「ほら、材料買って来ましたよ。」
『あ、ありがとうお兄ちゃん。』
「どういたしまして。」
『…あれ?牛乳が無い…。』
「………。」
『いや、大丈夫だよ。私今から買ってくるし、お兄ちゃんはお家でゆっくりしてて?』
「いえ、俺が買いに行きます。頼まれて居た物を忘れたのは俺の責任だからね。」
『あ…ええと、ありがとう?』
「うん、それじゃあ行ってきます。」
『いってらっしゃーい…。』
俺とした事がうっかり頼まれていたものを買い忘れた。
案外甲斐クンのことを心配していた所為もあるのかもしれないけれど、それは理由にならない。
それに、どちらかというと甲斐クンを探す事に夢中になりすぎて忘れたようなものだから、これは俺の責任。
本来手本にならなければいけないはずの俺がこんな有様じゃどうしようもない。
いつか本当に甲斐クンのことしか考えられなくなってしまったらどうしようか。
「えーしろー、俺もう帰るよ。」
「ええ、送って行きます。」
「え?なんで?一人で平気だよ、女じゃじゃあるまいし。」
「はぁ、本当に君がこのまま帰るんだったら心配は要らないんですがねぇ。」
「うっ、これからは気を付けます…。」
「まぁ、とにかく今日は送って行きますよ。」
「いいって。」
「いいから、…俺に送らせてください、裕次郎。」
「…んー、そこまで言うなら。」
「本当は俺も買い物があるだけなんだけど。」
「なんだよそれー、先に言えし!」
「でも、もう少し裕次郎と居たいって理由もあります。」
「っ…、はいはいそうですかー。」
「顔、赤いですよ。」
「う、うるさいな。」
顔を赤く染めながらも、俺が握った手は離さない。
ここが外であるとかそんなことがどうでも良くなるくらいには、
彼は俺を好きであるという事実を受け入れることが出来ているみたいだ。
「ねぇ、繋いでる方の手が冷たくなりすぎて痛い。」
「ふーん、それは手袋でもしてこなかった君の責任でしょ。」
「…。」
「冗談です。どっちがいい?このまま手を離すか、それとも俺のポケットに手を入れるか。」
「んー…。」
「迷うほどの事なの?」
「でもあれ、俺の兄ちゃんじゃね?」
『あれ、裕次郎もう帰って来たのか?…と、永四郎じゃん。何してんの、手なんか繋いで。』
「ええ、引っ張って来たんです。こうでもしないとここまで連れて来ることは出来ないと思いましてね。」
『あぁー、確かになぁ。裕次郎もいい加減しっかりしろよー?もう子供って歳じゃないんだし。』
「えー…でもぉ。」
『まぁ、お前はすぐ寄り道するし、勉強嫌いだし、ゴーヤーも食べないし、お菓子ばっかり食べてるし、まだまだお子様だよな。』
「ちぇー、でも俺モテモテだもん!今年のバレンタインも兄ちゃんなんかの何倍もチョコレート貰っちゃうもんね。」
『はいはい、そうですか。そういうこと言うところがお子ちゃまっぽいの。』
「いいもん、どうせお子様ですよ。もし兄ちゃんが1個もチョコもらえなくても俺の分わけてあげない。」
『いいよ、俺彼女居るし。』
「ぐっ…。」
『まぁ、お前は彼女居ないし、好きな子から貰うチョコレートの美味さも知らないんだろうなぁ。』
「なんでよ!俺だって好きな子くらい居るし今年は絶対くれる!」
『どうかなぁ〜。』
「ねえ…甲斐クン、俺はそろそろ帰るよ。」
「あ…うん、送ってくれてありがとう。」
『えーしろーばいばーい。』
「さようなら。」
もしかして、その好きな子っていうのは俺の事だろうか。そうだったらとても嬉しい。
去年までは単なる幼馴染として接していたからバレンタインにチョコレートを渡すなんて事は一切考えていなかったけれど、
今年は恋人同士としてその日を迎える事になるわけだから、一応何かしらは用意するべきなのだろうか。
いや、甲斐クンはつい先ほど威勢よく“今年のバレンタインに好きな子は絶対にチョコレートをくれる”というような事を言っていたのだから、
逆に言うと、今年のバレンタインに俺は絶対に甲斐クンにチョコレートを渡す、という事になる。
さて、それならばどうしようか。なにをあげようか。
そんなことを考えながら歩いていると、あっという間に家へ辿り着いた。
「ただいま。」
『あ、お兄ちゃん、牛乳買ってきてくれた?』
「あ。」
『え!忘れたの?…まぁいいや、やっぱり私が行ってくる。』
「…いえ、俺に行かせてください。今度こそちゃんと買ってきますから。」
『…。』