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朝だ。カーテン越しに窓の外から明かりが入ってきているのを見て、
まだ錯覚しきれてない頭でそう思った。そろそろ起きよう。
また今日も、いつものように1日が始まる。
伸びをしながらあくびをして、さあ布団を出よう、そう思った時だった。

「ん〜。っ〜〜〜! っつぅ…。」

伸びをした瞬間、頭に激痛が走った。痛みが治まるのを待って考えを巡らせる。
この痛みは今までに何度か経験したことがある。…そうだ、二日酔い。
そういえば、昨日は一氏と飲んだ後、どうやって帰ってきたのか記憶がない。
いつも通りこうして一日の始りをベッドで迎えられているということは
無事に帰ってこれたということだけれど…。
そこまで考えてはっとした。いつも通りベッドで?
自分が普段使用しているのは布団であって、ベッドではない。
慌てて部屋を見渡せば全く知らないわけではないけれど、見慣れたとも言えない部屋が広がっていた。
その部屋がどこであるか思い出した瞬間焦りと混乱が混ざったような感情が押し寄せてきて、
バッとその部屋から目をそらすように前を向きなおした。

「…ちょっと待て…今何か見えたで。いや、それはないわ、ないない。」

さっき部屋を見回したとき一瞬目に入ったもの。
それはなんとなく昨日自分が着ていた服に似ていた。まさかな。
あれだけ後悔しといてまた同じ過ちを繰り返すわけがない。
そう自分に言い聞かせて、勇気をふるってもう一度それに目を向ける。

「…うっわあああああああ! やっぱ俺の服やん! ッ…つぅ〜。」
「…ん。うるさいなあ。」
「う、うわあ!」
「…ん、そっか。オサムちゃん、もう目、覚めたと?」
「…。お、おお。なあ、それより聞きたいことがあんねやけど。」
「ん? 」
「なんで俺の服、床に落ちとるん?」
「ああ、昨日のことおぼえとらんたいね。」
「ままままままさか。」
「…心配せんでも何もしとらんよ。あ、やっぱ“何も”ではなかね。」
「!」
「昨日のオサムちゃん、た〜いがむぞかったばい。ははっ」
「〜〜〜!」
「冗談やけん、そんな顔せんで。オサムちゃんの服は床に落ちてるばってん、
ちゃんと俺の貸した服ば着とるよ。」
「え?」

そう言われて慌てて自分の格好を確かめる。確かに服を着ていた。ぶかぶかだが。
まあ、この際は気にしないことにする。着ていないよりはマシだ。
それよりもさっきのが自分のはやとちりだと気付いてなんだか恥ずかしいくなった。

「な、着とったやろ?」
「おん。」
「…なあ、オサムちゃん。」
「あ?」
「ほんとに昨日のこと、なんも覚えとらんと?」
「…やっぱり俺、なんかしたんか。」
「いや、なんも。気にせんでよかよ。」
「…。」
「それより、オサムちゃん、今日何もないと?帰らんでもよかと?」
「ああ、あ、そうやんな。すまん、迷惑かけてもうたみたいで。帰らんとな。」
「いや、そうゆうつもりで言ったわけではなかばってん。」
「お、おお、でも今日はもう帰るわ。やらなあかんこともあるし。」
「そっか。」
「おお、本間すまんな。」
「うん、よかばい。」

そう言って急いで床に落ちている自分の服を拾い集めて着替えると玄関で靴を履いて外に出る。
ドアを閉める瞬間千歳の悲しそうな顔が目に入った気がした。
本当はやらなければいけないことなんてほとんどなかったけれど、
あの状況で千歳と2人って言うのもなかなかに気まずい。
あんなことがあってからあそこに向かってしまったこと自体
正気に戻った今なら考えられない事なのに。
どうしてしまったんだろう。だっておかしい。
自分で彼を突き放すって選択をしたばっかりだって言うのに、
無意識のうちに彼の方へ足が向かったなんて。
まるで頭意外の全ての機能が心に嘘をつくことを嫌がっている。そんな感じだ。
だとしたら、俺はどれだけ自分に正直な生き物なんだろう。
とぼとぼ家への道を歩いていると、不意にその足が止まった。
それから居てもたっても居られなくなった俺は今来た道を駆け足で引き返していた。
あかん、本間に俺は手のつけられない大馬鹿者だ。
だけど俺の全ては、心で思ったことに反する行為ができないように作られているに違いない。
そうだ。俺はただ、自分に正直なのだ。そんな言い訳を頭に浮かべてひたすら走る。
息を切らして今さっき出て行ったばかりの部屋の前に着くと、ドアをたたいた。
少しして中から千歳が首だけドアから出して驚いた顔をした。

「あ、取りにきたと?」
「…なにがや。はぁ、はぁ、」
「あー、ちょっと待っとって。今取り行ってくるけん。」
「あ?ちょっと待て。ふー…。」

なんだかよくわからないけれど何かを取りに部屋へ戻ろうとする千歳の腕を掴んで止める。
一瞬びくっとして千歳はその場にとどまった。
だけど俺が戻って来てからこっち、千歳は目を合わせてくれようとしない。

