ガラガラガラッ
朝、学校について早々謙也が俺のクラスに来て話しかけてきた。
「千歳ー!聞いたでー、おまえ全然テニス弱ないやんけ!九州二翼とか言われてめっちゃ強かったらしいやん。」
「…。」
「なあ、そうなんやろ?せやったら一緒にテニスやろうや。」
「すまんばってん、それはできん。」
「なんでや。才能あるのにもったいないやん。」
「俺はもうテニスはやらないって決めたけん。」
「なんでなん、なんか理由があるなら言ってみーや。」
「けじめたい。だから今はテニスやる気はないと。わかってくれんね。」
「けじめ?」
「そう。」
謙也は納得のいかない顔でしばらく考えていたけれど、
それでもそれ以上は追及してこないでくれた。
「…。わかった。でも気が変わったらいつでもきーや。」
「ああ、ありがとう。」
それから少し残念そうに自分の教室に帰って行った。
その日はなんだか授業を受ける気になれなくて、
3時間目の授業が終わってすぐに教室を抜け出して裏山のほうに向かった。
そこに一匹の野良猫を見つけて近寄ってみる。
割と動物には好かれやすいほうで、その猫も少しも警戒せずにそこにとどまっている。
裏山の芝生に寝転がって猫のあごをそっとなでる。すると猫も隣に寝転がった。
しばらくなでているとだんだん眠くなってきて、そのまま眠りに落ちていった。
キーンコーンカーンコーン…
校舎のほうから小さく鐘が聞こえた。昼休みになったらしい。
隣に寝ていた猫はいなくなっていた。
体を起こして制服に付いた葉っぱをはたいてから立ち上がる。
それから教室に戻るとクラスの女子が話しかけてきた。
「あ!千歳君やん!どこいってたん?」
「なあなあ、一緒に弁当たべやん?」
「えー、うちらと一緒に食べようやー。」
一気に話しかけられて困っていると、白石が教室にやってきた。
「あ、おったおった。もうどこ行ってたん?俺らと弁当食べる約束してたやんか。はよ来いや。」
「お、おお、今行くばい。」
「えー、なんやぁ。白石君たちと食べるんかぁ。ほな、今度は一緒に食べような。」
「うん、わかったばい。」
状況はうまく飲み込めなかったが、とりあえず弁当をかばんから取り出して白石のほうへ向かう。
誘ってくれた女子たちは残念そうにしていたけれど、ちょっと助かったかも。
それから白石の教室で謙也と3人でお弁当を食べる事になった。
「すまんばってん、約束した覚えがなかばい。」
「…あんなんでたらめやん。なんか千歳君困っとったみたいやし、助け舟だしたっちゅーわけや。
あ、もしかして女子と弁当食べたかったんか?そんなら悪いことしたな。」
「あ、そげんこつおもってなかよ、ありがとう。」
「おー。」
「なー、白石―。自分顔赤いでー。」
「そ、そんな事ないやろ、普通や普通。」
「そうかー?それが普通やったらだいぶ不健康な体質やな。」
そんな事を話しながら弁当を食べていると、突然教室の扉が勢いよく開いて、
ほうず頭の眼鏡をかけたやつと、緑のヘアバンドをしたやつが肩を組みながら入ってきた。
「おー、小春にユウジやん。どーしたん?」
「1組にイケメン君が来たって言うから見にきたのよーん。」
「ちゃうやん、小春。俺らはめっちゃテニスが強いやつが来たって言うから見にきてんねやろ。
教室にいってもいないから聞いてみたら、女子が白石と2組に行ったって教えてくれてん。」
「なんだか皆ざんねんそうだったわよ〜。」
「そーなん?よかったな千歳。自分モテモテやん。」
「君が千歳君?いやーん!本間にイケメンやんかー。ロックオン☆」
「ろっく…おん?」
「小春―!浮気かー!しなすどー。」
「…。」
あまりの迫力に呆気にとられていると、白石が2人を紹介してくれた。
「千歳、突然でびっくりしたやろ。あんな、この二人は俺らと同じテニス部のレギュラーで、
こっちのメガネ掛けたほうが金色小春、そっちのヘアバンドのほうが一氏ユウジ言うねん。」
「よろしくねーん☆」
「よ、よろしく。」
「なあ、自分運動部はもちろんテニス部に入るやんな?」
「え。運動部は?」
「せや。この学校全員運動部と文化部掛け持ちやねんで。」
「へ、へー。」
「で、テニス部に入るんやろ?」
「…残念やけど、そのつもりはないったい。」
「え、なんでなん?」
「うーん、それはまだ教えられん。すまん。」
「…そうかー、でも熊本ではめっちゃ強かったんやろ?やらなもったいないとおもうけどなー。」
「ユウくん。」
「あ、ああ。でもせっかく強いやつがいんねやから一緒にテニスしたいやん。」
「その気持ちはわかるけどな、千歳君にやっていろいろ事情があんねやから。」
「せやな、わるかったな、無理言って。」
「気にする事なかばい。」
最初は迫力に押されて若干引き気味だったけれど、案外いい奴らみたいだ。
それから結局2人も混ぜて一緒に昼休みを過ごした。