謙也さん…。
俺の名前を呼びながら、その唇は俺の体をなぞってゆく。
愛してる。
そんな言葉をささやきながら、その唇は俺のそれに重ねられる。
…そんな夢を見た。
今まで大して意識もしていなかった相手がそんな夢を見たってだけで
とても気になる存在になったりする。そうゆうこと、あるよなぁ?
ただ今回はいつものそれとはわけが違う。なんてったって相手は男。俺も男。
それでも例外なく、俺は君でさえも気になりだした。
そんな始まり
「ん、…ざいぜん。」
ドッ!
勢いよくベッドから落ちた。
それは昨日セットした目覚ましの設定より15分早い朝のこと。
…変な夢を見た。それは部活の後輩が、それも男である彼が出てくるにはおおよそふさわしくない内容の夢。
夢の中で彼は、俺の恋人と言う立場にいた。
こうゆう夢には大抵、クラスの女子だとか、アイドルの女の子だとか …そんなのがでてくるものなのだけれど。
そんな夢をみてからなんとなくその子を意識しだして…とかそんな感じ。
だけどなんだ、なんでよりによって彼が、財前が。
彼とは部活の先輩後輩として、ダブルスのパートナーとして、それなりに関わりはあるけれど、
まさか今までに彼を恋愛対象として意識したことなんてなかった。
だけど夢の中ではそんな現実にはあり得ないようなことでも簡単に起こってしまう。
だからと言って、夢に出てきたってだけの理由で誰でも恋愛対象になってしまうなんて。
ピピピピピピ…ピピピピピピ…
ベッドから落っこちてしばらくぼーっと考えにふけっていたら、
いつの間にかにそんなに時間がたっていたらしい。
ベッドサイドに置かれた目覚まし時計を止めて、さっき自分と一緒に床に落ちた掛け布団を元に戻す。
それからいつものように洗面所に向かい顔を洗って食卓へ行くと、すでにテーブルの上には朝食が並べてあった。
それを食べ終えてから朝練と学校に行く準備を整えて家を出た。
* * *
「「げ。」」
校門の手前。
いつもは低血圧だから朝は苦手だとか何とか言ってこんな時間にはめったに部活に出てこない財前が
今日に限って早く家を出でたようでばったりでくわしてしまった。
できれば今は会いたくなかった相手だ。あの夢がまだ気になっているから。
案の定彼を前にしてちょっとドキドキしている自分がいる。
…それにしてもうっかり流しかけたが、こいつ会って早々「げ。」とか言わなかったか?
俺はあんな夢を見てしまった手前、財前に出くわすとなんだか気まずいという理由で思わず口にしてしまったのだけれど
財前には朝から顔を合わせた瞬間に「げ。」なんて言われる理由が思いつかない。
一瞬今朝の自分の夢を見透かされたんじゃないかとかわけのわからないことを考えたけれど、
そんなことはありえないだろうし。
それじゃあなにか、朝から俺に会ったことが不満だとでもいうのか。
そこまで考えて失礼な奴だとか俺が何かしたのかとか考える前に、まず悲しかった。
自分が不本意とはいえ気になりだした相手にそんな風に思われているかもしれないってことが。
「謙也さん…なんすか、げって。失敬な。」
「おまえかて言うてたやろ、しっかり聞こえてたでえ。」
「そうっスか。まあいいですわ、なんでも。」
「何でもいいやないやろ、なんやねん。俺に会うたらなんか不満なのか。」
「…別に。」
そういうと財前は早足で校門へ向かっていってしまった。
なんやねん、ちょっと傷付くやろ。…いやいや、自分がなんやねん。乙女か!
そんな事を考えながらその場に立ち尽くしていたら、遅刻常習犯の千歳にまで追い抜かされてしまった。
その後急いで部室に向かってなんとか開始時間には間に合ったけれど、
部活中は前でボレーやらスマッシュやらの練習をしている財前に気を取られて、練習に身が入らなかった。
* * *
キーンコーンカーンコーン…
1時間目終了のチャイムがなると、白石が俺の席にやってきた。
「なあ謙也ぁ、自分なんかあったんか?」
「…なんで?」
「んー、なんや朝からぼーっとしとるな思て。」
「そうか?…んなことないと思うで。」
「…そうか。まあ、なんかあったらいつでも言いや?話があるなら聞いたるから。」
「…おお、ありがとう。」
感が鋭い白石だったからとはいえ人に気付かれるくらいに集中力がなくなっているだなんて、かなりまずい。
だけどそんなことを考えながらも、目では向かいの廊下を歩く財前を追ってしまっている自分がいる。
どこに居ても好きな人のことなら一発で見つけられてしまうという、恋する者特有のあの能力が発動してしまっている。
((あー、もう。たかが夢に出てきただけやろ。))
すると不意にこっちを見上げた財前と目があった気がして、とっさに視線をそらしてしまった。
やけに頬が熱い。
((はぁ…あかん。完全に惚れてもうてる。))
たったあれだけのことで彼を好きになってしまうなんて。
認めたくはなかったが、こうなってしまっては仕方がない。
ほとほと自分の惚れ易さにはあきれるってものだ。
こんな相手に恋したって叶うはずもないのになあ。あほやわ、俺。
* * *
放課後。今日は月曜日だということで部活はオフだ。
