「寛くん、手つないでいい?」
「ん?いいぞ、ほら。」
「やった!ありがとう。」

俺達は三人そろって水族館にやって来た。
葵は相変わらず寛といるといつも楽しそうだ。
ほら、また誰か知らないおばさんが笑顔で話しかけて来た。

「あら、いいわね。パパと仲良さそうで。」
「うん、私のパパになる人、背が高くて優しくてかっこいいの。」
「ふふ、自慢のパパなのね。」
「うん!」
「葵…。」
「あらやだ、ハンカチを何処かに落としちゃったみたい。」
「あの、これ違いますか。」
「あら、そうです。それです。どうもありがとう。」
「いいえ。」
「まあ、良い男。ふふ、おばさん胸キュンよ胸キュン。あはは。お礼にこれ、こんな物しかなくて。
なんだか子ども扱いみたいで悪いんだけれど…。よかったらどうぞ。」
「あ、すみません。」
「いいえ、こちらこそ。それじゃ私はもう行きますわね。さようなら。」
「あ、はいどうも。」
「…パパ、何もらったの?」
「んー?アメ。」
「あ、きれいだね、このあめ。」
「うん。葵も一個いる?」
「うん!」
「いちごは俺が食べるからだめ。」
「えー…、じゃあわたしこのブルーのにする。」
「ん。はい、寛はこの黄色いのな。」
「ああ、にふぇー。」

三人で飴玉をコロコロ言わせながら館内を練り歩く。
去年はなんとなくこのあたりは集中して見られなかったから、一つ一つの水槽を よく見て進んだ。
こうしてみると結構見逃してたものが多いことに気付かされる。
あの三匹寄りそって泳いでる魚、俺たちみたいだなぁ…なんて。
葵はお目当てのサメの居る大きな水槽を見つけた途端、興奮した面持ちで手摺の方まで駆けて行った。
葵の突然の行動に対処できなかった寛が、引っ張られた反動でちょっと首グキッてなってたけどあれ、大丈夫かなぁ?
俺はその後ろからのろのろとふたりを追いかける。

「やっぱりおおきーねぇ、サメさん。寛くんよりおっきいよ!すごいね!」
だーるなぁ。」
「私あれに乗れるかなぁ?」
「食われるぞ。」
「えー!食べられちゃうの!?こわーい!あんなに可愛い顔してるのにね。」
「うん。」

葵はしばらく興奮した様子でサメを眺めていたけれど、お腹のなるグーっという音で空腹感の存在を思い出したのか、
大きな声でお腹すいた!おさしみ食べたい!なんてこの場で一番恐ろしい事を言いながら出口への道のりをせかした。

「葵、これはあくまでも俺の予想だけどな、ここにお刺身を食べられる場所は無いと思うぞ?」
「どうして?」
「水族館だから。」
「水族館だとどうしておさしみが食べられないの?」
「だってあれだろ、さすがにまずいだろ、商品食べちゃ。」
「ん?どういうこと?良くわかんないよ。」
「まああれだ、どっちにしろ刺身食うなら車でちょっと走らなくちゃいけない。」
「んー、でも私お腹すいたなぁ。」
「あい、あれなんだ?あそこ。」
「お!すげー!葵、あそこサメ見ながらご飯食べれるんだってよ。」
「ホントー!?私そこがいい。」
「刺身ないけどいいのか?」
「うん!私オムライス!」
「…単純な奴。」
「おい凛、行くぞ。」
「おう。」

それからサメを見ながらのランチを堪能した葵は、満足そうに水族館を出て、
出口付近にあったショップで寛に去年のより少し大きいジンベイザメのぬいぐるみを買ってもらっていた。
ホント、好きだなあそういうの。
再び駐車場に戻って車に乗り込んだ俺達三人は、次の目的地、裕次郎宅へ向かった。

* * *

「ゆーじろーくーん!」
「おー、葵ちゃん、いらっしゃい。待ってたさぁ。」
「うん!」
「とぅしびーかりゆし。」
「にふぇーでーびる。」
「おお、上手。」
「へへっ。」
「やっぱいいなぁ、女の子。」
「あ、あのね、陽くんいる?」
「うん。ちょっと待ってて。今連れて来てあげるから。というか、あがってあがって。」
「うん。」
「今日はね、もう一人お客さんが来てるんだ。」
「へぇ、珍しいな。」
「いや、別に珍しくねーらん。わんにどぅしが少ないみたいな言い方さんけー。」
わっさんわっさん。そう言う意味じゃねーって。ほら、奥さん結構人見知り激しいじゃん。」
「ああ、まあそうだけどさ。」
「で、誰来てんの?」
「んー、見てからのお楽しみ。」
「お邪魔します。」
「あいどーぞお。」

4人で列になって廊下を歩く。大小揃ってぞろぞろと。
外からこの風景を見ていることを想像してなんだか笑えた。
俺達が客間の前に辿りついて裕次郎が襖を開けると、中には見知った人物がいた。

…主将!

