「わーかった、わーかったから一回落ち着けって。」
「俺は最初から落ち着いてるよ。そういう言い方、ムカつくからやめろ。」
―ガシャンッ―
「お?…どうした裕次郎?そんな息切らして…。」
「なんかあったのか?」
「…ううん、そうじゃないよ。」
「ふーん、…あ、コレいるか?すっげー美味いぞ。」
「あっ!だからそれは俺のだって言ってるだろ!勝手に取るなっ!」
「ははっ…いいよ、慧君の食べ物なんて貰った日には何倍にして返さなきゃいけないか分かったもんじゃないから。」
「おぉっ?おぉー…、確かにそうだから言い返せないけど…。」
「くくっ、裕次郎でも理解している暗黙のルール。」
―カシャンッ―
「あ、三人ともここに居たの。手間が省けましたよ。」
「おー、永四郎。」
「なんかあったか?」
「ええ、今日の放課後の部活が中止になったと伝えに来たんですよ。」
「おおっ、マジで。」
「ええ。それで甲斐クン、俺はまだ実験室の方へ足を運んでいないので知念クンに知らせる事が出来ていないんです。
1年生と2年生にも伝えに行かなければならないので代わりに甲斐クンが知念クンの元へ伝えに行ってもらえますか、頼みます。」
「えっ…、でも。」
「じゃあそういうことだから、宜しくね。」
「あっ…。」
「…すっげー簡潔。」
「うん、だな。」
「………。」
「てか裕次郎、早く知念のとこ行って来いよ。」
「あ、うん…、行ってくる。」
「あっ!ちょっと待ったその前に!」
「ん?」
「お前、知念に飴貰ったろ?あいつがいつも持ち歩いてる飴の匂いがしたぜ。」
「…え?」
「水色のさ、すっげー美味いやつ。知念のとこ行くならついでに俺達の分も飴貰ってきて。」
「…うん、わかった。」
確かにあの甘くて丸い物体は、“飴”って言う名の俺も良く知ったお菓子だった。
何でこんなに簡単に騙されてしまったんだろう、何で言われるまで気が付かなかった?
それじゃあ、あれがただの飴だったのなら、何の効果も効能も無いってこと?
だったらあの苦い飲み物も、やっぱりただのコーヒーだったんだ。
もう一度俺を騙してくれたのは、俺がそうしてくれって言ったから?
それならなんで、寛は俺の事が好きだなんて言ったの?
あのコーヒーも、飴も、何の効果もないものだって知ってたのに、なんで俺の事が好きだなんて言った?
―ガラガラ―
俺が実験室の扉を開けると、窓際に居た寛の肩が一瞬ビクッと跳ねて、それから目元を拭う様な動作をしたのが見えた。
「寛。」
「…裕次郎、か。」
「うん。」
「どうした?」
いつもの様にどうしたのって聞いてくれる寛は、けれど視線をずっと外に向けたままでこちらを振り向いてはくれない。
俺は後ろ手に扉を閉めてからゆっくりとその背中に近づき、ぎゅっと後ろから抱きしめた。
薬品の匂いと、甘い砂糖菓子の匂いがふわっと漂ってくる。
確かにそれは、意外と甘いものが好きな寛からたまに漂ってくる匂いと同じだった。
ごめんね、ずっと君の本当の気持ちに気付いてあげられなかった馬鹿な俺で。
「っ…、裕次郎?」
「寛、さっき貰った薬、失敗作みたい。寛の方は効果あった?」
「…うん、あったよ。多分そのうち、裕次郎の方にも効果が出るはずだ。」
「本当?」
「うん。」
「それならさ、本当に効果があったなら…寛は何で泣いたりなんかしたの。」
「っ…。」
「まだ、俺のこと好きだからじゃないの?」
「…。」
「俺は、寛の事が好きだよ。」
「…。」
「飴とか、コーヒーとかの所為じゃなくて、ちゃんと、寛が好き。」
「…え?」
「寛が、好きだよ、…好き。」
「…。」
「ねぇ、だから…わんのこと好きって言って、お願い。」
「…好きだよ、ずっと前から。」
「…。」
「裕次郎のこと、ずっと前から好きだった。」