上京して3年、島にはまだ一度も戻っていない。
その事についてとやかく言う親ではないし、友人の殆どが同じように島を出てそれぞれの場所で新しい生活を始めている。
唯一島に残った恋人も、さみしいからと言ってはちょくちょく連絡を寄越すけれど、最近ではいつ帰ってくるのかと聞いてくることはまず無くなった。
たまに聞かれることがあっても来年には1度親に顔を見せに帰るよ、と言えば、すかさずオリンピックかよっ、なんて言ってひとりで笑ってたりして。
そんなあいつはと言えば、一度も島に戻らない俺に対して申し訳なくなるくらいに良く会いに来てくれる。
もちろん嬉しくない訳は無いのだけれど、そんなお金や時間がどこにあるのかと心配になる俺に
「凛くんに会いに来るために働いてるから。」とかって真面目な顔して言えるあいつがなんだかすごいと思った。
とにかく単純で純粋、そんな可愛い奴。それが俺の好きになった人。
ただいま
「もしもし〜?裕次郎〜?」
『あっ!凛くんから掛けてくれるなんて珍しいねぇ。』
「んー、そうだろ、まぁたまにはな。」
『うんうん、嬉しい!』
「そっかぁ〜?じゃあもちっと俺から掛ける回数増やしてみっかな。」
『じゅんにな、それいいね。』
「んだろ。」
『うん。』
「でさぁ、裕次郎。」
『ん〜?』
「今日の夕飯何がいいと思う?」
『ん〜・・・、わんハンバーグが食べたい。』
「あー、ハンバーグか、いいな。」
『でしょ?凛くん作って作って〜っ!』
「しょうがねーなぁ、じゃあ作ってやる。」
『やったぁ、そんで出来たやつは速達便で送ってね。』
「ははっ、あんだよそれ、腐んねぇの?」
『わからねーらんしが、折角だから腐っててもかむんよ。』
「くっく、じゃあ気合入れて作るよ。」
『うん、楽しみにしてるね。』
「おう、・・・ところでお前今家?」
『ん?うん、今日休みで部屋に居るけど。』
「何してたの?」
『え、・・・・・・・・・ワープの練習。』
「・・・は?」
『だからー、東京までどうにか瞬間移動出来たりしないかなぁって、気を集めてさ、なんというか・・・まぁ、ね。』
「ぶふっ・・・んだそれ、あははっ、ははははははっ、やーはフラーか。俺一瞬ワープロの練習かと思ったわ。」
『えー、そんなに笑わなくたっていいあんに?』
「だってよ、くっくっく、お前それ笑うなっていう方が無理な話だろ。」
『ぶー、わんだって出来ないことくらい分かってるんどー、やしがやるあんに?かめはめ波ーとか。』
「あー、まぁな、そんくらいならやったことあるかもな。・・・この年になってやったりはしないけど。」
『うー・・・。』
「つか、今それやられたらちょっと困るかも。」
『え?何、それって。』
「だからその瞬間移動とかってやつ。」
『えー、なんで?』
「うん、・・・それはね。」
『んー?』
「それはですね・・・。」
『んんー?』
「・・・アタシ凛ちゃん、今あなたの部屋の前に居るの。」
『きゃあああああああああああっ!・・・・・・って、え?えぇっ!?』
―・・・バンッ!・・・・・・・・・・・―
『「うそ・・・。」』
「ただいま、裕次郎。」
「・・・うそー、えーっ!?どうしたの?なんで居んの!?え?えっ?」
「裕次郎が瞬間移動しようとか馬鹿な事考えてる間に俺はちゃんと現実的な行動に出てたって事だよ、君。」
「えー!?わー、ちょっと懐かしい、この部屋と凛くんの組み合わせとか・・・てかからじ伸びたね、あれ?なんか痩せた?・・・あー、うぁー、凛くんの匂いー・・・本物やっさぁ・・・。」
「くくくっ・・・、でも確かに懐かしいな、ここ。」
「でしょ?」
「んー、ホントはちょっとこの部屋には来たくなかったんだけど。」
「・・・なんで?」
「・・・んー、なんつーかさ、昔からここ来ると帰りたくなくなるんだよな、絶対。」
「・・・じゅんに?」
「ん・・・。」
「じゃあ帰らなくていいやし。」
「・・・。」
「とか、そういう訳にもいかないもんね・・・。」
「そーだなぁー。」
「・・・。」
「もう帰らなくていいか。」
「え?」
「・・・わっさん、冗談。」
「・・・。」
昔から何度も通ったこの部屋。
その一度たりとも帰りが惜しいと思わなかったことはない。
だからこそ避けてきた場所だけど、そろそろ平気だろうと訪れてみた。
けれどどうだろう、昔より一層この場所が恋しくなってしまっている気がする。
この懐かしくて優しい、あたたかいもの達で出来た場所。
「うぁー、マジでやばい、俺ここに住み付きたい。一生ここでこうやってゴロゴロしてたいー、この隅っこでいいからぁー。」
「あははっ、いいよ。そしたらわんが養ってあげる。」
「マジかよー、超いいじゃんソレ。俺しんけん働かなくなんよ?」
「うん、いいよ全然。」
