人生ではじめてもらったラブレターは、なんとも衝撃的なものだった。


らぶれたー


「寛、お前こんなトコで何してんだ?」

そうやって後ろからいきなり声を掛けられた。
下駄箱に入っていた手紙を手にとった瞬間だったのでびっくりして注意がそがれ、その瞬間に手に持っていた手紙を奪われる。

「おー、ひろしー、ラブレターなんか貰のかよ。」
「なっ!返せ、凛!」

言ってはみたものの、凛がそんなことを気に留めるはずもなく。
奴は俺の言葉もお構いなしに勝手に手紙を読み始めた。

「知念君。今日手紙を書いたのは俺から知念君に伝え「やめろっ!!バカ凛!」…」

いきなり大声を出した俺に驚いた凛の、見開かれた目が俺を見上げる。
その瞬間にさっと手紙を奪い返して、靴を履き替えて昇降口を出た。
そんな俺の行動に、凛は我に返った様子で急いで俺の後を付いてくる。

「なー、ひろしー、ごめんって…そんなに怒んなくっても良いだろ…。」
「…。」
「なー、無視すんなって。そんなにラブレター読まれたくなかったのか。」
「…うるさい、ラブレターとは決まってない。」

そう言った俺の言葉に、凛がなにか思い付いたという様な顔をして言った。

「ああ、たしかにその手紙に“俺”って書いてあった。それ、男が書いたのかもな。」

そういえばまだ手紙を読んでいないから分からないけど、さっき凛が読んだときには差出人の一人称が“俺”となっていた気がする。
なんだ、本当にラブレターじゃなかった。そんなものは今までの人生で一度ももらったことが無かったし、
なんとなく凛に見られたくなかったから家で読もうと思っていたけれど、その必要もなくなったみたいだ。
それならば今ここで読んでしまおうと、奪い返した手紙を読み始める。

* * *

知念君

今日手紙を書いたのは、俺から知念君に伝えたいことがあったからです。
毎日部活や学校で顔を合わせているのにわざわざ手紙に書いた理由は、
直接話しても最後まで聞いてもらえる自信が無かったからです。
それでもこの気持ちを隠し続けるのも限界だと感じました。
嫌だと思ったらここから先は読まなくても結構です。返事もいりません。
男同士で何を言っているんだと思うかもしれません、でも俺は本気です。
俺は、知念君のことが好きです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・

* * *

知念君のことが、好きです。

その一文を目にした瞬間、手に持っていた手紙をバッと勢いよくかばんの中に突っ込んだ。
そんな俺の行動を見て不思議に思ったのか、横で様子を窺っていた凛が首を傾げる。

「どうした?なんて書いてあったんだ?」
「な、なんでもない。ただの委員会の話し合いのことについてだった。」

とっさに思いついた嘘でごまかす。
さすがにこれはバレるかとも思ったけれど、凛には気付かれていないみたいだった。

「ほらな、言った通りだったろ。」

それから凛は、興味を失くしたように他の話を始めた。
けれど正直に言って凛の話す言葉は一つも頭になど入って来ない。
それよりもバクバクと勢いよく鳴りだした心臓を抑えることに必死だった。
家に着くと、そのまま自分の部屋に入って鞄から手紙取り出して読み返す。

* * *

知念君

今日手紙を書いたのは、俺から知念君に伝えたいことがあったからです。
毎日部活や学校で顔を合わせているのにわざわざ手紙に書いた理由は、
直接話しても最後まで聞いてもらえる自信が無かったからです。
それでもこの気持ちを隠し続けるのも限界だと感じました。
嫌だと思ったらここから先は読まなくても結構です。返事もいりません。
男同士で何を言っているんだと思うかもしれません、でも俺は本気です。
俺は、知念君のことが好きです。
この気持ちを伝えたらあきらめる気でいるので、
いつもどおりに接していただけると幸いです。
最後まで読んでいただいてありがとうございました。


それから、ごめんなさい

木手 永四郎

* * *

それは確かにラブレターだった。
差出人は標準語を使っていることや部活で毎日顔を合わす相手ということで
大体予想はできていたけれど、まさか彼がこんな手紙を書くわけは無いと思った。
だけどそれは予想通りの人物からの手紙で、何度読み返したところで内容が変わることも無かった。

「にーにー、何読んでるのー?」
「わぁっ!なななななな!勝手に入ってくるなよ!」

何時からそこに居たのか分からないけど、いつのまにか弟が部屋に入ってきていて手紙を覗き込んでいた。
弟は小学生で漢字なんて殆ど読めないし、内容を理解出来るはずも無いのになぜか一人で慌ててしまった。

「にーにー、ごはんってよんだのにこないから…よびにきたんだよ。」
「…あ、ああ、ごめん、今行くから。」

なんだかしゅんとして答える弟に謝りながら、ふたりで食卓に向かった。
食卓に着くと、弟がいきなりとんでもないことを叫びだす。

「お母さん!お母さん!にーにーがラブレターもらったー!」
「いっ!言うなよバカ!」

慌てて弟の口を押さえてももう遅かった。
むしろその行為は弟の言葉を肯定している事にしかならず、家族がニヤニヤしながらこっちを見ている。

「まあ、寛良かったわね。」
「う、嘘だよ…ラブレターなんか貰って無い。」
「あ!嘘つきはにーにーの方だよ!だって知念君が好きですって書いてあったもん!」
「っ!お前は少し黙ってろ!」
「ははーん、ひろしーは恥ずかしくて嘘ついたのね。」
「うっ……。」
「にーにー、彼女が出来たら連れて来てねー!私が一緒に遊んであげるの!」
「私もー!」
「うん、そうだねぇ。ひろしー、彼女が出来たら連れて来なさいよぉ。」
「…できたらな…。」

彼女なんてできるわけない。
それでも盛り上がっている家族に悪いので、一応話を合わせてみた。
だけどもし、俺が永四郎を恋人として家族に紹介したら、皆はどんな反応をするんだろうか?
永四郎ほどの人間なら、案外すんなりと受け入れられそうな気がした。

「さーて、冷めないうちにごはんたべよーねー。」
「「「「「いただきます!」」」」」

ラブレターのことは成り行きで家族にバレてしまったけれど、
幸い弟には難しい漢字や言い回しが多かったみたいでそれ以上のことは理解していなかった。
とりあえず永四郎の名誉のためにも、あの手紙は誰にも読ませるわけにはいかない。
明日から手紙は常に持ち歩こう、そう心に決めて、俺は晩御飯を食べ始めた。



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