「はぁ…。」

帰り道、ひとりため息をこぼしてしまう理由はたくさんあった。
でもその原因はたったひとつ。
知念寛。彼の心ひとつで俺は今、こんなにも悩まされている。

姉の命令でバレンタインのお菓子の材料を買いに行かされた店の手作りお菓子コーナー。
そんなところであいつに遭遇するなんて微塵も思っていなかった。
それも彼女の為に作るお菓子の材料を買いに来ただって?
こんなに長い付き合いなのに俺には彼女が居る事を一切教えてくれなかった事にも腹が立つし、
さっきの自分の行動がただの八つ当たりだって分かってるから余計にため息が出る。
嫉妬心でモヤモヤとしてくる心に自己嫌悪。
彼女の居る寛に対してじゃない、寛のものになれたあいつの彼女に対しての嫉妬。
でも、だって、俺はそんなに聞き分けがいい子じゃない。

「あいっ、凛くん。」
「…あぁ、裕次郎か。」
「ああって…どうしたんばぁ?そんな暗いちらしてから。」
「まぁ、大体いつもと同じ事やっさぁ。」
「ああ…寛?」
「ん。」
「なんかあった?」
「寛がいなぐに作るお菓子の材料買ってた。」
「えっ、寛にいなぐなんて居たっけ?」
「だよな、知らなかったあんに?」
「うん。…たーがよ、それ相手。」
「しらん。嫌味言って逃げて来たから、俺はなま落ち込んでるわけよ。」
「あー…。」
「俺にくらいいなぐが出来たって教えてくれてもいいあんに?」
「確かにやぁ。たーがいなぐか気になるね。」
「ん。」
「あっ!…いや、でもあにひゃー振られたって泣いてたし…。
やっぱり付き合うことにしたのかやぁ?部活が忙しいって言ったくせに。」
「寛いなぐ振ったのか?」
「うん。ほら、わったークラスのさぁ、いっつもからじふたつ結びにしてる…
結構うじらーさんやしが名前が。わんあにひゃーと全然しゃべらんし。」
「ああ、あいつか。それなら知ってる。でもそれもう先月位の話あんに?」
「そうそう。」

友達の中でも特に仲良くしている裕次郎には何でも話せるような気がする。
もっぱら恋愛関係の話ばかりなのだけれど、でも状況が少し似ているから。
それに裕次郎も俺には他の誰にも言えないような秘密を打ち明けてくれるし、
いくら親友だからって寛本人には恋愛相談なんて出来ない。

「…えー、裕次郎。」
「ん?」
「あにひゃー、やーを探してるんじゃないのか?」
「たーがよ。」
「あれ。」
「あ、永四郎。」
『裕次郎、こんなところに居たの。』
「どうしたの永四郎?」
『どうしたのじゃないよ、おばさんがまた裕次郎が帰ってこないって言うから。ウチにお酒届けに出たんじゃないの?』
「あぁ…忘れてた。」
『はぁ…君はいつもそうだよね。ちょっとはしっかりしなさいよ。』
「んー…。ごめんちゃい。」
『で?これを届けに来たの?』
「うん。」
『はい、片方持つよ。』
「にふぇー。」
「…はぁ。」
ぬーがよ凛くん、ため息なんかついて。」
『凛ク…平古場クン、居たの。』
「…見えてなかったのかよ。まぁ、それほどまでに裕次郎の事ばっか考えてたんだな。
いったーは本当、いつまで経ってもラブラブだよな。」
「そお?普通さに。」
『ええ、普通です。』
「あにひゃーだったらまず迎えに来ない、探しにも来ない。」
『ああ、知念クン?』
「なんで分かるんだしよ。」
『大体で。』
「はぁ、俺そんな分かりやすいかな。」
「うん、わかりやすいですよ。知念クンくらい。」
「…まあいいか、いったー永四郎の家に行くならこっちだろ。俺こっちだし、じゃーな。」
「あぁうん、また明日ねー。」
「おー。」

あのふたりが仲がいいことは良く分かっているけれど、
でもお互いがお互いを大切に思っているという事が分かり合えて、
伝え合える関係であることが、時々無性に羨ましくなったりする。
俺達もあのふたりの様に恋人という関係になりたいとまでは言わないけれど、
せめて何でも話せる間柄にはなっていたかった。
実際俺は何でもあいつに話していたし、だから向こうも同じだと思っていたのだけれど。
たった一人の幼馴染なのだから、もっとお互いに分かり合いたい。


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