「あー、マジでー?じゃあ頼むわー、よろしく。」
「うんー、かしこまりー。」
「くっく、・・・本当に帰ってきたんだな、なんか実感わかない。・・・アレかな、ちょっと帰って来たい気持ちが大きすぎて現実味がなくなったみたいな?」
「ふふっ・・・、そうかもね。」
「・・・ただいま。」
「うん、おかえり。」
「・・・なぁー、つかあそこあんな店あったっけ?」
「どんなの?」
「なんか、あっこの角んとこずっとまっすぐ行ったとこのさぁ、なんか如何わしい感じの。」
「あー、あれ一昨年?とかに出来たかや、確か。」
「へぇー、なんか知らん看板でーじ増えててビビった。しかもフジ子おばーの駄菓子屋が・・・無くなってた。」
「あぁ、大丈夫、大丈夫、西小の近くに移動しただけやくとぅ。」
「えー、なんだそうかぁ、よかった。後で行こうぜ?」
「んー、わん的にはあの如何わしい感じの店の方が行きたいけどね。」
「ふらぁー。」
「くっく、冗談。」
「え、冗談?そこも後で行こうとしてたのに。」
「えー、うそー。」
「うそー。」
「ふふっ・・・あぁー、りんくーん、おかえりー。」
「うっへ、・・・重いってば。」
「んー、まさか会えるとは思ってなかったからでーじ嬉しい。」
「うん、俺も来てよかった。」
「んー、凛くんチューしよチュー。」
「いいけど、したらどけよ?」
「うん、チュー・・・。」
「くっく、はいっ・・・。」
「ひーん、そんなんじゃ足りないー。」
「はいはい。」
「んっ・・・ふ、凛くん・・・・・・。」
「・・・っ、ん・・・・・・・・・ん、んふぁっ・・。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・ってな感じでそのまま致してしまって夕方頃。
久しぶりだといろいろ溜まってたりする分盛り上がる。
そんなわけで日の暮れかかった町を裕次郎と手を繋ぎながら散歩中。
『うわ、ホモとか初めてみた。』とかヒソヒソやられたって関係ない。
どうせ過ごしづらくなるのはここに残る裕次郎だけだから。
まぁそんな冗談は置いといて、結局フジ子おばーの駄菓子屋は時間的に閉まっていて行けなかった。
それから部活でもよく使っていた近所の浜辺に来てみれば、ちょうど夕日が海に沈んでゆく場面に遭遇した。
相変わらずこの島の海は、涙が出そうなくらいに美しい。
「なんかこれ見ただけで明日から頑張れそうな気にならんばぁ?」
「・・・美ら海パワーだね☆」
「馬鹿にしてんのかお前。」
「してないってば、・・・・・・ぷはっ。」
「ちっ。」
「ふふっ。」
「・・・・・・はぁ。」
「ん?」
「・・・なぁ、裕次郎。」
「なに?」
「俺言って無かったけどさぁ。」
「うん。」
「3時間後の便で東京に帰らなきゃいけない。」
「えっ。」
「うん。」
「なんで。」
「明日も仕事だし。」
「・・・そっか、そうだよね。」
「ん、実はよ、・・・なんか俺あっちの生活にすっげー疲れててさ、急にどうしても裕次郎に会って一緒に海見たくなったから来てしまったんばーよ。」
「うん。」
「だから大きな休みが取れたとか言うわけじゃなくてさ、明日も朝からまた仕事。」
「うん。」
「しんけん仕事とか全部ほっぽって帰って来ちゃおうかなぁとか一瞬思ったけど、しっかりチケットは往復分買ってんだよな。」
「・・・。」
「それにやっぱ、お前にあったら元気出た。」
「そっか、それならよかったばぁ。」
「うん。」
「やしがなんか悔しいさ。」
「何が?」
「だって、凛くんってば東京に“帰る”ってあびたんばぁよ。凛くんの帰る場所はここだけあんに。」
「あぁ、くっく・・・だーるな、んじゃあ東京に行かなきゃならん。やしが裕次郎に元気もらったからまだちばれる。」
「うん。」
「にふぇーど。」
「うん。」
「・・・・・・・・・よしっ、帰るか・・・俺やーさっさぁ。」
「ん、じゃあハンバーグ作ろ、パイナップル乗ってるやつ。」
「うげー、フルーツ加熱するとか無理ー。」
「えー、まーさんやし。」
「ナイナイ、俺パス。」
「じゃあいいよ、一人でするから。」
「おー、そうしろそうしろー。」
「えー、あとから頂戴って言ってもあげねーらんばーよ。」
「いいですよー。」
「ふん。」
「くくくっ。」
「・・・ねぇ、次はいつ帰ってくるば?」
「んー?やっぱ4年後、とか?」
「だからよー、オリンピックかって!」
「くっく・・・冗談さぁ、すぐ帰って来るってば。」
「うそ。」
「ホント。」
「絶対?」
「ん、次の休みは絶対帰って来る。じゅんにすぐだから待ってて。」
「うん、楽しみに待ってるよ。」
「おう。」
「まず最初にわんのところに帰って来てね、一番最初に“おかえり”って言いたいから。」
「・・・おう。」