放課後。部活にもまだ入っておらず特にする事も無いので、
取り合えずさっきの裏山を散歩してみる事にした。
さっきの猫が自分のことをまっていてくれたかのように現れた。
近くによって腰を下ろし、猫の頭をなでる。
「はぁ、おまえならどうする?」
「にー?」
「好きな事と大切なやつ、どっちかひとつを選ぶっていうのは難しいもんったいね。」
「にー…」
「もしかしたら俺は、意地を張ってるだけかもしれん。ばってんこれは、けじめたい。あいつとの。」
「ふにゃー。」
「結平…。」
猫が俺を慰めるように擦り寄ってくる。
「慰めてくれるんか?はは、この年になってまだこんなに未練があるなんて、
情けない話ったい。だいたいもう6年もろくにテニスしてないって言うのに今更。」
そのまま地面に倒れこむ。
「ばってん、まだテニスば嫌いになれんでいると。」
「にやー。」
「だったら、俺らとテニスしようや。ここでまた、1からはじめたらええやん。」
「え?」
驚いて起き上がり、声のしたほうに視線を向ける。そこには白石が立っていた。
「まだテニス好きなんやろ?だったら俺たちとテニスしよう。」
「…。」
「すまん、勝手に話し聞いてもた。」
「…。」
「あんな、俺、千歳の右目の事も聞いた。そうなった理由も聞いた。」
「…。」
「やけど今の千歳の気持ちは、まだテニスやりたいって思ってんねやろ?
そんなら後の事なんもきにせんと、またはじめたらええやん。ここでなんもせんかった後悔するだけやで。」
確かにその通りだった。あの事故があってから俺は、テニスをする事を止めてしまった。
だけど6年間、ずっとテニスがしたくてたまらなかった。
もしかしたら自分は、けじめという言葉を言い訳にテニスをやめただけで、
本当はこの右目が使えなくなったことでテニスがそれまでのように出来なくなったということを
実感するのが怖くて逃げていただけなのかもしれない。
それを目の前のこの少年は、いとも簡単に暴いてしまった。
「なあ千歳、ここで聞いたことは誰にも言わん。それだけは絶対約束する。
だから全部一回俺に話してみやん?誰かに話すだけで、だいぶ違うと思うで。」
なんとなく、白石には全部話せる気がした。白石には、全部聞いてもらいたいと思った。
「実は…俺がテニスばやめたんは、実際にはもう6年も前の話ばい。
ばってん、ここではまだ2ヶ月も経ってない事になってる。
テニスをやめた理由は、白石も知っての通りあの事故があったからったい。
そこで俺は右目の視力をほとんど失った。6年経った今でもそれは変わらん。
それはテニスをする上でとても不利な状況やった。それで俺は逃げた。
口ではけじめだっていいよったばってん、それはただのいい訳ばい。
本当は怖かっただけなのかもし れん。テニスが出来ない自分を知るのがたいが怖かったけん。
結局俺は、6年間逃げ続けて、今も後悔してる。それで会ったばかりの6歳も年下のやつに簡単に見破られて。
ちょっとへこんでる。だけどあんときに、白石みたいなやつに出会えてたらちょっとは何か変わってたかもしれんね…。」
俺が一気に話すのを、白石はだまって聞いてくれている。
こんな事をいきなり話しても普通は理解出来ないだろうから全部はわかってくれなくてもいい。
ただ、誰かに話したことで確かに楽になった気がした。
「千歳、ちょっと聞いてもええか?なんで俺が、千歳にとって6歳年下なのか説明してほしい。」
「…いきなりそんな事をいわれてもわからんはずやね。実際には同い年やけど、
実は俺は今21歳で6年先の未来から来た人間と。やけん今は俺の方が6歳年上ってことになるったい。」
「…。」
こんなことは普通ならありえないし自分でもまだ実感していないから、
はじめから信じてもらえるなんて思っていないけれど。
やっぱり白石は訳のわからないというような驚いた顔をしてこっちを見ている。
「信じられんやろ、おれ自身もまだ信じられてないけんね。」
「…いや、思ってた事があたったわ。」
「え?」
「いや、おかしいと思っててん。やたらと大人っぽいし、周りのやつとなんか雰囲気違ったし。
こいつ本間は中学生ちゃうんやないか?って。そしたらマジに未来人やろ?そんなんびっくりしてあたりまえやん。」
「…。」
「なあ、俺思うんねやけど、千歳がここに来た理由っていうんは、もう一度テニスをするためやない?
未来に後悔を残さないために来たんやない?せやから、俺たちとテニスしよう。」
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「こちらは新しくうちの部に入った千歳君。転校してきたばかりでわからない事も多いとおもうから、そんときは助けたってや。」
「よろしくたのむばい。」
「きゃーん!千歳きゅーん!!やっぱりきてくれたのね〜。」
「小春―!!」
「先輩ら、キモいっスわ。」
「おー!千歳―!!テニス部はいったんかー!!わいが何でも教えたるで〜!!」
「金ちゃんに任せとったらこっちが不安っちゅー話や。」
「金太郎はん、ほどほどにしたりや。」
白石のおかげでまたテニスを始めることができた。
約束どおり、白石はあの話を誰にも話さないでいてくれた。
部活の皆にも割りとすぐ馴染めたのでよかったし、なんといっても6年ぶりのテニス。
右目が使えない事が怖かったけれど、思ったよりもちゃんとテニスが出来るみたいだ。
やっぱりテニスは楽しい。自分はまだテニスが好きなんだと、改めて実感した。
それと同時にここまで導いてくれた白石に、言葉では言い表せないくらい感謝した。
6月も半ばにはいると6年のブランクがあったにしては上出来というほどに勘が戻ってきていて、
レギュラーに入れるまでになった。
あれから白石にはよく相談に乗ってもらったりして、だいぶ仲良くなったと思う。
それからこれはなんとなくだけれど、最近白石がボーっとする回数が増えた気がする。