「凛くーん!りんくんりんくんりんくんっ!待って、帰んの?」
「えー?まぁ。」
「今日なんか用事ある?」
「んー、永四郎誘ってなんか食いに行こうかなぁって、そんくらい。」
「…また永四郎かよぉ〜、最近仲良いな。」
「おぅ、ちゃんと話してみたら意外に面白くってさ、気合っちゃったって言うか、一緒に居て楽しいし、落ち着くんだよな。」
「へぇ…。」
「んで?俺になんか用じゃなかったのか?」
「あぁー、今日俺も一緒についてっていい?たぶん寛も来るって言うと思う。」
「えー?まぁ、良いけど。」
「本当に?やった、寛誘ってくる!」
「おぅ、俺も永四郎誘わねーと。」
・
「俺も凛くんの隣座りたかったなぁ…。」
「あのな、お前らがふたりでさっさとそっち側座っといて言う事じゃねーだろ。」
「だってさぁ、俺だけ凛君の隣先に座っちゃうのってなんかズルくない?…でも永四郎がそっち座るなら一緒だったなぁって。」
「まぁ、わざわざ席を変えるのも面倒だし、このままでいいんじゃないか?」
「そうですね、俺もそう思います。」
「…そっか、ならいいや、我慢する。」
「裕次郎エライエライ。」
「ぬ…なんかちょっとバカにされてる気がする。」
「してねぇって、マジで。」
「ならいいけどぉ。」
佐世保バーガー2階、4人掛けの席に2対2で座る。
そうなれば当然俺の隣には一人しか座ることが出来ない訳で、その一人は必然的に永四郎になる。
それはもう、仕方のない事だ。
なんだかんだ恨めしそうにこっちを見ている裕次郎も、ちゃんと寛を奥に座らせてお互いに利き手がぶつからないように気を配っている。
そこまで気の回らない俺は先に奥の席に陣取ってガンガン腕をぶつけてたりするから、ちょっと感心したりもして。
けど、腕がぶつかった時にごめんねって申し訳なさそうに笑う表情とか、お互い中心に向かって座っている所為で触れている足の体温とか、
そういうのがあったかくて、くすぐったくて、ちょっとだけ幸せだ。
「…永四郎はそれ、何を食べているんだ?」
「新しいのが…出ていたので、チャンプルーバーガ―だそうです。」
「うわっ、何それ旨いの?」
「えぇ、まぁそれなりに…、食べる?」
「おぉ、食う!あー…、ん。」
「美味しい?」
「…う、んっ!?…ぅえっ、にっげぇえぇ…、これゴーヤー入ってるだろ?」
「えぇ、ゴーヤーチャンプルーが入ってますね。」
「それ先に言えってぇ…。」
「ごめんね、ちょっとだけいじわるしたくなっちゃった。」
「もぉー…。」
「…ふたりはホントいつの間に、仲良しだね。」
「まぁなー、この前なんか俺、永四郎に名前呼び捨てで呼ばれちった。」
「え、そうなんだ…、なんかちょっと悔しい、な。」
「………裕次郎。」
「ん?なに、寛。」
「ねぎ。」
「え?」
「玉ねぎ、食べてやるからここ入れろ。」
「…ありがと。」
「寛やっさしぃ〜。」
「煩い…。」
「つーか、俺思うんだけどさぉ…、お前らのが絶対お似合じゃね?」
「はぁっ!?いきなり何言い出すば?」
「っ…。」
意味が分からないって顔をする裕次郎の隣で、寛だけがピクンと一瞬だけ、小さく反応したのを見逃したりはしない。
俺を迎えにくる前、俺ん家からの帰り道、俺が永四郎と居る時。
今じゃ俺以上に長い時間を共有しているふたりだから、きっとその心境にも変化はあるのだろう。
だからこそお互いに細かいところまで気付き、理解している。
そういうふたりが一緒になって、何がおかしい事だろう。
「俺がこんなこと言うのも変だけどさ、お前らずっと一緒に居るしさ、
俺の事があるから同じ様な立場で同じような事考えてんだろ?
