『あの、平古場くん、今なら大丈夫?…私の話、聞いてもらえるかな。』
「りんくーんっ!」
「あー…うん、ちょっと待ってろ。」
『う、うん。』
「あ、今お話中?わん屋上で待ってるからゆっくり話して来て良いからね。」
「おう。」
―あのね、聞いてもらえるだけでいいの―
結局俺が優先させたあの子の話というのは、予想通り告白だった。
前回は裕次郎の邪魔のおかげで聞かずに済んだと思っていた言葉だけど、
今の俺には“聞いてくれるだけでも良い”というその気持ちが痛いほど分かったので、
最後まで彼女の想いを真剣に聞いて、その上で俺の気持ちも聞いてもらった。
多分だけど、前回あそこであのままあの子の告白を聞いていれば、実際の俺では十中八九告白を断れないでいただろうと思う。
だからあの時あの子の話を遮ってまで優先させる必要が、あの時のあの場にはあったのかもしれない。
穏やかな風の吹く青空の広がる屋上。
今日も日陰の下、壁に凭れて座る裕次郎の左手にはコロッケパンが握られている。
俺は俺に気付いて裕次郎が空けてくれた左側のスペースをあえて無視して、右側のスペースにどかっと腰を下ろした。
不満そうにこちらを見てくる裕次郎の空いた方の右手をぎゅっと握ると、納得したように笑顔を見せて再びパンを口に運び始める。
その姿に思わず笑いが漏れた。
「凛君、キャベツいる?」
「んー…、うん。」
「え、いるの?」
「うん。」
「ふぅん、…はい。」
「…。」
「で、なんだって?あの子。」
「俺の事好きだって。」
「…やっぱり。」
「やしがちゃんと断ったどー。」
「分かってるさぁ、…もしも断ってないのにこんな事してるんならいくらわんでも怒るよ。」
「だーるな。」
裕次郎は俺が彼によってコロッケパンから取り除かれたらしきキャベツを食べ終わり、
ゴミを裕次郎の足で押さえつけられているビニール袋に捨てるまでの一連の動作をじーっと見つめていた。
俺が何か用かと目線をよこして首をかしげると、裕次郎はこちらを見つめたまま話し始めた。
「…ねぇ。」
「ん?」
「もしさ、わんがこの前凛君が告白されそうになった時、わざと邪魔したって言ったら怒る?」
「…全然。」
「そっか。」
「わざとだったのか?」
「…うん、ごめん。」
「なんで?」
「えー?凛君が他の女の子と付き合うの見たく無かったから。」
「…裕次郎、それさ、…俺のこと最初から好きだったって事?」
「…えへっ、バレたか。」
「なっ、バレたかって、やーよ…。」
「ひひひっ、ちょっとわんの事イヤになった?」
「………全然。」
「そっか。」
そんな事で裕次郎を嫌いになれるくらいなら、俺はとっくに諦めて他の女の子を好きになってた。
お洒落で、かわいくて、俺より小さな…普通の、俺が好きになるべき女の子。
俺が自分にとって辛い選択をしてまで、気持ちを全て押さえ込んでまで好きであり続けたのは裕次郎だから、この気持ちは本物。
裕次郎の事を嫌いになるなんてことは、出来ないようになってる。
「………凛君。」
「んー?」
「…凛君はさぁ、わんにキスしたいとか思ったことあるの?」
「…ぐっ、…え?」
「だから、凛君はわんに」
「あるよ、…あるっていうかいつも思ってるさぁ。」
「…。」
多分、今の俺の答えは裕次郎も同じ気持ちでいなければ気持ち悪いと思われるだけの言葉だったと思う。
だけど、握った左手からは確かに裕次郎の右手に力が込められるが伝わってきた。
裕次郎はふぅっとひとつ息をつくと、左手で帽子をとって空を見上げた。
「りんくーん……凛…。」
「っ…、何。」
「わんもさ、やーがしちゅん。」
「…うん。」
「あのさ、凛…わんにキスしてくれる?」
「ぅ…あの、えと?」
「ね?」
「…ちょっと待て…今落ち着くから。」
「くくっ…。」
「わ、笑わんけーっ…。」
「ふはっ、だってさぁ、凛君やっぱかわいいもん。」
「んなっ。」
「…でもホントはね、わんだって緊張してるんどー。」
「…。」
「ね、だからお願い。」
「じ、じゃあ…目、瞑れ。」
「ふふっ、はーい。」
俺のお願い、聞いてくれてありがとう