「千歳。」
「なんね、なんで戻ってきたと?帽子やろ?だから今俺が取ってくるけん、離して。」
「帽子?」

言われるまで気付かなかったけれど、頭に手を乗せると確かに帽子がなかった。
だけど今ここに戻ってきたのはそんな理由じゃない。
だからこの腕を離すわけにはいかなかった。
なんとなく、今ここで手を離してしまったらもうこのドアが2度と開かない気がした。

「…違うと?」
「ああ、ちゃう。」
「…じゃあ、なに。」

千歳の表情がつらそうにゆがめられて、口調も冷たいものになった。
ああ、だめだ。早くしないと。目の前にいる彼の心が閉じて行くのを感じた。
俺は無理やりドアを開けて部屋の中に入ると、後ろ手にドアを閉めた。

「千歳、すまん。」
「なにが。」
「俺は、お前を傷付けるようなことをして、逃げようとした。」
「だったら、そのままどこか行ってよ。出てってよ。」
「すまん、それもできん。」
「やめて、入ってこないで。」
「できひんねん。俺は自分の気持ちに気付いてもうたから、嘘はつけん。」
「なんで、そうやって。折角俺が、俺が諦めようって思ってるのに。
 オサムちゃんのためにそう決めたのに。オサムちゃんがあんな顔するから。
 だから俺は諦めようって。それなのに。」
「うん、ごめん。」
「あやまるなら、最初からこんなことせんで。」
「うん、ごめん。」
「俺はオサムちゃんが好きだから、オサムちゃんが嫌がることはもうしないって決めたったい。
昨日の夜、オサムちゃんが来てくれたこと、ホントはたいが嬉しかった。
 だけど今日みたいな態度取られたら、俺だって傷付くばい。
もうこんな気持ちになるのもいややけん、オサムちゃんのことは諦めたいと。
 俺もオサムちゃんから、この気持 ちから逃げるけん、お互い様やね。
 あとはオサムちゃんが、この手を離してくれればいいだけと。」

そう言って本当につらそうな顔をする千歳をそっと抱きしめる。

「…。千歳、俺が悪かった。いっぱい傷つけて、悪かった。
 だけど二人とも、もう傷つかんでええ方法があるやん、そっちを取ったらあかんの?」
「そんなの、どっちかが自分の心に嘘をつかんといけん。」
「言ったやろ、俺は自分の気持ちに気付いてもうてん。俺は俺の気持ちに一番忠実な男やねん。
だからこの気持ちに気付いた以上、嘘は付けん。俺はお前のこと、…好きや。」

そう言った瞬間の千歳の表情はわからなかったけれど、
驚いているっていうのは抱きしめた両腕から伝わってきた。
それから千歳の両腕がゆっくりと俺の背中に回ったかと思うと、
ぎゅーっと力一杯抱きしめてきた。
俺を抱きしめる大きな体は小刻みに震えていて、鼻をすするような押し殺した泣き声が聞こえてきた。
なだめるように頭をなでてしばらく待つと、顔をあげて千歳が照れたように笑いながら鼻声で話しだした。

「へへ、恥ずかしいところ見せてしまったね。もう大丈夫。
びっくりしたのと嬉しかったのと安心したのと…とにかく色んな感情が混ざってあふれてしまったばい。」
「うん、すまん。驚かせて。傷つけて。泣かせてもうて。」
「よかよ、最終的には逃げないで戻って来てくれたけん。」
「うん。ありがとう。」
「なあ、それじゃあさっきのが本当ならキスしてくれん?」
「え。」
「あー、やっぱそうかぁ。オサムちゃん無理して俺に付き合ってくれてるんやねぇ。
 俺は遊ばれてるんや。傷つくなぁ。」
「あー、わかった、わかったから。ほんなら目つぶり。」
「ふふ、はーい。」

どう考えても俺の方が振り回されている。
それでも素直に目を瞑った千歳の首に両腕を回して引き寄せると、
そっとその唇にキスをした。

(わ、目開けてんなや!はずかしいやんか。)
(ぷ、オサムちゃんが恥ずかしいとか。)
(正直好きなんて言ったのも初めてやったからめっちゃ緊張しててんで。)
(え、そうなん?でも俺これでオサムちゃんに好きって言われるの3回目くらいやけど。)
(は?俺がいつそんな事言った!)
(昨日。ぷっ)
(〜〜〜!アカン!やっぱ俺昨日何かやらかしたやろ!)
(なんも。くくくっ)
(あ、教えろ、教えろ〜!)

つまり俺らは二人とも、自分の心に嘘をつくのが苦手なんだと思う。
だけどほら、そのおかげでこうして二人一緒に居れるようになったわけだし?
嘘はあかんやろ?ちゅーことで結果オーライや。


オサムちゃんと千歳のやってもたーな後のお話でした(笑)
正直これも酔わせたかった、泣かせたかったの勢いで書いてしまった作品です;
例のごとく文才がないばかりに…うっうっ。最終的にやっつけな感じになってしまいましたが。
それでも最後まで読んで下さった方、本当にありがとうございました^^

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