「おい、小麦粉買って来たぞ。」
『まったく、なにが「おい、小麦粉買ってきたぞ。」よ。
あんたが寛君にちんすこう作ってあげたいって言うからこっちは親切に教えてあげるんでしょうが!』
「はぁー…、だったらもういいよ。姉ちゃんには悪いけど、今回は中止って事で。」
『あら?…どうしたの?凛がそんな反応するなんて珍しいわね。』
「別にー。なんかもう作る気無くなったし。」
『あー、わかった。あんた寛君と喧嘩したんでしょ?』
「っ…、喧嘩じゃねーよ!あれは喧嘩じゃない!寛は…悪くない。」
『…って事はあんた、またやっちゃったのね。』
ねーねーは、俺が寛に友情的な意味じゃなく好意をよせている、という事を知っている。
このことを裕次郎意外に話したのは初めてだ。
さすがに親には言えないけれど、気が付くとねーねーにはすべてを話していた。
というより、どういう経緯かはとっくに忘れたけれど、
気が付いたらねーねーにはすべてバレていたような気がする。
なにはともあれ、ねーねーはそれから色々な事で俺を応援してくれている。
「…くそっ!あーっ、もう、どうすればいいんだよ、俺は寛の事となるとすぐに見境がなくなる。」
『そこまで分かってて反省出来るんだったら、普通は同じ失敗を繰り返さないように気を付けることも出来るはずなんだけどねぇ…。』
「はぁー…、けどついカッとなって。」
『傷つけるようなこと言った、と。』
「うわぁー、もうダメだ、今度こそ終わりかも…。」
『何弱気になってんのよ、寛君はそんなことを根に持つような子じゃないでしょ。』
「そうだけどさー…。」
『で、今回はなんでそんな風になっちゃったわけ?』
「…先に言っておくとこれは俺が一方的に悪いんだけど。」
『まあ、いつものことじゃない?』
「…実は寛に彼女がいたらしくてさ、それを教えてくれなかったのが悔しくてつい…って今考えるとマジで馬鹿みたいな理由だな。」
『…あらら。』
「おい、こっちは真剣に話してるんだけど?」
『分かってるわよ。でもそうなってくると凛がかわいそうに思えてきたわね。』
「は?どうして?」
『だってね、寛君てどう考えても付き合った人を大切にするタイプじゃない?それが友達だろうと恋人だろうと、
なかなか人を寄せ付けない分、一度仲良くなったらとことんその人達を大切にするでしょ。だから凛が何しようが今まで仲良くしてくれてたわけよ。』
「…。」
『もう私が何を言いたいのか分かったでしょ?』
「…あー、これもう俺しばらく立ち直れないかも。」
『うーん、まぁとりあえずバレンタインは渡したら?お詫びも込めて。』
「んー…。」
『まぁまぁ、寛君のことを一番分かってるのは凛だってことに気付いてもらおうよ。』
「うん。」
『ちゃんと愛情込めて作りなさいよ?』
「ん。」
『ほれっ、ファイトー!』
それから俺は、ねーねー監督のもとでちんすこうを作った。
もともと手先は器用なほうだから、わりに上手く出来たとは思う。
心配なのは、こんなにたくさん込めた愛情がちゃんと寛に届くかどうかだ。
受け取ってさえもらえなかったら、俺は本当に立ち直れるのだろうか。
「はぁー、なんか無駄にパワー使った気がする。」
『ぷっ、あんたすごく真剣な顔して作ってたもんね。』
「意外と簡単に出来たけどなぁ。」
『でもなんでちんすこうなわけ?』
「…寛が好きだから。」
『いや、あんたが寛君好きなことは分かってるけど、だからってなんでちんすこうという発想になるのって聞いてるの。』
「だから、寛が好きだから。」
『…さっきと言ってること同じじゃない。』
「だーかーらー、寛はちんすこうが好物なの!」
『え?あぁー、そういう意味!あはははははっ、あの子意外に甘いもの好きなのねぇ。
なんだかいつもコーレーグースかけてるイメージしかないから甘いもの苦手なのかと思ってたわ。』
「そうだけど、普通一回で分かるだろ。」
『んー、他の子なら分かったかもしれないけど寛君じゃあねぇ…あまりにもイメージからかけ離れてるって言うか。』
「まぁな、あんな見た目だし。あいつは甘いもんも辛いもんも苦いもんも好きだし、
逆に嫌いなものの方が少ない位なんだけどなぁ、なんであんなガリガリなのか不思議だ。」
『そうねー。…さてとー、片付けしよう。ほら、美化委員、早くこれ洗っちゃって。』
「美化委員は寛!俺は風紀委員!」
『ぶっ、そうだったそうだった。何回聞いても笑えてくるわ。あんたが風紀委員って!あはははっ。』
「…もういいよ、どうせ俺が一番風紀乱してるとか言うんだろ。」
『よくわかったわね、自覚あるなら直しなさいよー?』
「ちっ、うるさい。」
『舌打ちしたな、せっかく親切に教えてあげたって言うのに…。』
「姉ちゃんがうるさいからだ。」
『あ、ねぇー、じゃあこれちょっと食べて良いー?作ったやつ。』
「わぁー!ちょっと待った!綺麗に出来たやつ残しといて!まだ分けてないから!」
『くくくっ、そんなに必死にならなくても分かってるって。』
「…。」
『いっただっきまーす。………ん、おいしっ。』
「ホント?」
『ん、おいしいよ。』
「良かった。」
『んー、これで頑張れ。』
「うん。」