「いってぇ〜…。」
「っ、わっさん…、人のとか触ったことないし加減がわからん‥。」
「違う、心臓がね、緊張しすぎて痛い。」
「そうか、…わんも緊張してる。」
「うん…。」
「大丈夫、きっとすぐに慣れるさ。」
「こんなに心臓痛いのに?」
「うん。」
「…それはそれで寂しい。」
「そうか?わんは楽しみやっさ。裕次郎と、慣れるくらいたくさん触れ合えるって、わんにとってはでーじ幸せな事やんど。」
「ぅっ…、もうちょっと緊張解けるようなことあびて。」
「大丈夫さぁ、痛い事はしないし、それに、裕次郎の裸は見慣れてる。」
「……萎える事言えとはあびてないんどー。」
「わっさんわっさん、言い方が悪かったさぁね。」
「だからよ。」
「いくら見慣れてるからって、見飽きてはいないんど。
こんな風に触るのは初めてやっし、裕次郎の肌がこんなに温かくて気持ちいいって、知らなかったさぁ。」
「…寛の口からこんなセリフを聞く日が来るとはな。わんの事言ってるんだと思うとしに恥ずかしいってば。」
「わんは喜んで欲しいさぁ。」
「うん、嬉しいよ。」
ベッドのシーツが直接肌に触れる感覚に、妙に緊張してしまう。
それを紛らわすように、互いに口数が多くなる。
途切れない様、他愛ない会話を繰り返し、いつもと変わらないという風に、緊張は隠して。
そうやって少しずつ前に進むことが今出来る精一杯。
だって初めてなんだ、きっとこれでいい。
「ここ、触っていい?」
「…うん。」
「……裕次郎、平気?」
「っ、…うん、大丈夫。」
大丈夫って顔じゃない。
それくらい、俺にだってすぐに分かるのに。
いつもの、強がりを隠そうとする赤い目だ。
今俺が、一番裕次郎にさせたくないこと。
俺だけの為の行為じゃない、だから無理はしないでよ。
「…やっぱり、やめた。」
「なんで?大丈夫ってあびてるやっし。」
「無理させたくないから、今はやめとく。」
「無理してない。」
力強くこちらを見やる目は、けれども涙に濡れていて、
これでは嫌でも嘘をついている事を確信してしまう。
それでなくとも、指で触れた柔らかいその場所が、
侵入を拒むように固く閉ざされている。
目は口ほどに物を言う、とは言うが、体はそれ以上に正直だ。
これ以上行為を進める意思がない事を示す為、上体を起そうと腕に力を込めた。
けれど、引き止める様に伸びてきた裕次郎の両手が首に回り、
ぐい、と引き戻された体は、再び裕次郎の顔に影を作る。
赤く縁どられた両の目で俺を見つめる裕次郎は、小さく首を横に振った。
時間はたくさんある。
今出来ないことも、いつかはきっと当たり前に出来る様になるかもしれない。
でも、それは今じゃない。
だから裕次郎は、そんなにも泣きそうな顔をしているんだろう。
今俺がすべきことは、裕次郎に無理を強いる事じゃない。
今俺達がしようとしていることは、裕次郎に無理をさせてまでするようなことじゃない。
これが最後じゃないって分かっているから俺は、何も怖くないよ。
「裕次郎、急ぐ必要はないんどー、ゆっくり慣れていけばいいさぁ。」
「…。」
「それに、わんはゆくさーやあらん。怖いと思う事はしないってあびた、だからしない。」
「…うん。」
裕次郎の大きな瞳に溜まった涙を親指で丁寧に拭い、そこに唇で触れる。
俺を引き止めていた冷たい両手からは力が抜け、そっと離れて行った。
*
「痛……。」
何処が、とは言わないが、
血液が集中しすぎて、少し擦れただけで痛みを感じる。
そんな俺の様子を見て、裕次郎がバツの悪そうな顔をした。
「…寛、それ、どうする?…わんが抜いてあげようか?」
「いや、放って置けばその内収まるさ。」
「……そうなの?」
「ああ、…しばらくこのままこうしててもいいかやぁ?」
「うん。」
心配そうな顔でみられているのもなんだか情けなくて、
裕次郎を後ろから抱える様に抱きしめて、熱が去るのを辛抱強く待つ。
後ろから抱きしめている所為で当たっているその場所から、
先ほどのあたたかさと柔らかい感触を思い出し、余計な事を考えては、ムクムクと熱が増してゆく。
裕次郎はその度にピクリと反応して、とうとうしびれを切らしたようにこちらを振り向いた。
「寛、あのさ、…ここ、使う?」
「……ここって?…使うって?」
「足の間…、って言うか、太もも?…ここなら痛くなさそうだし。」
「いや、…でも…。」
「寛がこんな風になってるのって、わんの事考えてるからやんに?…それってなんか、嬉しいとか、思っちゃって。」
「裕次郎…、無理してあびてないか?」
「大丈夫やっさ、こんくらい出来なくてどうやって次に進むばぁ?」
にやりと笑いながら言う裕次郎の表情からは、不安の色は感じられなかった。
「うわっ、これホントにしてるみたい…、寛、気持ちいい?」
「うん、…でーじ。」
「固くない?」
「うん、…柔らかくて、あったかい。」
「そっか、よかった…もっと動いていいよ。」
「いや、…今勃ちすぎて痛い…から、これ以上動けん。」
「ははっ、じゅんにか、…わんはこれ、裏の微妙に当たってるところがこすれてくすぐったい。」
「…ん、…わっさん‥。」
「ううん、別に嫌な感じはしないから。」
はぁ、どうしてこんなことになっているんだろう。
自分ひとりだけ気持ち良くなろうだなんて、そんな虫のいい話に簡単に乗っかって。
他でもない裕次郎の提案と、この欲の解放という誘惑に、
対抗する術も、拒めるだけの理性も、持ち合わせてなどいなかった。
だけど本当に気持ちが良くて、段々とそんな思考もバラバラになっていく。
どうして俺、こんなに興奮してんだろ…、相手が裕次郎だから?
