俺、馬鹿だけど、それを言ったら凛を困らせることくらいは分かった。
でもね、俺はあの時ほど、何もしなかったことを、聞かなかったことを、後悔した時は無いよ。
他の誰とも取り換えの利かない、大切な存在。
それを手放してしまう悲しみに比べたら、行かないでって、別れたくないって、
追い縋って泣く事くらい、取るに足らないことだったのに。
あれからずいぶん経った。
だけど俺は今だに、あの頃の様に、凛とあの頃みたいな関係に戻れたらって、思う事があるよ。
Hard to Replace
「よぉ、…。」
待ったか?
待ち合わせの3分前、そう尋ねる凛に、待ってないよと答えれば、少し照れくさそうにはにかんで笑った。
久々に見た凛はあまり変わってなくて、それがなんだか嬉しい。
雰囲気こそあまり変わらない凛だけど、綺麗になったと思う。
淡い青磁色をした浴衣がとても似合っている。
これは半場強制的に揃えて着させられたものだけど、なかなか良いかもしれない。
流石夏、流石祭り、万歳凛のアイデアだ。
「この年になってまで俺らふたりで祭りとか、なんか笑えんな。」
「だねぇ。」
「けど、他に一緒行く奴もいなかったからよぉ。…それに、裕次郎にも会いたかったし。」
「うん、俺も久しぶりに会いたいなぁって思ってた所だよ。」
「だよなぁ!なんだかんだで俺、お前と居るのが一番楽しい。」
「うん、楽しいね。」
昔より開いた身長差を埋めるための上目使いに、何か勘違いをしてしまいそうになる。
触れたいと思ってしまうから、あまり近づきたくはないのだけれど。
クイクイと俺の浴衣の裾を引っ張っては、アレだコレだと楽しそうに話す凛。
その柔らかい笑顔と、丸くなった表情を見ていると、少しずつ緊張はほぐれた。
「…なぁ、裕次郎今付き合ってる奴とかいねぇの?」
「うーん、居ないねぇ…、居たら今ここに来てないねぇ。」
「ふーん、そっか。」
さして興味のなさそうな凛の反応がおもしろくない。
「…実は、先週振られたんだよね。」
「うっは、マジで?」
そう切り出した時の凛の目の輝きと言ったら。
凛らしいと言えば凛らしい。
「捨て台詞がホント、立ち直れない…。」
「なんて言われた?」
「『てめぇ、マジで年中発情期かよ!』って…、グーで殴られた。」
「ぶっふぉ!…なんだそれ、傑作!!つかそれどういう状況だよ!?」
「…それはもう、言いたくない。」
「あっは、相当ムカついたんだろうな。」
「だね、男みたいな声でさぁ、見た事も無い様な顔してグーパンされてさぁ、すっげぇ怖かった…。」
「あ、女だったのか?」
「え?うん、なんで?」
「あー、えーと、なんつーか…。」
「あぁ〜…、俺男と付き合ったのって一回しか無いよ。」
「え、マジで?…それって俺だけって事?」
「そうそう、…え、凛は違うの?」
「んー、俺は逆、女は一回だけ。」
「…マジか。」
「マジだ。」
「え、なんでなんで?」
「やー…、裕次郎と別れた後さぁ、俺すぐ彼女出来たんだよ。」
「あー…、あの子ね、覚えてる覚えてる。ちょーベタベタしてたし。」
「そう!付き合い始めたの夏だったからよぉ、左腕だけいつも汗でびしょびしょになんの。」
「あはっ、それ最悪。」
「うん、で、付き合い始めて1ヶ月くらいした時かなぁ?彼女に家に来なよって呼ばれたんだよ。
そんで、…これは!俺もついに童貞卒業!とかって思いながら行ったわけ。」
「うん。」
「して、まぁなんやかんやあって、いざ合体!ってなったら…ね、立たなかったよね。」
「…え、なにそれ。」
「や、直前までは一応立ってた!立ってたけど、なんかもう、アレ見ちゃったらへにょんって…、グロかった。」
「うっわ、最悪!それ一番避けたいパターンのヤツや!」
「だな、…そん時は部活のやりすぎで疲れてるからってことで何とか乗り切ったけど、やっぱすぐに別れたわ。」
「だよなぁ、…彼女もなんか、変な感じになっただろうね。」
「なってた、すっげぇ引き攣った顔してた。…正直トラウマになった。」
「ははっ。」