前から言動とかけっこー似てんなぁとか思ってたしよぉ、お互い気も使えるし、
もうお前らが付き合っちゃえば?とか、思う訳ですよ。」
「や、意味分かんないから!何言ってんの凛くん。…ねぇ?」
「あ、…あぁ?」
「そうですね、俺から見てもふたりはお似合だと思います。」
「もぉ、永四郎まで何だよ!からかうならもっと他にあるだろ?」
「まっ、お前らふたりがどーなるかは裕次郎次第じゃね?」
「はっ?なんで俺?」
「寛の方は、まんざらでもなさそうだからなぁ。」
「えっ…。」
「ガンバレよー寛、応援してんぜっ。」
帰り道はとても静かだったけれど、急にぎこちなくなったふたりの様子を見ているのはなんだか面白かった。
こんな風に他人の恋愛事には端から首を突っ込んで笑いながら見ていられるのに、
何故だか、微笑ましいですね、って夕日に照らされた笑顔を向けられただけで、
それだけで頬が熱くなって、もう次に続く言葉が出てこない。
いい加減に自覚をしなければいけないのはきっと、俺の方だ。
頑張れなんて言ってる場合じゃないのもきっと、俺なんだ。
*
「永四郎、これ美味いよ…あーん。」
「…え?ぁ、うん?」
やっぱり何か違うんだなと、外で見せる顔とは対照的に、
戸惑った様子を見せながらぎこちなく俺の差し出したフォークに口を付ける永四郎をみて思った。
きっと永四郎は、意志ではなく責任感で、義務感で俺と居る。
誘いは断らない、でも自ら近づく様なこともしない。
本当に付き合っている訳でもないのに恋人面してる俺ってマジで、バカみたいだ。
そんなのはいつも考えてることだけど、永四郎はこんな俺のこと、本当はどんな風に思っているのだろう。
「あの、さ……永四郎、…もうさ、俺達付き合ってるフリすんの、やめにしねぇ?」
「え…、どうしたんですか?急に。」
「…正直さ、こういう事してると色々辛いんだよ。」
「…辛い?」
「俺はさ、正直、多分、結構、…永四郎の事が好きだ。」
「…。」
「つーかガチで好きになっちゃったらさぁ、永四郎と一緒に居らんなくなるの嫌でふたりに何も言えなくなるしさぁ、
永四郎も助けるって言った手前俺の誘いとか全部断れなくて困ってんじゃないかなぁとか色々考えてしまうしさぁ、
なんかずっとモヤモヤしてんのもう嫌なんだよ。だからさぁ、いっそハッキリ決着つけたいっていうか…、わかるだろ?」
「…。」
「永四郎には義務とか、最初からそんなん無ぇからさ…、嫌だったらいやだってそう言ってくれていいから…、
永四郎の意志でな、俺の傍に居てくれるかどうか決めてほしいんだよ。」
「…俺は、一度たりとも義務感や責任感で君と居たつもりはありません。」
「…え、…。」
「そんなこと、当たり前でしょう。」
「じゃあ…。」
「けれど、それとこれとは話が別です。」
「ねぇ…。」
「平古場クン、そういうのは無しだよ。俺はあくまで君の“恋人役”なんですからね。」
「けど、もうやめにしたい。フリとかじゃなくて永四郎と一緒に居たい。好きだって言った時、本気で言ってるって受け取ってもらえるようになりたい。」
「ははっ、…君は人をその気にさせるのが上手いね。」
「永四郎…。」
「よしてください、勘違いしそうになる。」
「勘違いって、何。」
「…ミイラ取りがミイラに、なんて笑えないですよ。俺まで君の事が好きだなんて言い出したら、何のために君に協力したの分からなくなってしまうでしょう。
今度は俺が、君の悩みの種になるかも。同じ事の繰り返しです。そうなった時君は、一体誰に頼れるって言うの。」
「…違う、永四郎はそんなんにならねぇもん。」
「何故そう言い切れるんです?」
「永四郎だから…、俺が好きになったのは、永四郎だけだから。」
「でもね、」
「俺っ…、きっとやろうと思えば寛でも、裕次郎でも、…手繋いだり、…キスもっ、で、出来ると思う。」
「…。」
「けど、けどな…、その先は、多分、無理。…なのに、永四郎とは…そういう事、考えられるんだよ。」
「…。」
「恋人になりたいって、多分そういう事だと思う…他の誰とも違う、特別だから、どうしても欲しくなったりすんだよ。」
「…。」
「永四郎…。」
「まったく困りましたねぇ、…どうやら俺では君に、敵わないようです。」