こんなこと、他の誰ともしたことが無いし、ホントの所は分からないけど。
「は、ぁっ、…裕次郎、しに、気持ちいい…っ、これ以上動いたらすぐにイってしまいそうやっさ。」
「よかったぁ…気持ちよくないって言われたらわん、泣きそう。」
あ、キスがしたい。
へへっ、と照れたように笑う裕次郎を見て思った。
だけど、あの柔らかく笑う唇には、届きそうもない。
少し無理をして体重を前に傾けると、
裕次郎が苦しそうな顔をしたので、慌てて謝って元の位置に戻った。
今は我慢して、ふくらはぎに口付ける。
ああ、柔らかい。どこに触れても、裕次郎の肌は柔らかい。
柔らかい、温かい、触れたい、可愛い、好き。
裕次郎、裕次郎、好きだよ、大好きだよ。
「ぅ、…ん…っ、裕次郎、…ゆ、じろっ…。」
「ん?…っん…、なぁにっ?」
「…ふっ、…裕次郎、は、ぁ、…裕次郎、わんの事、好きっ、か?」
「うんっ、…しちゅんど、…でーじっ…。」
「…ほんっ、ホントに…?」
「こんなーして、嘘な訳、無いやんにっ…、……かなさんど、寛。」
「ぅっ、…や、ばっ、…イキそう、…イってもいいか?イってもいっ?」
「んっ‥、え?…わっ、いいよ、イっていいよ、イキな?」
裕次郎が、ごくりと唾を飲む気配がする。
見られている、俺の全部、見られてる。
だけどもう、恥ずかしくなんてない。
体中が熱くなって、頭もぼうっとしてきて、視界はピントが合わないのに、
裕次郎の唇の動きだけは、何故かはっきりと捉えられた。
「ゆ、じろ、‥ぃッシュ、ぅっ…。」
「え?…なに?なんてあびたの?」
「ティ、ッシュ、…んっ、ダメもう無理っ、ごめっ、ここに出す、
んっ、んんっ…ん――…っ、はぁぁ…、はぁぁ…っ…。」
汚すだけ汚して、拭う事もしないで、吐き出したものもそのままに、
ただ崩れ落ちて、荒い呼吸を繰り返す。
そんな俺の背中を、愛おしそうにぎゅうっと、強く抱きしめて、
優しくさする温かい掌がある。
裕次郎、俺とこんなことしてもいいって、本気で思ってくれたんだ。
好きだからしたいって、思ってくれたんだ。
どんな言葉で説明されるより、確かに受け入れられていると、強く感じる。
どうしよう、嬉しくてたまらない。
上体を起こし、裕次郎の柔らかい唇にキスを落とす。
するとその頬に、滴がぽたりと落ちるのが見えた。
「寛、どうして泣くの?」
「分からん、…嬉しい。」
「そっか、わんも嬉しい。」
そうか、泣いてるの、俺か。
好きだよ、裕次郎。
本当だね、嬉しいと、なんでか涙が出てくるみたいだ。
*
「寛ぃ、玉ねぎ食べて。」
「うん。」
「ピクルスもいる?」
「うん。」
「今日さ、うち来る?…皆にーにーの店手伝いに行くってよ。」
「妹は?」
「妹も店で待つって。」
「へぇ。」
「来る?」
「うん、別にいいよ。」
「…ねぇ、意味わかってる?」
「え、何が…?」
「だーかーらー、うちに来たらふたりきりって事、…わんはー、寛としたくて誘ってんの。」
「あ…あぁ、そうなのか?無理さんけーよ。」
「無理してないさぁ…、あの時の寛の感じてる顔とか、イク時の顔とか思い出したら、
緊張とか全然なくなって、むしろもっかい見たいとか、…最近そればっかりやっさ。」
「あげっ!ここ外やんどー!そんな事あびらんけーや!
………外じゃなくてもそんな事あびらんけー…。」
「ははっ!」
「ははって…。」
「わっさん、わっさん。」
「はっせー、しに恥ずかしい。」
「はははっ。」
「…。」
「んで、それでも今日、来きてくれますか?」
「…あたりまえやっし。」