もともとそう遠くは無い距離。車で行けばあっという間に実家に辿りついた。
俺はさっさと物置からラケットをひっつかんで車に戻り、車は次の目的地の知念家へ向かった。
そこで寛はラケットとタオル2枚とドリンクと、なんだかごちゃごちゃ持ってきて、随分時間をくった。

こんな風に学校のテニスコートで試合をするなんて、何年振りだろう。
なんだか学生の頃に戻ったみたいでわくわくする。
でもきっと、あのころよりずっと腕がなまっていて上手く打てやしないんだろうな。
あんなに頑張って上手くなったのに、もったいない。

でもそうか…考えてみればあの頃からずっと、寛は俺だけの隣に居てくれたんだな。
そう思ったら急に凄く幸せな気持ちが湧いてきて、その気持ちを伝えられずにはいられなくなった。

「寛ー。」
「んー?」
しちゅん。でーじしちゅん。」

ちゅっ

「え?」
「え?」

グラグラッ…
車が盛大に揺れた。

「きゃー、怖いよ。」

え、あ…そうだった…ちゅーしちゃったよ、葵が居るのに…。
恐る恐る後ろの席に視線を向けると、葵になんだか奇妙なものを見るような目で見つめ返された。

「…。」
「え?なんでパパ…今寛くんに…。」
「うええー、ええとなあ、これはあれ、あれだよなあ、寛。」
「わ、わんはしらんどー。」
「ちっ…わかったよ、正直に話す。」
「え?凛?」
「あのな、パパ達もうすぐ試合だろ?」
「うん。」
「だから俺のパワーを寛にちょっと分けてあげたんだ。ちゅーしたら、そっからパワーを分けてあげることが出来るから。」
「そうなのー!?すごいね!私もやるー!」
「お、じゅんに?はい、パパのほっぺ。」

ちゅー

「へへ。」
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
「寛くんもはい。」

ちゅっ

「にふぇー、やる気出た。」
「ひひ、頑張ってね。」

…ふう、なんとか乗り切った。
しかしまあ、こんだけ信じやすくて大丈夫なのかな?この子。
俺の心配をよそに葵は楽しそうにしている。
そうしている内に中学校に着いた。
俺達は車を降り、懐かしい校門をくぐって中に入る。
そのままテニスコートに行っちゃって良いんだよな?

「おーい、凛君達―!」
「あ、居た居た。…コート借りられたの?」
「俺が借りられないはずはないですからね。」
「それもそうだな。」
「よし、さっそく…。」
「ちょっと、準備運動もしないで始めたら怪我しますよ。」
「ほーい。」
「それはそうと、平古場クンも大分うちなーぐちが抜けてしまっていますね。」
「おおー、そうだな。割と。結婚してからすぐ東京に引っ越したしなぁ。」
「ねぇねぇ、永四郎くんはどうして先生の言葉話すの?」
「先生の言葉?」
「うん。全然沖縄の言葉じゃないの。」
「あぁ…それは、あなたみたいに東京や他の場所からやってきた人たちにも分かるように話していたら、
いつの間にかそれに馴染んでしまったんですよ。たぶん俺が普通に話していたら、君とまともに会話も出来ないんじゃないですかね。」
「…なんだか難しい。でも、私にも分かるように話してくれてるんだね?ありがとう、永四郎くん!」
「…っいえ。別に。」
「おおー!永四郎を赤面させるなんて葵ちゃんすげーなぁ!」
「せ、赤面なんてしてないんですからねっ!」

そう言うと永四郎はとっととコートに入って運動を始めた。
確かに顔が赤いですよ、永四郎クン。
裕次郎は裕次郎でこっちでこそこそ何事かを葵に耳打ちしている。

「でも気を付けたほうが良いぜ、葵ちゃん。あいつどんな性癖持ってるか分かったもんじゃね―から。」
「せいへき?パパ、せいへきってなに?」
「おい!裕次郎!葵に変な事吹き込むなよ。」
「はーい、ごめんちゃい。」
「みなさん、準備はできましたか?そろそろ始めましょう。」
「おお、こっちはOKだぞ。な、寛。」
「おお。」
「うん、わんも準備できたさぁ。」
「それじゃあ。」
「あ、永四郎くん!」
「はい、なんでしょう。」
「あのね、私のパワーあげる。」
「はい?」

