「はい、探してみます。いえ…いえ、気にしないでください。はい、では。」

―ガチャッ―

今日もまた、甲斐クンの母親から裕次郎が帰ってこないと電話がかかってきた。
そんなことは日常茶飯事だから、俺は指して気にもせず動揺もせずに彼を探しに出かける準備をする。
ただ、一番引っかかるのは甲斐クンが俺の家への届け物の途中で居なくなったということだ。
彼には俺に会うよりも楽しくて、夢中になれるものがあるというのだろうか。
そう思うとなんだか面白くない気分になった。

「じゃあ、いってきます。」
『あ、にーにー待って!』
「ん?」
『あのね、バレンタインのチョコレート、みんなの分作ってたら材料が足りなくなっちゃったの。
だからにーにーが出かけるならついでに買ってきてくれないかなって。』
「…それ、俺の分もあるの?」
『え?なんで?あるよ、もちろん。』
「そう、それなら買ってくる。」
『うん、ありがとう。ええとね、買ってきてほしいのは…ミルクチョコレートと牛乳と…


そういうわけで買い物に来てみたら、甲斐クンではないけれど見知った顔を見つけた。
少し離れた場所に居ても、あんなに細くて背の高い人物は滅多に居ないから後姿ですぐに分かる。
俺は棚の上から見え隠れしている白い頭を目印に彼の方へと向かった。

「知念クン、妹さん達の買い物の付き添いですか?」
「っ!?…あ、あぁ…永四郎か…脅かさないでくれ。」
『あ、永四郎にーにーだ。』
『はいたい。』
「こんにちは。」
『あのね、今日はにーにーもっ…う〜、に゛ーに゛ー…』
「しーっ…余計な事あびらんけー。」
『わかったからぁっ、くるしい…手どけてっ。』

後ろから突然話しかけてみたら、知念クンは案外驚いたようで跳ね上がっていた。
なんだか意外で面白いと思いつつ、彼の妹さん達の挨拶に返事をする。
それから彼の妹さんが何かを言おうとしていたみたいだけれど、
知念クンが彼女の口を押さえてしまったので良く聞き取れなかった。
俺としても知念クン自身が言いたくない事なのであれば無理やり聞き出すつもりも無いので、
そこはあえて深く突っ込まないように話をそらす。

「俺はミルクチョコレートを買いに来たんですが、もしかしてあの派手な飾り付けがされているコーナーに置いてあるんでしょうかね。」
「あぁ、まぁ…。」
「そうですか、仕方がないですね。」
「…永四郎も誰かにあげるのか?」
「何をです?」
「チョコ、やしが。」
「あぁ…。」
「あにひゃーにはあげないのか?」
「まぁね、それより知念クンの言う“も”って言うのは誰を指しているんですかね。
永四郎“も”ってことは知念クンは誰かにあげるのかな?それとも妹の事かな?」
「っ…。」

知念クンが見た目によらず分かりやすい性格をしているということは、
いくらか時間が経ってからようやく分かった事だったりする。
そういうところが見ていて面白いから、俺はついつい知念クンをからかってしまうのだ。

「そんなに赤くならなくても相手が誰かなんて聞かないから安心してよ。」
「…。」
「じゃあ俺は甲斐クンを探しに行かなくてはいけないので、また明日。」
「あぁ…。」
『にーにー、今日はにーにーのお友達に良く会うね。』
「うん…。」

ところで甲斐クンはどこに居るのだろう。
家からこの店に来るまでには一本しか道が無いはずだから、
すぐ近くまで来ているならば来る途中で見つかるだろうと思っていた。
それらしき人物が見当たらなかったという事は、その途中で道草を食っているのだろう。
携帯を持っているくせに連絡が付かないというのはなんともいらだたしい限りだ。
それでもこうして毎回彼を探しに行くのは、案外自分もこの時間が好きだったりするからなのだけれど。

「すれ違っているという事は無いはずですよね…。」

もしも俺が帰るよりも先に彼が俺の家についているならば携帯に電話をかけてくるはずだから、
たぶんまだ何処かで油を売っているのだろう。
携帯に着信履歴が無い事を確認して俺はふたたび歩き出した。


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