『あ、あの、平古場くん…ちょっと話があるんだけどいいかなぁ。』 
「りんくーんっ!」
「あ、悪りぃ、裕次郎が呼んでるからまた後ででいいかやぁ?」
『う、うん…。』

前々から約束をしていたわけでも、特に重大な事柄を伝えようとしている風でもなかった裕次郎を、
クラスでもかわいいと評判のお洒落な女の子が話し掛けてくれているのを遮ってまで優先してしまった。
当たり前の様にそうしてしまった後で、俺は自分の行動の異変に気付くのだ。
この頃こんな事はよくあって、その理由は自分でも分かっている。
けれど気付かない振りをしているのは、単純にこうしていく他周りとの関係を崩さず過ごしていく方法が見付からなかったからだ。

お願い、聞いて

「凛君…。」
「んー?」
わっさん…さっき凛君が話してたの、結構タイプだって言ってた子だばぁ?邪魔したかやぁ。」
「うん、邪魔された。」
「…だよね、ごめんね。」
ゆくしさぁ、別に大丈夫どー。タイプってだけで好きでもないし。」
「…ふぅん。」
「何だよ。」
「でも、もし告白されたら簡単に付き合っちゃうんだろうなぁって思って。」
「…付き合わねーよ?」
「なんで?」
「好きじゃないから。」
「そ、…。」

結局俺が優先させた裕次郎の用というのは、屋上で一緒に昼食をとる事だった。
多分だけど、さっきあそこであのままあの子の話を聞いていれば、俺は十中八九告白されていただろうと思う。
あの時のあの子は相当な勇気を振り絞ったという様な目をしていたからきっと、それは本当の事だ。
でも、それを断ってまで優先させる必要のあることが、今この場で行われているようには思えない。
それでも俺は、今この状況で、断る理由の何も無い状態で、彼女に気持ちを伝えられる事が怖かった。
なんの不足もない真っ直ぐな想いを、俺の欠点だらけの気持ちのために断ったりなんかしたらきっと、
俺は自分のしてきた必死の演技に気付いてしまう事になるのだから。


風ひとつ吹かない晴天の空が広がる屋上。
数少ない日陰の下、俺と同じように壁に凭れながら座る裕次郎が左手に持った焼きそばパンを齧りながらため息をついた。

「何?」
「凛君はいいなぁって…。」
「なんで?」
「だってさ、凛君がひと声掛ければ落とせない子なんて居ないあんに?」
「…そーでもないやっさぁ。」

現に今、俺の隣で焼きそばパンに入った紅しょうがを取り除く作業に必死になっている彼は、
俺がひと声掛けたくらいじゃビクともしないだろうし、そもそも振り向いてくれる可能性は皆無に等しい。

「…凛君ってさぁ、……振られた事とかさぁ、…あんの?」
「無い。」
うりひゃー…、やっぱり、……そうあんに?」
「そもそも告白した事が無いからやぁ。」
「なっ、…そうか、モテるイキガはそこからして違う訳か。」
「別にモテるから告白しない訳じゃなくて、勇気が無いから告白しないだけだばぁ。」
「ふぅん、…凛君でもそうなんか。」
「まぁ、100%成功する可能性のない賭けには出ないって言うかよ、そこまでして告白したいって思う奴も居なかったし。」
「そうか……ねぇ、紅しょうがいる?」
「いるかよっ!」
「ははっ。」

裕次郎は焼きそばパンに入った全ての紅しょうがを取り除き終わったらしく、足で押さえていたビニール袋にゴミをまとめてから再びパンを齧り始めた。
俺はその一連の動作をじっと見つめていたけれど、何か用かと問うような目で首をかしげられたので、咄嗟に視線を逸らして遠くに見える海を眺めた。

「…裕次郎はさ、本当に俺に落とせない奴は居ないって思う?」
「んー、…多分ね。」
「そっか、………じゃあ、」
「んー?」
「…やーは?」
「ん?」
「もしも俺がやーに告白したら、やーは俺の事好きになってくれんの?」
「えー?さぁ…凛君に告白されたこと無いから分かんない。」
「………。」

俺は、裕次郎がこれほど平然とあっさり答えられるような質問をしたつもりは無かった。
確かに俺は今までに一度だって裕次郎に告白した事も無ければそのような素振りを見せた事も無いので、
裕次郎にしてみれば俺に告白された時の気持ちなんて分かりっこないだろう。
けれど、それ以前に男同士で何を言っているのだとか、気持ち悪いだとか、冗談はよせだとか…たぶんそんな風なことを言うのが普通だと思う。

「………なぁ、裕次郎。」
「んー?」
「もしかして俺さ、………裕次郎に告白してもいいのか?」
「え?…なんでダメなの?」
「…ぅ…あ………。」

今俺の目の前で屈託無く笑っているこいつほど、すべての事をあっさりと受け入れてしまえるような人間は他に居るだろうか。
多分、…きっと、俺が好きになったのは、こういう裕次郎。
今まで気付かなかった事に気付いた時の様な、ずっと思い出せなかった事をたった今思い出した様なこの瞬間、
今まで必死に押さえてきた胸の痞えがあっけなくポロンと落とされたように、一気に溢れ出す想いに息が詰まった。

―…裕次郎…―

掠れて出ないと思ったこの声が、案外するっと零れ落ちた。
今なら、こいつになら、きっと言えるとそう思った。
恥ずかしくて真っ直ぐなんて見られないから下を向いているけれど、
絶対に赤くなっている自覚があるから顔は隠して言うけれど、
この気持ちは本物で、真っ直ぐで真っ白な想いだから。

お願い、聞いて。

「…ゆ、裕次郎………ゆーじろぉー…。」
「んー…?なーにぃー…りんくーん。」
わん、……………やーがしちゅん…ど。」
「……ふふっ、…ふはっ、待って、凛君しにうじらーさんやし…そんなのずるいばぁ。誰だって好きになっちゃうでしょ、こんなの。」
「………うぁー…恥ずっ…。」
「へへっ…凛君耳が…でーじなってる。」
「知ってる。」
「だよね。」
「で、俺の告白は放置…?」
「…。」
「…マジで?」
「あー…、わんも凛君のことがしちゅんよ。」



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