ちゅっ

「!」
「うっわー、永四郎でーじさぁ。さっきより赤い。やっぱ、やーってロリコンあんに?」
「うるさいですよ、甲斐クン。すこし驚いただけです。」
「ふーん。あ、葵ちゃん、わんにはパワーくれねーの?」
「え?あげるよ!ちゅーっ。」
「へへ、にふぇー。」
「どういたしまして。」
「おい葵!どっちの味方だよ。」
「どっちも応援してるよ。」
「何その小悪魔的な感じ…。」
「でもあれですね、どっからこんな破廉恥な事思いつくんでしょうね。
大方平古場クンあたりが娘にかまってもらいたいが故にすりつけた知識なんでしょうけど。」
「やーだって喜んでたくせに。なあ、葵ちゃん。」
「きぃっ!」
「…睨まないでよ。」
「違うよ。パパが寛くんにやってたの見てただけ。」
「「え。」」
「ういぇえ!!葵!しっ!それは言っちゃだめなんだって…!
「どうして?だってパパ達だけにパワーあげたらずるいもん。」
「うん、それは偉いけど、とにかくそれは秘密にしておいて欲しかったの!」
「なんでー?」
「いいから。葵さあ、ちょっとの間あっちのベンチの方に行っててくれる?」
「はーい。」

とにかく葵を安全地帯に追いやってと。
…でもこれはさすがにやばい。
いくらなんでもマブヤ―ごっこやおまじないでごまかせる相手じゃないし。

「なあ、凛君今の本当?」

ほら、やっぱり来た。
もとはというと俺が悪かったんだけどさぁ…。
でも、これはないぜ。

「…い、いやあ…。」
「本当やっし。」
「うえ!寛!?」
「いいだろう、もう。裕次郎や永四郎は昔からのどぅしさぁ、隠し事はしたくない。」
「…。」
「わったーはうむやー同士だから、凛はうちなーに帰ってきて、なまわんと一緒に住んでるんばぁ。
だからその、そういうことをしていてもおかしくない。」

しばらくの沈黙があった後腕を組んでコクコクと頷きながら、永四郎が納得したように言った。

「…なるほど。そういう理由があったんですね。」
「え、しんけんいったー付き合ってるんか!?」
「まぁ…隠しててごめん。」
「いえ、いくら気心が知れている仲といえど、言い難い事の1つや2つは誰にでもありますから。」
「たとえば永四郎がロリコンとかな。」
「いい加減にしなさいよ…。」
「うっ…ごめんちゃい。」

予想外にすんなり受け入れられて少し拍子抜けした。
でも、さすが俺達の仲間だよな。
隣の寛をちらりと見たら、安心したような、
でも最初からふたりが分かってくれるって確信していたような、そんな表情で笑っていた。

「…でもそっかぁ、そうなのかぁ。いつから?」
「え、去年の夏。」
「えー!?もしかしてあの花火してた時とかってもう?」
「いや、あの時はまだだった。実を言うと葵の誕生日の日からなんだよなぁ…。」
「そっかぁ…、なんか意外だなぁ。」
「うん。」
「…あれ?わん、今何か思い出しそう。」
「ん?」
「あ!そういえば、なんかあの時ひろ君が心に秘めて思い続けてる人がいる的な話してなかったっけ?」
「ああー、それ俺らしい。」
「えぇぇぇぇぇぇ!しんけん!?え、あれ本当だったんか!しかも凛君!!」
「…なんで今までで一番良いリアクションしてんだよ。」
「だって、だってさぁ、それってひろ君ずっと凛君の事好きだったってことあんに?」
「うん、中学生の時からだって。」
「はい?中学生?ですが…それだと平古場クンが菫さんと結婚する前も後もずっと想い続けていた事になりますよ。」
「そう言うことに…なるさぁ。」
「…!知念君!その気持ち、よくわかります!辛かったですよね。」
「…やしが、今幸せならそれでいい。」
「…寛。」
「…ひろ君。てゆうか、なんで永四郎がひろ君の気持ちわかるんばぁ?」
「それは…。」
「…は!まさか!永四郎も凛君の事!」
「え!きゃあ!俺狙われてる!?」
「そんな訳無いでしょう。俺の場合……菫さんですよ、菫さん。」
「「「え!?」」」
「だだだだから葵ちゃんを!?きゃあ!怖い!変態!」
「な!娘はまだ嫁にやらんぞ!」
「はあ、分かってますよ。そう言うつもりで言った訳じゃありませんから。」
「でもあれだな、今わったー、なんかすっごい暴露大会になってるあんに?」
「ですね。甲斐クン、君だけ何も言わないで、仲間外れですね。」
「え!…えー、じゃあ、あのぉ、……わん、ひろ君にキスされた事ある。」
「「「…。」」」
「さ、そろそろ試合始めましょうか。」
「おう、そうだなぁ。」
「永四郎にはまきらんどー。」
「望むところです。」
「え、…わんは?無視?」

裕次郎の所為で微妙な空気になったところで、
なにやら外の方から誰かが呼びかけているような声が聞こえて来た。

おーい!おまえらー!!