とくに用があるわけでもないし、なんとなく疲れていたからそのまま真っ直ぐ家に帰ろうと思った。
校門に向かって歩いていると、誰かに後ろから声をかけられた。
「謙也さん、ちょっと。」
「あ?」
「今日どっか寄ってきません?」
疲れの原因に声をかけられたわけだけれど、やっぱり彼からの誘いは断ることができない。
「…おー、まあええけど。」
「じゃあ、あのファミレスでいいっスよね。」
「ああ。」
それから2人していつものファミレスへ向かう。
それにしてもなんなのだろうか?誘ってきた本人がさっきから一言もしゃべらない。
そうして沈黙が続くうちに目的地に着いてしまった。
「謙也さん、なににします?」
「え?えー、おでん。」
「…。」
「わかっとるわ、メニューかせ。」
「早く決めてくださいよ。」
「財前はもう決まっとるん?」
「俺はいつもぜんざいしかたのまないんで。」
「ふーん。じゃあ俺もそれ。」
「え、謙也さんぜんざいなんて食べはりますっけ。」
「まあ、たまにはええやろ。すいませーん。白玉ざい…ぜんざい2つ。」
財前はふーんと大して興味もなさそうにしている。
実際財前が食べているものを俺も食べてみたかったってゆうだけやねんけどな。
「…で?なんか用があったんとちゃうんか。」
「まあ、別に用ってほどのことでもないんっスけど、ちょっと聞きたいことがあって。」
「…なんや。」
「あの、俺、謙也さんになんかしましたか?」
「え?」
「なんや朝会った時も嫌そうやったし、練習中も全然集中してへんで、一日中目も合わさんようにしてはるみたいやったし。
そのくせ何か言いたげにこっちをちらちら見っとったやないですか。」
「…。」
「何か言いたいことがあるならはっきり言ってくださいよ。」
「いや、別にお前がなにかしたわけやないねん。ただ…。」
「ただ?」
あまり言いたくない話だけれど、意味深にただ…なんて言ってしまったせいで
財前はそのあとに続く言葉をせかすように聞いてくる。
「これはあまり言いたくないねんけどな、笑わんと聞いてくれるか?」
「まあ内容によりますけど。」
「…まあええわ。あんな、今日変な夢見てん。」
「変な夢?」
「ああ、…財前と付き合ってる夢。」
「!」
やっぱり驚いてる。それはそうだ。
俺だってそんな夢をみられて、ましてやそれが原因で相手の調子が悪かったとなれば良い気はしないだろう。
だからって一旦言ってしまったものはもう遅いし、最後まで言うしかない。
「せやからな、なんか気まずかってん。」
少々の沈黙。それから財前が意を決したように話しだした。
「あの、じゃあ同じ夢をみた人として謙也さんに相談があるんスけど、
たった1回夢にでてきただけで、その相手のことが気になってしゃーない時はどうしたらええんですかね?」
「…は?」
「せやから、俺も謙也さんと同じ夢見たんスけど、
それから謙也さんのこと気になってしゃーないんですわ。そうゆう時はど−したらええんかなーって。」
「…え?それはつまり。」
「まあ、好きってことっスわ。謙也さんのことが。」
「え。」
思わずフリーズ状態に陥る。
「……やっぱ無理っスよね。そんなら忘れてください、今の。」
そう言って財前はいつのまに運ばれてきていたぜんざいに手を伸ばす。
俺はさっきの彼の告白をなかったことにしたくなくてあたふたとした後、
何を思ったのか俺はとっさに彼の腕をつかんでに口づけていた。
「!」
突然の俺の行動に、財前は目を見開いて茫然としていたけれど、
唇が離れた瞬間声を荒げてまくし立てた。
「なにしはるんですか!いきなり!」
「えーと、あの。…俺も好きやから。俺だったらそんなとき、こうするかなって。迷惑やった?」
「…。はあー、もう。それやったら場所くらい選んでほしかったっスわ。」
「それはすまん。でもなかったことにしたくなかってんもん。おまえの告白。」
「…ってことは。俺たち付き合うってことっスか。」
「まあ、そうゆうことやなあ。おまえがええなら。」
「俺はそっちのほうが嬉しいっスけど?」
「ん。じゃあよろしく。」
「ということは…あの夢もただの夢じゃなくなるかもしれへんってことやなあ。」
「…どんな夢見たんや。」
「どんなって謙也さんが俺の下であんあ「あほか!そんなことありえんっちゅー話しや!」」
その声は店内に響き渡って、財前に謙也さん、勘弁して下さいよなんていわれてしまった。
俺としては彼の発言のほうが勘弁していただきたかったのだけれど。
これは余談だが、それからしばらくたって彼の夢は現実のものになったりならなかったり。
夢から始まった俺たちの関係は、夢よりも幸せで予想外。
2人一緒にそんな夢を見るなんて、案外運命なのかも知れないなんて。
そんな始まり。
夢を見た次の日からやたらと気になっちゃってそっからハマった歌手とかいませんか?…私だけか;
とにかく今回の光謙はそんなお話です。
展開が速いのは私の小説の常なのですが… なんか最初と最後だけ浮かんできて、中身が浮かんでこないんですよね…。
そんな中、最後まで読んで下さった方、どうもありがとうございました^^