ねえ、蔵。聞いて?俺は蔵しか好きじゃないし、蔵しか欲しくなかよ。
 今日だって蔵の事考えながら来たけんあっという間にここに着いた。
 それに着いた時蔵が家に居なかったけどどうしても会いたかったけん、
ずっとここで待っとったばい。それなのに、どうでもいいことなかやろ?
ばってん寂しい思いさせたことは悪いと思ってる。ごめん。」

俺がそう言い終わると蔵の両手がきゅっと俺の服をつかんだ。
それから鼻声になった声で聞いてくる。

「…千里も、寂しかった?」
「うん。」
「俺に、会いたかった?」
「うん。」
「今日は、俺のために来てくれた?」
「うん。」
「そっか。」
「うん。」
「俺は、まだ千里がここに帰ってくる理由になれてる?」
「うん。」
「でも、千里がここに残る理由には、まだなれてへんねやんな。」
「…蔵、そのことで話がある。」
「…なに?」
「ちょっと待って。…はい、これ。」

そう言ってポケットから探り当てたものを手渡す。
するとやっぱり蔵はびっくりしたような訳のわからないというような顔をして
こっちを見上げた。

「…え?何これ。」
「鍵。俺たちの部屋の。俺、来月からこっちに住む事になったと。」
「え?」

一旦息を大きく吸いこんでから、
今日ずっと言おうと思っていたことを思い切って口にしてみた。

「やけん、…よかったらずっと俺のそばに居てくれませんか。」

蔵は驚いた顔をさらに驚いたようにして目を見開いて、
しばらく固まってから困ったように、だけど幸せそうな笑顔で答えた。

「っ…はい。」

「はあ、よかった。勝手に決めしまった事やけん嫌がられたらどうしようかと おもっとったばい。」
「そんなん思わんし。めっちゃ嬉しい。」
「うん、よかった。」
「なあ、それじゃあ俺からもお礼せなあかんなぁ。」
「そうやね、ふふ。」

それから少し背伸びをした蔵がお礼のキスをくれた。



(…はぁ、もう一回。)
(なんね、お礼っていうより蔵がしたいだけやないと?)
(ええやんか、久しぶりの再会やし。)
(うん、まあそうやんね。…んっ。)
(ふっ…んん…っ。うっ、ヤバい吐きそう。)
(ええ、待ってそこで吐かんでよ。早くこっち!)
(う〜。)

結局俺たちの間にあった千里の距離は一里にも満たないほどに縮まった。
今度からは二人一緒に歩いていこうな?

一応さよならの続きの話です。と言わせて下さい。
このお話は私が辞書をぼけ〜っと眺めていたら、突然千歳一里…ぷ。となってそんな変なのりで書いてしまったものです;
例のごとく私の3大させたい病(泣かせたい、酔わせたい、風邪引かせたい。)のうち2つが発病してしまいました。
こんな調子だからいつもいつも中身が同じような感じになっちゃうんですよね…。
だけど男の人の涙は魅力的だと思いませんか?…まじめに言ってるとなんか変態みたいですけど。
まあとにかく最後まで読んで下さった方、どうもありがとうございました^^

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