「ん?なんか今聞こえなかったか?」
「おーい!俺だ。」
「わー!晴美ちゃん!久しぶりだなぁ!」
「おお、お前らがテニスコート借りに来たって聞いてな。」

晴美だった。俺達のいるコートの方へ入ってくる監督。
会うのは数年ぶりだったけど、もともとオッサンだったし、
こうして久しぶりに会ってみてもあの頃とちっとも変わらない。

「あれ?晴美ちゃん髪薄くなったんじゃねえ?」
「ばっか、晴美ちゃんにはもともと髪なんてなかったさぁ。」
「「ぶっ、ぷはははははははっ!」」
「なんだと、このくそガキども。」
「うわー、怒んなって。冗談やっし。」
「ふんっ、相変わらず生意気なガキどもだ。」
「あ。おーい、葵ー!!こっちおいでぇ!!」
「ん?なんだ?」
「なーにー?パパ。今ね、アリさんの行列があったの。ちょっとクッキーあげたよ。」
「ん?そうなの?よかったな。」
「うん。」
「ぱぱ?こいつお前の事そう呼んだか?」
「うん、これ俺の娘の葵。俺に似て可愛いだろ?」
「…平古場、お前子供居たのか。」
「え!?それはさすがに知ってただろ?」
「いや、噂には聞いてたけどな、お前すぐ沖縄出てっただろ。」
「あー、うん。でもね、最近じゃまたこっちに住んでるから。」
「そうか。おい、ガキ。沖縄は好きか?」
「え?うん!大好きです!」
「そうか、それは良かった。」
「あ、もしかしたら葵もここに通うことになるかもしれないな。」
「ホント?」
「うん。この人が俺たちの顧問だったきびしーい先生だよ。」
「え!じゃあ私もここで鍛えたらパパみたいにずっと海に潜ってられるようになる?」
「「「「う…っ。」」」」
「俺はあまりお勧めしませんね。」
「たしかに。命知らずにも程がある。」
「なんだとぉ?誰のおかげでお前らが全国に行けたと思ってるんだ。」
「俺「「「主将。」」」」
「…。」
「へへへー、皆仲良しなんだね。いいな、私もそんなお友達出来るかな?大きくなってもずっと一緒にいられるの。」
「出来るんじゃない?」
「比嘉中は良いところだぜ、部活選択を間違わなければ。」
「おい!くそガキ!もういっぺん言ってみろ。」
「ほら、こういう怒りっぽい顧問が居る部活は選んじゃだめさぁ。」
「…わかったぁ。でも私、テニスしたい。」
「お、まじで?いいんじゃねーの?俺たちが教えてやるぞ。な、寛。」
「おお。」
「ホントー?やったぁ。」
「へぇー、お前でもまともに父親してんだな。」
「なんだよ、失敬な。自分なんか未だに結婚出来てないくせに。」
「平古場ー!いいかげんワシも我慢の限界だぞー!」
「うわー、カンカンやっし。」
「ひひひひっ、楽しいね。」
「楽しくなんてねーよ。」
「パパー、逃げてぇー!!」

「…あのさ、結局わったーは何しに来たんだっけ?」
「テニスでしょう。」
「ですよね、じゃあなんで一向に試合が始まらないわけ?」
「さぁ…。」
「なあ、ひろ君…つんつん…。」
「あがぁ!…くっ…。」
「え、何々!?わっさんひろ君!でもわんそんな強くつついてねーらんさに。」
「いや、…こっちのあれだから、気にすることねーらん。」
「なに?背中なんかなってるの?」
「…。」
「…どうしたの?この湿布。」
「痣。」
「え?」
「蹴られて痣できた。」
((こんなところに蹴られた痣?…。それって…凛君の…)平古場クンの…)
「「…。」」
「んー?ぬーがよ、ふたりして黙りこんで。」
「い、いえ。別に。そんな大きな痣できるまで何してたんだろう…とか思ってないですよ。」
「う、うん。俺達別にひろ君が見た目によらず意外と激しいのね、とか思ってないから。」
「そうそう。」
「???」


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