「おー!!永四郎ー!ひさしぶりやっし!!元気にしてかぁ。」
「ええ、元気にしていましたけど。止めていただけませんか、その抱きつくの。」
「いいだろー、久しぶりなんだから。」
「ちょ、髪の毛触らないでくださいよ。む、いい加減にしないと…ゴーヤー食わすよ。」
「え!ゴーヤー!?わーい、ゴーヤーあるの?」
「ん?…あなたは。」
「うん、俺の娘。葵。大きくなったろ。」
「ええ、本当に。」
「ほら葵、挨拶して。」
「ええと、はいたい…ちゅー…ちゅーがなびら!平古場葵やいびーん。」
「はいさい。これは驚きましたね。ずいぶん女の子らしくなって。」
「葵ー、この人は木手永四郎っていって俺達のテニス部の主将だった人なんだ。ゴーヤーもらえるからってわざと悪い事すんなよ。」
「はーい。…あれ?テニスしてた人なの?」
「ん?そうだぞ。」
「強い?」
「うん。俺たちの中では一番強いんじゃないかな?」
「ホント?じゃあ皆で戦えるね!」
「あー、まあそうだなあ。」
「なんです?話がよく見えないんですが。」
「あー、なんかな、なんでかは覚えてね―けど、今朝テニスの必殺技の話になってな、
それで俺は昔テニスが強かったんだぞって話してたら寛と戦えって言うから、それはパートナーだから無理だって話になったんだ。
じゃあ裕次郎と戦えって話になったら裕次郎シングルスだろ?だから最終的にあれだ。裕次郎と、後もう一人いれば試合できるのになって話になった。」
「ほう。」
「だからいつかテニスで勝負しようぜ。」
「まあ、いいでしょう。俺に敵うはずはないですけど。」
「でも、パパは裕次郎くんより強いんでしょ?」
「え!なんで!?わんだって結構ちゅーばーどー。凛君わんのこと自分より下に見てたの?」
「い、いや、そんなことね―けど。別にお前が弱いとは言ってない。俺だってそれなりに強いって言っただけだ。」
「なにそれ!なんか自画自賛してるみたいでふらーっぽい!」
「なんだと!いいだろ、ちょっとくらい格好つけたって。」
「ちょっとふたりとも、落ちつきなさいよ。まったく、いい歳してなにをそんなにムキになっているんですか。葵ちゃんの前で恥ずかしと思いなさいよ。」
「…ごめんちゃい。」
「ちぇっ。」
「…だったらこうしましょう。今から比嘉中学校へ行って決着を付けるんです。」
「「「え!?」」」
「なんです。それが一番手っ取り早い方法でしょう。」
「そうやしが…ひろ君の分のウェアーなんてねーらん。」
「わん、実家に行けばまだラケットとボールあるぞ。」
「あ、俺も。」
「そうですか。じゃあこうしませんか?それぞれ準備を整えて、学校のコートで集合するんです。コートの方は俺が手配しておきますので。」
「おー、俺は別にいいぞ。」
「うん、わんも。」
「うん。」
「よし、じゃあ決まりです。急いで準備してきて下さい。遅れたらゴーヤーです。」
「俺もうゴーヤー食べれるもーん。」
「…生で。」
「うっ。よし、早く行くぞ、寛!」
「え、うん。うっ!痛てっ。」
「あ、待ってよパパ達ー!」

「あれ、大丈夫ですかね、知念君首グキッて…。」
「大丈夫だろ。それよりさ、わんも実家帰らないとラケットとかないし、えーしろーの貸して。グリップ左利き用だから大丈夫あんに?」
「しょうがないですね、特別に貸してあげますよ。」
「お、にふぇー。じゃあ行こう!」
「はい。」


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