4月の末に引越しを終た千歳は、荷をといて部屋を整理し始めた。
今日から新しく住む事になったこの部屋は、独りで住むには十分な広さだ。
風呂もトイレもちゃんと付いているし、寝室までちゃんとある。
ただ、千歳が寝れる大きさのベッドとなると大きさもそれなりなわけで、
寝室は本当にベッドが置いてあるだけの寝るための部屋になっている。
片づけもひと段落して、部屋を見渡す。
「ふう、なんとか片付いたばい。」
一息ついて、なんとなく散歩をすることに決めた。
鍵と財布だけ持って家を出る。学校の下見を兼ねて近所をぶらぶらすることにした。
しばらく歩くと目的の学校が見えてきた。大阪府立四天宝寺中学校。
外観は思ったより年季が入っているけれど、広くて落ちついた感じのする校舎だ。
しばらく外から眺めてからふらふらと中にはいって見学する。
連休中ということもあって人の姿は見当たらなかった。
気がつくとテニスコートの前まで来ていた。やっぱりそこにも人の姿はない。
しばらくぶらついてから学校を後にした。
そのままふらふらと歩いていると、たこ焼きの良いにおいがしてきた。
そういえば今日は朝から何も食べていない。
ちょうどおなかもすいたし、たこ焼きでも食べようか。
そう思って屋台の方へ踏み出した瞬間、
向こうの方から『こら!金ちゃん落ち着きや!』いう声が聞こえたかと思うと
次の瞬間にドッっと鈍い音を立てて何かが体に当たった。
それは思ったよりも勢いがあり、体がグラっと揺れる。
あっと思った時にはもう、その何かを巻き込みながら地面に倒れ込んでいた。
「っ…いたかぁ。」
『ああ、やってもうた…。だからあれほど言うたのに…、金ちゃん。』
ぶつかってきた人物の肩越しに見える手に包帯を巻いた男が残念そうにつぶやいた。
「わわ!すんません!怪我してへん?どっか痛いとこない?…あの、手つかまって。」
巻き込んだものの正体は赤い髪をした割と小さい少年で、
あれほどの力でぶつかってきたのが目の前の人物とは到底信じられない。
だけど差し出された手に捕まるとすごい力で引っ張られて、
これだけの体格差なのにいとも簡単に立ち上がらされた。
「おいしょっと……ってデカ!自分何センチなん?どうやったらそないにおおきくなれるん〜??」
「…194cm…馬刺しば食べてたらこうなったったい。」
「ええ!馬刺し食べたらそないにおおきくなれるん?なあなあ!」
「……。」
どうしたものかと考えていると、ゴツンと音がして、赤髪の少年が涙目で自分の頭を押さえる。
「う〜、白石〜。」
『金ちゃん!やから俺があれだけ気いつけやっていったやろ?金ちゃんにぶつかられたらひとたまりもないんやから!』
「せやけど…。」
後ろから来た白石と呼ばれる少年に叱られた赤髪の少年は、急にしゅんとしておとなしくなった。
「あの…。」
『おお、そやった。すんませんねえ、うちの金ちゃんが迷惑かけてもうて。』
ほら、金ちゃんも頭下げえ!といって赤髪の少年の頭をグイッと下げさせる。
「ああ、いや、大したことなかばい。」
できるだけ優しくそう言うと白石と呼ばれた少年と目があった。
その瞬間、彼の目が見開かれ、ほんのり頬が赤く染まった気がした。